母から受け継いだサーブ 9-3を所有する21歳のオーナーがセカンドカーに選んだ2008年式トヨタ iQ 100G(KGJ10型)
自分にはない感性を持つ人と出会い、ハッとさせられることがある。
最近取材をしていて、独自の感性を持った若い世代のクルマ好きに出会う機会が増えた。今回紹介するオーナーもそんなひとりであり、個性的なクルマを所有している。
さっそく愛車を紹介してもらった。
「このクルマは2008年式のトヨタ iQ 100G(KGJ10型/以下、iQ)です。手に入れたのは今から3年前になります。現在のオドメーターの走行距離は約14万9千キロ、私が手に入れてからはおよそ約6万2千キロ乗りました。実はこのiQ、2台目なんです。後ほど話しますが、1台目はもらい事故に遭ってしまい、1台目と同じショップで見つけて手に入れました」
iQは、トヨタが2008年から2016年まで生産していたコンパクトカーだ。全長約3メートルというマイクロボディながら4人乗車を実現。さらに最小回転半径が3.9mと驚異の小回り性を誇る。
ボディサイズは、全長×全幅×全高:2985×1680×1500mm。排気量996cc、直列3気筒DOHCエンジン「1KR-FE型」の最高出力は68馬力を発生。街中での使用を想定した、快適で力強い走りを実現している。さらに低燃費で環境にも配慮。当時のCO2排出基準もクリアしていた。
なお、2009年のマイナーチェンジ時に1.3Lエンジンを搭載したモデルが追加されている。
2008年の日本カー・オブ・ザ・イヤーではイヤー・カーを獲得。さらに2011年には、アストンマーティンがiQをベースにした「シグネット」を販売したことで話題となるなど、革新的なモデルとして人気を博した。
今回の主人公は21歳のオーナー。現在は自動車関連企業に勤務し、整備士の資格も保有している。まずは、彼のクルマ好きを育んだ背景にせまってみたい。
「私の両親はクルマ好きで、幼い頃からシトロエンDSのミニカーで遊ぶような子どもでした。父はスウェーデン車とドイツ車を好み、母はフランス車や北欧車が好きです。ちなみに、母が乗っていたサーブ 9-3を今は私が引き継いで乗っています。
骨格がしっかりしていて長持ちする質実剛健な欧州車を好むのは、両親の影響かもしれません。クルマには走行性能よりも、クルマの構造やメカニズムに魅力を感じるタイプだと思います」
そんなオーナーを魅了したiQとの出会いを振り返ってもらった。
「1台目のiQは、通学の足として購入しました。遠距離なうえに学校が交通アクセスの悪い場所にあったのでクルマが必要だったんです。実用的なコンパクトカーにしようと決めていましたが、せっかくなら個性的なクルマを選んで楽しく乗りたいと思いました」
iQの前に候補に挙がっていたクルマはどんな車種だったのだろうか?
「スズキ スプラッシュ、スマート フォーツー、ランチア イプシロン、フォルクスワーゲン ポロなどが候補でした。フィアット 500やフォルクスワーゲンup!も好きですが、乗っている学生が他にもいたので候補から外しました」
候補のクルマもかなり個性的な顔ぶれだが、なぜiQを選んだのだろうか。その経緯を伺ってみた。
「iQに初めて試乗したのはトヨタのテーマパーク『メガウェブ』だったんです。そのときはさほど魅力を感じなかったのでノーマークでした。
その後、サーブ 9-3を修理に出していたショップにたまたまiQがあったんです。スマート フォーツーに似たスタイルと故障がしにくいだろうということ、国産車なので余程のことがないかぎり故障はないだろうということが決め手でした。“プラム”というメタリックパープルのボディカラーも綺麗で、ヴェルファイアの初期型やBBにも設定されている色で、iQの内装ともマッチしていました」
こうして1台目のiQを手に入れたオーナーだが、不慮の事故によって現在の個体に乗り替えることになった。奇しくも同じショップで今の愛車を見つけたのだという。ボディカラーは珍しいグリーンだった。
「もともとグリーンが好きでしたし、ジェイドグリーンメタリックという希少なボディカラーだったからです。このボディカラーはiQでは初期型のみの設定です。発売から1年後の2009年にマイナーチェンジが行われた時点でカタログ落ちしたので、日本に現存するグリーンの個体はとても少ないはずです」
あらためてiQに感じる魅力的な点を尋ねてみた。
「欧州車の雰囲気と和のテイストが融合した独創的なスタイルが気に入っています。『トヨタの新しい電気自動車?』と声を掛けられることもあって、10年以上前のクルマだと答えると驚かれますね。獅子舞のようなフロントマスクにも親しみを感じます。
自然界のデザインを取り入れている点も好きで、特にエアコンのインパネは泳ぐマンタ(エイ)をイメージしているといわれていてかっこいいと思いますし、もっとも気に入っている部分です」
iQに乗り始めてから、カーライフにも良い変化があったそうだ。
「運転がより楽しくなっています。広くない県道や林道を抜けるために、高速よりも下道を選んでわざわざ遠回りするようになりました。ワイドトレッドで安定感がありますし、ダイレクト感のあるステアリングフィールもスポーティだと思います。CVTですがエンジンブレーキをうまく使いつつ、カーブの多い道をテンポ良く走れるので気持ち良いですね」
「青森県まで友人たちと4人でiQに乗って1泊2日の旅行に出かけたことも良い思い出です。スバル 360が現役だった世代の方は、あの小さなクルマであたりまえのように旅行に出かけていたので追体験してみたいと思ったんです。
iQは4人乗れるとはいえ、決して広くはないのでジャンケンで誰が後ろに乗るか決めました(笑)。とはいえ友人たちも初代プレリュードやレガシィに乗っているクルマ好きなので、やってみたいねといってくれて。後部座席は膝まわりにゆとりが出るように作ってありますし、足をうまく出せばそこそこ快適に乗れることが分かりました」
20代前半でこのような経験ができたことは、人生の財産となるに違いない。もう少し年を重ねると、体力的にも時間的にも難しくなるだろう。iQはオーナーにとって“人生観を変えたクルマ”ともいえるのだろうか?
「そうですね。iQに乗った経験が今の仕事にも活かされているので、そういえると思います。私の専門学校時代は、ちょうどコロナの影響で実習がとても少なかったんですが、電子制御の知識もiQがあったので実物に触れながら学ぶことができました。両親もこのクルマを気に入ってくれています」
すっかり“家族の一員”となっているiQだが、オーナー自身がモディファイした部分はあるのだろうか。
「納車当時はかなりドレスアップされていて、オリジナルに近い状態まで戻しています。フルスモークだったリアガラス、社外品のテールライトとヘッドライトを純正品に。足回りもローダウンされていたので純正品に戻して、ホイールは15インチでクローム仕上げのオプション品をオークションで探しました」
「ミラーカバーはプリウス用を流用しています。シルバーのラッピングを施してボルボ XCシリーズのRデザインをイメージしています。トーションミラーはFRPで自作しました。オーディオシステムは1台目から移植しています。iQの室内空間は広くないぶんオーディオとの相性も良いですね。iQにはスピーカーがドアツイーターとフロント・リアに2つずつ、計6カ所に装備されています。iQのおかげでオーディオにもこだわるようになりました」
これまでに行ったメンテナンスや部品供給の苦労などはあったのだろうか?
「あの構造をデメリットとするなら、外とエアコンの距離が短くゴミが詰まりやすい点があると思います。ゴミが詰まって水が車内に入ってきてしまい、エアバッグのセンサーが故障したことがありました。今はホームセンターでホースを見つけてきて延長して対策をしていますね。そのほか目立った故障はありません。
ただ部品の供給状況は厳しいです。ガラスやドアパネルはもう出ないかもしれません。ワイパーのカウルも新調したいですが、今は定期的に表面を炙って溶かすことでリフレッシュしています」
当初は通学の足として手に入れたものの、手放したり乗り替えたりすることは考えづらくなっているのではないだろうか。そのこともふまえながら今後、iQとどんなカーライフを送っていきたいかを尋ねてみた。
「ずっと一緒に過ごしていきたい気持ちはありますが、機械として終わりを迎えたタイミングが別れのときだと覚悟しています。だからといって社外品に交換してしまうとiQらしさが失われてしまい、所有している意味がなくなってしまうので、安易に社外品でリフレッシュすることもしたくないんです。
部品供給が困難になり、電子制御が故障するなどして修理不可能になる日は意外と近いのかもしれません。今は予防整備に徹しながら、20万キロまでは不自由なく乗りたいですね。25万キロに達したらエンジン載せ換えを検討しています。エンジンはヴィッツやパッソと同じなので、エンジンや部品の互換性に期待しています」
複雑な心境も吐露するオーナーだが、かけがえのない1台になるほど魅力のつまったiQと、オーナーのみずみずしい感性で、これからも新しい楽しみ方を開拓していくのだろう。
まだ21歳。今後は英国車やサイズの大きな2ドアクーペも増車したいと意欲も見せるオーナー。ますますカーライフが充実することを願わずにはいられない。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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