教室生活37年の「先生」が、歴代三菱 デリカで旅を続ける理由
年季の入った三菱 デリカD:5から空気式のサップ(スタンドアップパドルボード)を取り出し、悠々と組み立て始めるひとりの男性。見たところ、年の頃は50代後半か60歳ぐらいだろうか。そしてデリカD:5のボディ後端には青森県の竜飛岬や山形県の鳥海山など、全国各地のステッカーが所狭しと貼られている。
……以上の情報から推測するに、この男性は何らかの職業から早々に勇退し、現在は「自動車旅と趣味」に打ち込んでいる人だろうか?
「いえ、私は現役の公立小学校教諭で、現在は6年生を担任しています」
そう答えるのは、東京都にお住まいの「ハジメ先生」だ。
「私が勤務している小学校は単学級(1学年につき1学級のみ)であるため、1人の教諭が担当する業務は非常に多く、正直、猛烈に忙しい毎日です。特に今(※取材日時点)は中学受験を直前に控えている児童も多いため、先週からずっと『平日は休める時間がほとんどない!』という状況が続いています」
だからこそハジメ先生は、週末は無理やりにでも時間を作り、三菱 デリカD:5とともに「どこか」へ出かけていく。それは6年生を担任している今年度に始まったことではなく、ずっとそうだった。D:5の前に3台続けて三菱 デリカ スペースギアに乗っていた頃も、その前に同じく三菱のデリカ スターワゴンに乗っていた頃も、ずっとそうだった。
三菱 デリカで出かける理由は2つ。ひとつは、自身の心をリセットするため。そしてもうひとつは「大切な家族のため」だ。
子どもが好きで、小学校の先生になった。そして結婚し、いすゞ ジェミニ イルムシャーの中古車を39万円で買った。しかしジェミニ イルムシャーの調子がいろいろと悪くなり始めた頃、ちょうど長男が生まれるということもあり、これまた中古の三菱 デリカ スターワゴンに買い替えた。31歳だった。
「やっぱり子どもには“経験”を積ませてあげたいですからね。例えばカブトムシにしてもホームセンターとかでお金を出して買うのではなく、山へ行ってトラップを仕掛けて、そのまま現地でキャンプして、未明に捕りに行くとかね。あるいは日本海に沈む夕日を見たり、雪山へ行ったりとか。これから育っていく息子にそういった経験を積ませてやるためには、たぶん『四輪駆動のワゴン車』がいいんじゃないかなって思ったんです」
中古の三菱 デリカ スターワゴンには、排ガス規制で乗れなくなるまで5年ほど乗った。その間に次男もこの世に生を受け、家族4人でさまざまな“経験”をした。
ディーゼル規制の関係で乗り換えた三菱 デリカ スペースギアは、都合3台を乗り継いだ。いずれも中古車だ。2台目のスペースギアは岐阜県の下呂温泉へ向かう途中の高速道路でエンジンがブローしてしまったが、その際に駆け込ませてもらった現地の町工場で「3台目の三菱 デリカ スペースギア」を注文した。それぐらい「ヨンクのデリカ」は、ハジメ先生およびハジメ家の人々のライフスタイルと価値観に合っていた。
「もちろん息子たちがまだ小さかった頃は、普段はあまり遠くへは行けなかったのですが、夏休みや冬休みになれば、それこそ月に5000kmぐらいは走ってましたね」
キャンプにスキーにカブトムシに日本海の夕日にと、八面六臂の大活躍を見せてくれた3台目の中古スペースギアだったが、大活躍をしてくれただけあって、さすがにガタも生じてきた。そしてそれに伴い、いわゆる維持費もかかるようになってきてしまった。
そのため今から5年ほど前に乗り替えたのが、現在乗っている2015年式の三菱 デリカD:5だ。
とはいえ今から5年前ともなれば、スターワゴンとスペースギアに乗っていた頃は幼かった息子たちも成人しており、ついでに言えばハジメ先生には昨年夏、「孫」も誕生している。つまりデリカ D:5に乗せるべき息子たちは――もちろんこの世にはいらっしゃるが、ハジメ先生の近くにはいない。
そのためハジメ先生は今、せっかく乗り替えた三菱 デリカD:5を、自宅近隣での買い物などにしか使用していない――と思ったら大間違いだ。相変わらず、先生は長距離をガンガン走っている。購入時点では約6万kmだった中古D:5の走行距離は、早くも17万kmを超えた。
「妻とね、全国の道の駅へ行くんですよ。折りたたみ自転車とかサップを積んでね。おかげさまで関東甲信越の道の駅はすべて制覇しました。“全国制覇”も、そう遠くない未来に達成できるかもしれません」
「道の駅へ行く」というアクションは、仲良しではあるものの、当然ながら趣味嗜好までが完全に一致しているわけではないハジメ先生と妻との「最高の合意ポイント」だった。
ハジメ先生は、とにかく運転が大好き。「運転してろ」と言われれば、500kmでも600kmでも平気で走っていられる。小学校教諭の職を定年退職した後は、本気でトラックドライバーに転じようかとも考えているほどだ。
一方の妻は、運転免許は持っているものの完全ペーパードライバー。しかし「お買い物」は――高価な宝飾品などではなく、旬のおいしいものなどを買いに行くという行為が、とにかく大好きな女性だ。
そんな2人にとっての素晴らしき妥協点が「休日、例えば旬を迎えた下仁田ねぎが欲しいと思ったなら、近所のスーパーなどへ行くのではなく、群馬方面の道の駅までデリカD:5をひとっ走りさせる」というものだった。
「そうすれば私のドライブ欲も、妻のお買い物欲も同時に満たすことができますからね(笑)。そして道の駅の近くにはサイクリングロードがあることも多いですから、天気が良ければ買い物を済ませた後、折りたたみ自転車でポタリング(特に目的を定めず、自転車でのんびりと走ること)をしたりもします。あとは海や湖があれば、サップを楽しみますし。なんでも積めて、どこへでも走って行けるというのは、デリカに限らず車というものの本当に素敵なところですが、特に4WDのデリカD:5は、人間に“自由”をプレゼントしてくれる素晴らしい乗り物だと思っています」
相変わらず平日における仕事は激務で、特に6年生を担任するのは心身ともに大変な部分も多いという。しかし――。
「休日にデリカD:5を駆ってどこかへ走っていけば、その瞬間瞬間の素晴らしい景色やさまざまな出来事によって、自分を完全にリセットすることができるんです。そしてそれは、私の仕事に関しても同じだと思っています。
子どもの教育というのは難しいものですし、日々さまざまな問題を抱えることになります。でも、そんななかでも小さな輝きが見えたとき、例えば子どもたちがちょっと変わってくれた瞬間などに、『あぁ、自分はこの一瞬のために教師をしているんだな』と、つくづく思います。だから今後も、瞬間瞬間の美しさや楽しさを追求しながら仕事をしていきたいですし、妻と一緒に『デリカがある人生』も歩んでいきたいですね」
現在乗っている三菱 デリカD:5では「走行20万km」をとりあえずの目標にしているというハジメ先生。だが今のところどこにも不具合は見当たらず、「息子たちも巣立ったので、今後は車の後部にベッドキットを入れて、車中泊仕様にしてしまおうかとも考えています」と言う。なんならこの人は30万kmぐらいまではデリカD:5に乗り続けるのではないかと、筆者は勝手ににらんでいる。
(文=伊達軍曹/撮影=阿部昌也/編集=vehiclenaviMAGAZINE編集部)
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