スズキ スイフトスポーツが教えてくれた、アウトドアの新たな楽しみ方
筆者の偏見が多分に入っているが、絵を描くのが得意な人はもの静かで、子どもの頃から休日も家で過ごしているイメージがあった。ところが今回お会いした漫画家、田代哲也さんの趣味はすごい。
学生時代は、ワンダーフォーゲル部に所属し関東大会にも出場。現在は、ゴルフ、フライフィッシング、山に入ってバードウォッチングをはじめとする野生生物の調査、そして現在は機会が減ったので資格を返納したが、数年前までは花火を打ち上げていたというから驚いた。
「好奇心旺盛であちこちに首を突っ込んでいるという感じです。どれも“その道を極めた”というものからは程遠いですが、いろいろ楽しんでいます。この性格は本職でも役立っているんですよ。漫画家にもいろいろなタイプがいます。私はいろいろなジャンルの図解マンガを依頼されることが多く、これまでの趣味で得た知識が作品に役立つこともあります」
田代さんの愛車は、先代のスイフトスポーツ。その前は2代目スイフトスポーツに乗っていた。上の写真は田代さんからお借りしたもの。小さな愛車に趣味の道具を積み、ゴルフ、花火の打ち上げ、フライフィッシングのフィールドに出かけているのがわかる。
「私の場合、フル乗車で出かけることは滅多にありません。リアシートを倒せば案外どんな荷物も積めるので、困ったことはないですね」
今回同行させてもらったのは、野生生物調査の一つであるバードウォッチング。待ち合わせた山奥の駐車場でカメラマンがセッティングしている間も、目ざとく野鳥を見つけてシャッターを切る。野生の動物は人間の都合など気にしてくれない。だからチャンスを逃さないよう常に周囲に気を配っている。
田代さんが拠点としているのは奥多摩エリア。野生生物の調査は一つの場所で長期間観測することでいろいろなことが分かるのだという。奥多摩では、シカ・カモシカ・タヌキ・イノシシ・テン・ムササビなどの棲息を確認。鳥だとヤマガラ・カケス・ルリビタキ・アカゲラ・ヤマドリなどを見ることができる。野生動物は夜行性のものが多いので、夜中に山に入ることもあるのだそうだ。
野生生物の調査は知り合いの動物学者に誘われて軽い気持ちで始めたが、すっかり魅了された。ひとたび山に入ると数日にわたり調査を行う。最初は3人で始めた調査も、大学生などの参加メンバーが増えて、気づけば大所帯のサークルになった。
軽い気持ちだった野生生物の調査は、気づけば本を何冊も出版するほど本格的な活動になっている。
調査に向かうときは、一眼レフとコンパクトデジタルカメラ、小さな虫を観察する時に使うルーペ、長靴などを持って行く。以前は数冊の図鑑も持ち歩いたが、今はタブレット一つで全ての図鑑を開くことができる。荷物はすべてスイフトのラゲッジに収めることができるそうだ。
そんな田代さんにこれまでの愛車歴を伺ってみた。車種もさることながら、その選び方が面白い。
初めての愛車は、新人マンガ賞の賞金で購入した2サイクルエンジン搭載のSJ30型ジムニー(写真上)のフルメタルドアだった。高校時代のワンダーフォーゲル部でアウトドアに馴染みがあり、クルマを手に入れたら道なき道を進んで大自然を楽しみたい。これがジムニーを選んだ動機だ。
田代さんはジムニーで大自然の中に出かけ、さまざまな趣味を楽しんだ。しかし数年経ったとき、ある事実に気づく。田代さんの趣味だとクルマは駐車場に置いて、そこから歩いて山の中に入って行く。だからジムニーで走るのはほとんどが舗装路だった。だとしたらジムニーの悪路走破性は必要ないのではないか。
そして、初代ワゴンR(写真上)の最終モデルに設定された、丸型ライトが特徴的なワゴンRコラムを2台目の愛車としてチョイス。ワゴンRコラムはフロントがベンチシートでコラムシフトになっていたため、居住性に優れた軽自動車として人気を博したモデルだ。
田代さんはこのワゴンRで全国を旅する。ある日、友人と2人で乗鞍岳までフライフィッシングを楽しみに行ったときだ。現在は、環境保全のためにマイカー規制されているが、当時は規制がなかったので、田代さんたちはワゴンRで乗鞍スカイライン〜乗鞍エコーラインを登っていくことになった。
ところが、乗鞍の急な登り坂はNAで非力だった90年代の軽自動車にはきつく、スピードが上がらない。気づけば後ろに渋滞を作り、何度も道の脇に停めて後続車に道を空けなければならなかった。
ワゴンRは便利なクルマだったが、この経験は田代さんの中にトラウマとして残ってしまう。次は山道も軽快に走れるクルマに乗ろう。そこで田代さんが選んだのは2代目ZC31S型のスイフトスポーツだった。
しかし、山道を軽快に走るという視点なら、他にも選択肢はたくさんある。なぜスイフトだったのだろう。
「2002年のパリモーターショーにコンセプトカーとして出品されていた時からスタイルの良さに注目していました。それが後に市販され、これは自分が求めているクルマだと思いました。ジュニア世界ラリー選手権(JWRC)で活躍するなど走りの本気度も後押しになりました」
スイフトスポーツに乗るようになってから、田代さんのアウトドアの楽しみ方は大きく変わったという。それまではアウトドアを楽しむことが目的であり、クルマはアウトドアを楽しむために移動する手段だった。しかしスイフトスポーツに乗ってからは、アウトドアはもちろん、往復で山道を走ることも大きな楽しみに。つまり移動が手段ではなく目的になったのだ。
「雑誌を読んで知識としてはありましたが、スイフトスポーツで初めてアウトドアに出かけた時は本当に驚きました。山道でもアクセルを踏めば踏んだだけぐんぐん加速する。ステアリングを切れば思い通りのラインでコーナーをクリアしていく。走ることってこんなに楽しいのかと。このスイフトスポーツを手放すとき、次の愛車として新しいスイフトスポーツを選ぶことに迷いはありませんでした」
田代さんのスイフトスポーツは外見こそノーマルだが、車内にはアウトドアで使いやすいよう工夫が施されていた。山道ではツーリングを楽しむバイクも多い。スイフトスポーツはCピラーが太いので左斜め後ろのバイクが死角に入ってしまうことも多いそう。そこで、通常のルームミラーに加えて補助ミラーを設置。インパネには、タブレットを持たずに操作できるようフックがつけられている。
「出先でカーナビが故障したことがあって、タブレットをナビがわりにしようとホームセンターに立ち寄って取り付けたんです。そのときはナビが直ったら外すつもりでしたが、図鑑を見るときなどに便利なのでそのまま使い続けています」
野生生物の調査は夜間の活動も多い。夜の山は文字通り漆黒の闇。そんな中でも荷室の荷物を探しやすくするために、標準装備の豆球をLEDライトに付け替えた。走りが魅力のクルマとはいえ、やはり基本はアウトドアを楽しむためのツールという考え方がうかがえる。
ジムニー、ワゴンR、2台のスイフトスポーツと、田代さんが選んできたのはすべてスズキ車だ。その理由は、先見の明にあると教えてくれた。
「私がジムニーを選んだ時はまだパジェロミニは発売されていなくて、未舗装路にもガンガン入れる軽自動車といえばジムニーしかありませんでした。ワゴンRを選んだ時も、ベンチシート+コラムシフトというクルマが他になかったんですよ。実は、10代の時にスズキのGAGという50ccのバイクに乗っていました。これも当時は原付のレーサーレプリカが他になかったからです。スズキが最初に道を作って、ヒットすると他のメーカーがライバルモデルを開発することってたびたびありますよね」
そしてスズキを選び続けるもう一つの理由が、スズキならではのこだわりだという。
「スズキは軽自動車メーカーでコストに厳しい会社というイメージがありますが、スイフトスポーツはエンジンに専用チューニングが施され、足回りはモンロー製のダンパーを採用するなどと、お金をかけた造りになっている。そんなクルマが200万円以下で買えたのですから、すごいことですよ」
このスイフトスポーツの次に乗りたいクルマはあるのだろうか。バードウォッチングの合間にコーヒーを飲む田代さんに尋ねた。
「実はこれまで乗ってきたクルマはすべて7年ごとに買い替えてきました。今のクルマに乗って丸6年。これまでと同じスケジュールだと来年が買い替えのタイミングです。もちろん、新しいスイフトスポーツが第一候補ですが、もしかしたら他のメーカーを選ぶかもしれません。スズキ車以外にも好きなクルマはたくさんありますからね」
次の愛車の絶対条件を挙げるとしたら、アダプティブクルーズコントロールと衝突被害軽減ブレーキは欲しい。年齢も重ねてきたし、楽できるところは楽をしたいから、と笑う田代さん。
しかし、走る歓びを味わえるクルマを選ぶという主義はブレないはずだ。田代さんがアウトドアをフィールドにした趣味を楽しむかぎり。
(取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/柳田由人)
[ガズー編集部]
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