ベコベコに凹んだボディは男の勲章! ランドクルーザー70とトライアル競技は「生活の一部」
以前、愛車広場に登場していただいた日産 テラノのオーナーを山梨県で取材した際、見るからにオフロードを走り込んだトヨタ ランドクルーザー70 ZX FRPトップがいた。オーナーに会うのは初めてだったが、何かの話に出てきた記憶がある。
「もしかして、趣味人(しゅみーと)かずおさんの師匠ですか?」
こう尋ねると、オーナーは「あ、そうです。なんで知っているんですか?」と笑った。2024年11月に掲載したランクル70オーナーを取材した際に、「僕の師匠なんですよ」とクルマの写真を見せてもらっていたのだ。かずおさんに会ったのは群馬県。今は、離れた場所で生活していてもSNSで仲間を簡単に見つけられる時代であることに改めて驚かされるとともに、オフロード好き、4WD好きの人たちの深い絆を感じた。
このランクルのオーナーは、ちゃちゃ丸さん(33歳)。四駆が好きだけれどオフロードをちゃんと走ったことがない人たちに、ライン取りなどオフロードの走り方を教えているという。そして自身はトライアル競技に参戦。時間があるとオフロードコースで練習し、腕を磨いている。
「このランクルは1994年式で、6年ほど前に購入しました。前オーナーも山を走っていたのでしょうね。店頭に並んでいる状態ですでにボディに凹みはありましたが、どうせ僕も山を走って凹ませちゃうから、外装の状態は気にしませんでした。お店の人からは『本当にこれでいいの?』と心配されましたが(笑)」
ちゃちゃ丸さんがトライアル競技を始めたのは、父親の影響。子どもの頃から家にはずっとランクルがあり、父親が山の中を走っていたという。
「ただ、父親は本気で競技に打ち込んでいたわけではなく、適度に楽しんでいたのだと思います。ボディが凹んだりしていませんでしたから。『思う』と言ったのは、いつも一人で出かけてしまうので、父がランクルで山を走っている姿を見た記憶がないんですよ。でもトライアルの雑誌やビデオが家にあったので、それを観て『楽しそうだな』と感じていました」
18歳になり運転免許を取得すると、ちゃちゃ丸さんも自然にランクルの中古車を探すようになる。最初に選んだのは5MTのランクル80だった。そして同じように四駆に乗っている友人からトライアルに誘われ、ちゃちゃ丸さんも山を走るようになった。もちろん最初は本格的な競技にエントリーしたわけではなく、林道で練習していたそうだ。
「仕事が終わってから友人と山に向かい、朝までひたすら走り込む。そして翌朝、山から出勤。今思うとかなり無茶をしていました。でも楽しかったですね」
だが、しばらくすると山を走るのが嫌になり、トライアルとは全く違う競技――ドリフトを楽しむようになったそうだ。
「理由はよくわからないのですが、急に『僕の居場所はここじゃないかもしれない』と思ってしまって。その時はS15日産 シルビア顔の180SX、いわゆる”シルエイティ”に乗っていました。でも1年ほどで、やっぱり山が楽しいと思って四駆に戻ったんです」
トライアルとドリフトでは、選ぶクルマも走る環境もまったく異なる。でも走ってみると共通する部分も多かった。
「車両感覚やステアリング操作、そして荷重のかけ方などは、山を走っていた経験が役立ちました。ただ、トライアルはクルマの動きが3Dなのに対し、ドリフトは2Dになります。そのあたりで僕にはトライアルのほうが向いていると思ったのかもしれません」
本格的にトライアル競技に参加するようになると、練習で走るのとはまったく違う感覚にハマっていったという。
「競技では山の中にテープを張ってコースが作られ、その中を走ります。同じオフロードでもコースが狭くなることで、クルマの動かし方がよりシビアになって途端に難易度が高まるんですよ。でもそれがおもしろくて、競技にどっぷりとハマっていきました」
特に難しいのがライン取り。トライアル競技では、車体が大きく傾いた状態でどのルートを攻めていけばいいのかを考えなければいけない。しかも数台がコースを走れば地面が削られるので、走るたびにラインが変わってくる。山の中で練習していたとはいえ、実際に競技をすると最初はどこまで車体が傾いても大丈夫なのかがわからず、怖くて仕方なかったそうだ。
もちろんクルマを横転させたことも一度や二度ではない。それでも何度もチャレンジするうちに、徐々に技術が向上していくのがわかった。ボディの凹みは鍛錬の証とも言えるだろう。
さらに練習で山を走るのとは違い、競技にはルールがある。規定時間内に走破できなければ大きく減点されるし、ライン取りをミスしてバックしても減点対象となってしまう。
ちゃちゃ丸さんのランクルは購入時からリフトアップされてウインチもついていたが、自分の走り方に合わせて足回りなどに手を加え、軽量化のために後部座席も取り払った。もちろんこれらの改造は構造変更の手続きをしている。
「僕たち競技者にとっては競技でいい成績を出すために必要なことですが、一般の人にはなぜ車高を上げているのかわからないはずです。極端に言えば違法改造をした暴走族と変わらないと思うんですよね。だからこそ、ちゃんと国からの認可をもらっているということが大切だと思って」
しかもボディがこれだけ凹んでいれば(仲間は「折り紙みたいなランクル」と呼んでいた)、嫌でも目立つ。そのため、一般の人から「なんだ、そのクルマは!」と言われたり、警察に止められて職務質問を受けることも少なくない。SNSにアップした写真を見て「違法改造車に乗っていていいのか」というコメントが付くこともある。
その時に「ここは構造変更してある」「ここはこういう部品を使っているから車検にパスできる」とていねいに説明できるよう、自分で車検を通せるレベルまで整備の勉強もしたそうだ。
「最初は競技中にクルマが壊れたときに自分で直せたらと思って簡単な整備の勉強をしました。でも、僕たちは自然の中で遊ばせてもらっている立場だし、少しでも一般の方々に迷惑をかけたり、不快な思いをさせたりしないように、国が定めたルールを守るのはもちろん、聞かれたときに自分のクルマの状態をきちんと説明できなければダメだと思うようになったんです」
競技を楽しむと同時に、四駆好きが集まるイベントにも積極的に参加するようになったことで、同じ趣味の仲間が増えたのがとても嬉しいと話すちゃちゃ丸さん。父親より年上の友達もできた。イベントに参加するうちに素敵な女性との出会いもあり、なんと話を伺った3日前に入籍したそうだ。
「四駆イベントで出会ったということは、奥さまもクルマ好き?」と聞くと、少し照れながら「そうですね。僕のように競技を楽しむほど沼にハマっているわけではありませんが」と笑う。
「初デートの時は、自分のクルマで行くか、父親のランクルを借りるか、かなり悩みました(笑)。出かける直前まで本気で迷っていたら、父親が『ちょっと出かけてくる』とランクルに乗っていなくなっちゃって、自分のクルマでデートに行くしかなくなっちゃったんですよ……」
ボディがベコベコで、車高もかなり上がったランクル70。せっかくのデートなのに、このクルマで待ち合わせ場所に行ってドン引きされたらどうしよう……。しかし、ちゃちゃ丸さんの心配は稀有に終わった。奥さまはランクル70を見た瞬間、「なにこれ、おもしろい」と笑い、助手席に乗り込んだそうだ。
「僕にとってランクル70で山の中を走るのは、生活の一部。食事をしたり、寝たりするのと同じように、なくてはならない当たり前のこと。妻もそれを理解してくれているのはありがたいですね」
ちなみに、ランクル70は2014年に期間限定で復刻販売され、2023年には再復刻版がカタログモデルとなった。ランクル300やランクル250も発売され、ランクルは3モデルがラインナップされて大いに盛り上がっている。そんな最新モデルは、ちゃちゃ丸さんの目にどう映っているのだろう。
「どれもめちゃめちゃカッコいいですよ。中でもランクル250がすごく好きで、ディーラーで試乗もさせてもらいました。ただ、山の中を走るなら、僕は電子制御が入っていないアナログなクルマが好みですね。自分自身の技術でクルマを操るのが楽しいですから」
ちゃちゃ丸さんはこのランクル70を日常でも愛用しているが、通勤などで使うクルマとして、同じランクル70(ただしこちらのボディはきれいな状態)を選んだそうだ。
「ボディがこんなに凹んでいるクルマに乗っている男が言っても説得力がないと思いますが」と前置きをして、「やっぱりクルマはキレイに乗ったほうがカッコいいですよ」と笑う。
「ただ、新しいクルマは高くて気軽に買えないし、旧いものだと壊してしまった時に部品を探すのが大変。だから今、四駆遊びの敷居がかなり高くなっているんです。だから僕らは初心者でも安全な走り方を教えたり、ノーマル車でも壊さずに楽しめる集まりを開いたりすることで、四駆遊びの間口を広げられたらと考えています」
どんな時でもクルマの挙動を感じ、一体感を楽しむ。そして自然の中を四駆で走る気持ちよさを仲間と共有する。生涯の伴侶にも出会えたことで、ちゃちゃ丸さんの人生はますます充実したものになるだろう。
(取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/篠原晃一 編集/vehiclenaviMAGAZINE編集部 撮影協力/スタックランドファームオフロードコース)
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