【MIRAIオーナー’sボイス】MIRAIを選ぶ理由は人それぞれ。「新しいもの好きだから」だっていいじゃないか。
この「MIRAIオーナー’sボイス」は、2020年12月にフルモデルチェンジを実施し新型へ生まれ変わったMIRAIの初代モデルに乗るオーナーがどのようなカーライフを送っているのかを深掘っていくシリーズだ。
2020年は、クルマと環境について考えさせられる年だった。
もちろんそれ以前からこの問題がクローズアップされる機会はたくさんあったし、2009年からスタートした、環境への負担が少ないクルマが税制面で優遇されるエコカー減税も環境問題の取り組みの一つだ。
ただ、多くの人はエコカー減税を環境問題というよりも「税金が安くなるから得」「対象車は燃費がいい」という経済的な面を見ていたのも事実だ。
ここ数年は日本車だけでなく輸入車メーカーからも電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)が相次いで発売され、さらに2020年末に政府や東京都から電動車普及の談話が出たことで、環境を考えたクルマ選びを意識しはじめたという人もいるだろう。
環境性能に優れたクルマとして注目されるもののひとつに燃料電池自動車(FCV)がある。燃料の水素を酸素と化学反応させて生み出した電力でモーターを動かすFCVは、化学反応時に排出されるのが水なので環境を汚すことがない。
2019年4月からMIRAIに乗っている石堂清雅さんも環境のことを考えての選択だったのだろうと思い、まずはその辺りを伺ってみた。
「同じことをよく聞かれるのですが、まったく考えませんでした。たまたま『国と自治体からの補助金に加え、4年後の残価を50%に設定する』という記事を見て、『これってものすごく安いのでは?』と興味を持ったのです。税制面での優遇が大きいのも魅力でした」
石堂さんはすぐにトヨタディーラーに勤務する友人に連絡し、見積もりを取った。当時の補助金は国から約200万円で、東京都から約100万円。これに50%の残価設定を加味すると、毎月の支払いは約2万4000円。任意保険料などを考えても毎月5万円でお釣りが来る計算だ。
石堂さんは父の代から続く総合試作・加工会社の代表取締役で、ご自身が営業車として使う手頃なサイズのクルマを探していた。毎月の経費が抑えられるのは会社としてもメリットが大きい。見積もりを見て、すぐにMIRAIを注文した。
それにしてもだ。経費面でのメリットがあったとはいえ、仕事で使うクルマだ。燃料が水素ということに不安はなかったのだろうか。
「むしろ楽しみの方が大きかったですね。私はいわゆる“新しいもの好き”で、趣味の写真撮影やビデオ撮影でも機材にこだわっています。ドローンもセミプロ仕様のものが発売された時、すぐに手に入れました」
撮影時にMIRAIのガレージを見せてもらったら、仕事で使うもの以外に新しいスキーや自転車なども置かれていた。確かに石堂さんは自分が使う道具へのこだわりが強いことが伝わってくる。
「カー用品も好きでね。昔はしょっちゅうカー用品店に行っていました。今はECサイトを見ておもしろそうなものや役立ちそうなものを衝動買いしています(笑)」
確かに石堂さんのMIRAIにはさまざまなカー用品が取り付けられている。よく見るとアルミテープチューニングも施されていた。もしかしたらMIRAIもある意味衝動買いだったのでは?と冗談半分で聞いてみると、「うーん……それは否定できない」と豪快に笑う。
もちろん購入を考える際は水素ステーションのことが頭によぎった。でも、会社があるあきる野市から11kmほど走った八王子にステーションがある。八王子は仕事やプライベートでもよく行く場所。水素の充填を手間に感じることはないだろうと考えた。
また、営業車で訪れる場所は山梨の工場や群馬の得意先など、ある程度見当がつく。調べてみるとそれぞれ遠くない場所にステーションがあることがわかった。たまに千葉に行くこともあるが、千葉なら満タンで往復できる。これなら出先で充填に困ることもない。2年近く乗る中で、水素がなくなりそうになり慌てたのは一度だけだという。
「MIRAIに乗って間もない頃に山梨の工場まで行った時のことです。その日は午後に東京でお客様との約束があったので、普段なら甲府昭和ICで降りて水素を充填するのに『水素の残りに余裕もあるから大丈夫だろう』と、そのまま東京に向かいました。ところが中央道はアップダウンが激しいので水素が思っていた以上のスピードで減ってしまい、八王子の水素ステーションに着いた段階で走行可能距離が12kmしかありませんでした。これには肝を冷やしましたね」
もちろんMIRAIに慣れた現在ではそのようなミスはしないし、たまにルーティーンで訪れるエリア以外に向かっても“Pocket MIRAI”という専用アプリで水素ステーション検索などができるのでまず困らないという。
石堂さんが仕事で話す相手は技術系の人が多い。そのため、取引先では先進技術を満載したMIRAIに興味を持たれるそうだ。
「ホンダのクラリティ フューエルセルを社用車で使っている取引先がありまして、訪問した際に私のMIRAIをクラリティの横に止めてみました。すると先方も『2台の燃料電池車が並ぶなんて珍しいよね』と面白がっていました。ふと後ろを振り返ったら多くの社員さんが窓からMIRAIとクラリティが並んでいる光景を眺めていました。みなさんやっぱり新しい技術に興味があるんだなと感じましたね」
石堂さんはMIRAI以外にもう一台、4代目キャデラック エスカレードを営業車として使っている。エスカレードが営業車なんて豪快すぎる気がしたが、理由を聞いて納得した。
先ほども書いたように山梨や群馬、長野など冬に雪が積もるエリアに行くことが多く、しかも山道を走ることもあるので上り坂でも力強く走れる四駆のSUVがベスト。さらに大量の試作品などを積んで移動するから、必然的にフルサイズのSUVが営業車になるのだ。4代目エスカレードの前は2代目エスカレード、その前はトヨタ ランドクルーザーシグナスを営業車として使っていた。
「位置付けとしてはMIRAIを営業車のセカンドカーとして考えています。シグナスは4年半で16万km、2代目エスカレードは15年で38万kmとかなりの距離を走ったので、MIRAIをメインで使うと50%の残価が付かなくなってしまいますから」
エスカレードはプレミアムブランドであるキャデラックのラグジュアリーSUVだ。ところが石堂さんは高速道路を巡航する際はMIRAIのほうが疲れにくいと話す。
「エスカレードはシートが大きくてゆったり座れますが、意外と硬いので長時間座っていると意外と疲れるんですよ。一方、MIRAIのシートはフィット感がよくて私の好みです。もう一つは静粛性ですね。エスカレードも静粛性は高いのですが、MIRAIはエンジン音がしないことが疲労軽減に効いていると思います。純正のオーディオもかなり音がいいので、移動中は好きな音楽を気持ちよく聴いています」
もちろんMIRAIに不満がないわけではない。補助金などを使って安く手に入れたとはいえ、元は700万円以上するクルマなのだから、装備はもっと充実させてほしかった。たとえばリアクォーターガラスだけでなくリアドアもプライバシーガラスにしてほしかったし、カーナビも標準装備でいいじゃないかと思ったという。
「ただ、プリウスも初代は同じような感じでしたからね。これまでにない最先端の技術を搭載したクルマを少しでも安くするためには仕方ないのかなとも感じます。プリウスも2代目はかなり良くなりましたし、私はまだ実車を見ていませんがMIRAIもフルモデルチェンジで大きく変わったと聞いています」
今はまだ残価設定の期間が2年以上残っているので何も考えていないが、このMIRAIを手放す時にまた補助金や残価設定で優遇されるプランがあれば新しいMIRAIに乗り換えるかもしれないと話す。
「今、MIRAIに興味を持っている人は新しいものが好きなはず。そういう人は水素ステーションや補助金などいろいろ調べていてある程度こんな感じかなというのは理解しているでしょうから、躊躇せず乗ってみるべきだと思います。ひとつだけ注意点を挙げるとしたら、最寄りのステーションが生活圏内かどうかを意識すること。生活圏が半径5kmか10kmかは人によって変わりますが、その中にステーションがないとだんだん面倒になるのではないかと思います」
燃料電池ユニットを使ったMIRAIは画期的なモデルだが、肩に力を入れて乗るようなものではない。生活圏に水素ステーションがあるなら、いたって普通に乗れるクルマだという石堂さん。興味ある人はこの言葉に乗ってみてはどうだろうか。
(取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/山内潤也)
[ガズー編集部]
ミライ水素ステーション一覧
https://toyota.jp/mirai/station/index.html
※MIRAIの購入についてはお近くの販売店でご確認ください。
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