新車から14年。2010年式マツダ ロードスター RS RHT(NCEC型)で楽しむ「余白」とは
1台のクルマと長く付き合うオーナーを取材していて、あるとき共通点に気づいた。「クルマの状態をオーナー自身がきちんと把握できている」「多少の生活傷は気にしない」そして「愛車を溺愛しつつ、常に余白を残していること」だ。
今回の主人公は、49歳の男性オーナー。運転免許を取得した頃から国産セダンを乗り継ぎ、サーキット走行を楽しんできた。現在は一児の父親でもあるオーナーは、結婚したタイミングでマツダ ロードスターを購入。現在の愛車とは10年以上の付き合いになるという。「なぜ、結婚したタイミングでロードスター?」という率直な疑問も含めて詳しく伺った。
「このクルマは、2010年式のマツダ ロードスター (NCEC型/以下、ロードスター)です。新車で購入して14年、現在の走行距離は約7万9千キロです」
1989年のデビュー以来、4代に渡って世界中で愛され続けるマツダ ロードスターは「2人乗り小型オープンスポーツカー生産累計世界一」のギネス記録を保持する。そして今年、デビュー35周年を迎えた。
オーナーのロードスターは、2005年から2015年まで生産された、シリーズ3代目の「NC型」だ。RX-8とプラットフォームを共有化したことで、ボディサイズを拡大。エンジンの排気量も、シリーズ初の2リッターとなった。初代モデルから継承するコンセプト「人馬一体」のもと、軽量化に取り組んだことで重量増を最小限にとどめ、ロードスターならではの軽快な走りはそのままに進化を遂げた。
このNC型は、大きく分けて4回のマイナーチェンジが行われている。オーナーの個体は通称「NC2」と呼ばれ、2008年にマイナーチェンジされたモデルだ。グレードは「RS RHT」。電動格納式ハードトップ「RHT(パワーリトラクタブルハードトップ)」が搭載される。約12秒で開閉が可能だ。
ボディサイズは、全長×全幅×全高:4020×1720×1255mm。排気量1998cc、直列4気筒DOHCエンジン「LF-VE型」が搭載され、最高出力は6速MTで170馬力(6速ATは162馬力)を誇る。
冒頭でも少しふれたが、オーナーは運転免許を取得してまもなくサーキットに通いはじめている。どんなクルマを選んできたのか、愛車遍歴を伺った。
「私はもともと4ドアが好きで、これまでの愛車のほとんどがセダンでした。18歳で運転免許を取得してすぐトヨタ カローラ セレス。次に4A-GE型エンジンが載ったセレス Gを乗り継ぎました。この頃からサーキットに通いはじめ、カローラGT(AE111型)で走っていました。その後、グリップからドリフトに転向して日産 ローレル(C32型)やトヨタ マークⅡ(JZX90型)・クレスタ(JZX90型)を乗り継ぎました。
並行して日常使いは、マツダ AZワゴン・MPV、日産キューブ、ダイハツ タント・ムーブに乗ってきました。ムーブは縁あって、有名ショップのデモカーを購入する機会に恵まれ、手に入れました。現在は、このロードスターと三菱 デリカの2台体制です」
愛車遍歴を伺うと、4A-GE型のエンジンを搭載したカローラGTなどかなりマニアックなモデルも含まれている。コアなセダン好きなオーナーがなぜ、2ドアのオープンスポーツに乗ろうと思ったのだろうか。
「2010年に結婚が決まり、当時“カーライフのひとつの区切りのクルマとして、2ドアの軽快なオープンカーに乗りたいな”と思ったことがきっかけです。サーキット走行をしてみて、ハイパワーなクルマよりも自分がコントロールできる方が好みだったと分かったんです。サーキットによっては、ブレーキング次第で大排気量のスポーツカーと互角に競えることもよくありますから」
オープンのライトウェイトスポーツといえば、真っ先に浮かぶのはロードスターかもしれない。しかし、当時3世代のモデルからNC型を選んだ経緯とは?
「当初は中古で見つけたNB型のロードスター(シリーズ2代目)を購入しようとしていたんですが、当時新車で販売されていたNC型のロードスターに興味をそそられて、そのまま見積書を作ってもらいました(笑)。自宅を建てた際に、ガレージもロードスターのサイズに合わせて造ったんです」
結婚が決まったタイミングで趣味のクルマを手放す人が多いなか、オーナーの場合は真逆だ。しかも、家を建てる際にロードスター専用のガレージまで造ってしまうとは!
「ただただ、妻の優しさだと思います。当時は日産 キューブのセカンドカーがあったので許してくれたのだと思いますね」
ロードスターを実際に所有してみて、率直に感じたことを伺ってみた。
「NCロードスターは、シリーズ唯一の『GT(長距離を快適にドライブできるクルマ)』だと思います。ゆったりとした長距離ドライブと攻め込む走りの両方を楽しめます。デビュー当時からボディサイズのアップには賛否両論ありました。歴代モデルが軽量重視だっただけに『大きくなった』『重くなった』といわれていますが、実際のところエンジンはそれほど重くなっていません。車体の剛性もかなりあるのがわかります。『ロードスターは交差点を曲がっただけで楽しい』といわれますが、本当に素直に曲がってくれますね」
さらに、オーナーのカーライフ自体も大きく変化したようだ。
「出会いの幅が広がりました。もともと一人のドライブが好きで、夜の首都高を走ったりもしました。それと、ロードスターに乗るまではオフ会といったクルマ好き同士のコミュニティを意識したことがなかったんです。ところが、ロードスターをきっかけにはじめた自動車SNSを通じて、10年来の友人ができました。他県の方なので、年に1度会ってツーリングをするのが恒例となっています。お互いクルマを購入した時期も同じで仕様も似ているんですよ。定期的にミーティングにも参加するようになるなど、ロードスターを通じて知り合った仲間や友人が何人もいます」
ロードスターには、多様なオーナーズクラブや全国規模のミーティングが存在している。なかでも早朝に開催される通称「おはようミーティング」は、ロードスターオーナーによって各地で開催されており、ミーティング同士でのネットワークも形成されている。また、ロードスター以外の他車種の参加を受け入れるミーティングも多い。
自身のカーライフを大きく変えたロードスターの魅力について尋ねてみた。
「つながりが生まれる点だと思います。モデルの垣根なくオーナー同士が仲良しです。不思議ですよね。ロードスターの魅力を語るとしたら、そのような懐の深さなんじゃないかと思います」
仲間に恵まれながら、14年間慈しんできたロードスター。一見、オリジナルの状態を忠実に守っているように見えるが、こだわりのモディファイが施されていた。
「足回りは、TRUST製の車高調、GReddy製のパフォーマンスダンパー TYPE-Sに交換。ホイールは、RX-7(FD3S型)前期型用の純正アルミホイールです。エンジン系は、カムシャフトをノガミプロジェクト製のものに交換しています。排気系パーツも、ノガミプロジェクト製のエキゾーストマニホールドとカーメイク コーンズ製のダブルテールマフラーに。タワーバーは、マスターシリンダーストッパー付きが決め手となって選んだRIGID製のTB-303MSを組み込みました。
あとは、運転席のみRECARO製のフルバケットシート、メーターパネルをAWD製に交換しています。それと昨年、クラッチとフライホイールの軽量化を行いました。すると、これまで入りづらかった2速がスムーズに入るようになったんですよ」
オーナーが、モディファイするうえで大切にしていることは何なのだろうか。
「私の場合、エアロパーツなど外装へのこだわりはないので、純正を基本にしています。また、パーツも次から次へと取り付けないようにしています。ロードスターは、コントロールできてこその『人馬一体』だと思います。クルマの仕様をどんどん変えてしまうと、全開時のコントロールも難しくなってしまいます。自分の技術とパーツの特性をすり合わせて吟味していますね。モディファイ前には必ず、サーキットの体験走行枠で走らせ、限界や特性を把握したうえで、手を入れる順番や内容を決めています。ロードスターもそうですし、歴代の愛車もそうしてきました」
「やみくもに手を加えない」というオーナーの美学は、サーキット走行などで本格的に走り込んできたからこそのものだけに説得力がある、では、モディファイの原点にはどんな思いがあるのだろう。
「クルマって生き物だと思っています。長く付き合うほど自分の思い通りに動いてくれます。思い通りに動けばぶつけるリスクも下がっていきますし、クルマのことをより深く理解することで、負荷をかけて壊すこともなくなると思っています」
そんなロードスターと、今後どのように接していきたいと思っているのか、率直な思いをお聞きした。
「いろいろと手を入れていますが、現時点でのクルマの完成度は70〜80%くらいでしょうか。他にもやってみたいことがあるんですけど、敢えて“やりきってしまう”ことがないようにしていますね。常に20%くらい“やりたいことの余白”を残しておいたほうが、ワクワクが長続きすると思うからです」
敢えて完成形を決めず、コツコツとアップデートしていくことで、1台の工業製品が文字どおり唯一無二の「愛車」となっていく。1台のクルマと長く付き合う方法は人それぞれだが、これもひとつの答えだと思う。オーナーのロードスターもいつしか唯一無二の存在となっていた。
「ぶつけたり壊したりせずに乗りたいです。というのも、これまで大きなトラブルがほとんどないんですよね。せっかくここまできたので、あと20~30年は乗りたいです。一度手放したら、再び同じロードスターに乗ったとしても別のクルマになってしまうんです。型式に関係なく、これまでのモチベーションには2度と戻れないでしょう。“このロードスターをここまで育ててきた”いう感覚を維持していきたいです。娘がもっと大きくなったら引き継いで乗ってもらいたいですけどね」
長年乗ってきた愛車を手放してしまうと、愛車の仕様、主治医、さまざまなことがリセットされてしまい、再構築は難しい。仮に、オーナーの愛娘にこのロードスターが受け継がれたときは、お嬢さんの色に染まっていくのだろう。これはこれでオーナーにとっては非常に喜ばしいことかもしれない。
最後に、オーナーから奥様へのメッセージを伝えてもらった。
「子どもが成長して、何かと出費が増えてもこのクルマを維持させてくれて感謝しかありません。決して『(ロードスターは)なくてもいいんじゃない?』とは言わない、懐の深い妻なんです。実は将来、NAロードスターと2台体制にしたいなと思っています。ただ、娘が義務教育を終えた後になるでしょうね。それまでにモデルの個体数や、内燃機関そのものがどうなっているかわからないですけど。妻も賛成してくれているので、実現したら一緒にドライブしたいですね」
吟味しながら、まさにオーナーと「人馬一体」になるべく作り込まれた愛車。深く愛しつつも敢えて『余白』を作り、心地いい距離感で愛車と過ごしている様子が伺えた。余白は寛容さ、そして愛車との適度で心地良い距離感を生み出す。これこそ“アガリの1台”となり得るポイントではないかと改めて感じた取材だった。
取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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