車中泊の達人が、日産 エルグランドのキャンピングカーを選んだ理由
キャンピングカーへの関心が高まっている。
『キャンピングカー白書2020』(一般社団法人日本RV協会)によると、2019年に生産されたキャンピングカーは前年対比114.3%。出荷台数+輸入台数から廃棄台数を差し引いた国内の保有台数もデータが公表されている2005年から右肩上がりで伸び、2019年は11万9400台だった。
2020年のデータはまだ発表されていないが、コロナ禍で密を避けて旅をしたり、ワーケーションの拠点とするために、売れ行きは好調と言われている。
おそらくキャンピングカーショーなどでさまざまなキャンピングカーを見ながら、全国を旅することを想像したことがある読者も多いはずだ。
しかし、いざ購入となると二の足を踏む人が多いのも事実。理由としては「普段使いで困りそう」「値段が高そう」「大きすぎる」などが挙げられる。
今回話を伺った浅井佑一さんは、車中泊研究家という肩書きで『車中泊で巡るオススメ道の駅ガイド2021』をはじめ、道の駅やキャンピングカーに関する書籍出版や雑誌などへ記事を寄稿している。愛車は2台目のマイカーからずっとキャンピングカーだ。
「MT車の運転を覚えようと、最初は中古車で三菱のミラージュを買いました。ある日、取材で訪れたキャンピングカービルダーの駐車場の奥で『捨てられているの?』と思うような状態で置かれているフォルクスワーゲンのキャンピングカーを見つけました。それは試作したけれど商品化もできず、そのままにしてあったもの。思わず『それなら僕に売ってくれ』と口走ってしまいました」
車内にシンクやコンロ、ベッドがあるクルマの快適性。そして何よりフォルクスワーゲンの乗り味を気に入った浅井さんは、次もフォルクスワーゲンのキャンピングカーをチョイスする。選んだのはリアエンジンのT3で、コーチビルダーのウエストファリアが手がけたモデルだ。
ポップアップルーフがついた本格仕様で、前席に180°回転する機構がついていたので、4人で向かい合って話すことができた。もちろん、シンクもコンロもついていた。
2014年、浅井さんは長く勤めた出版社を辞め、日本一周の旅に出ることを思い立つ。どうせ日本一周するならただ走るだけでなく、何か目的がほしい。浅井さんは読者から「道の駅が楽しい」というハガキが多く寄せられていたのを思い出し、全国の道の駅をすべて訪れる旅を思いついた。
T3を手放した後はしばらくクルマを所有していなかったため、“旅の相棒”となるクルマを探し始めた。そんな時、付き合いのあるキャンピングビルダーの社長から「日本一周するならうちのクルマを使っていいよ」と言われた。浅井さんはその言葉に甘え、トヨタ カムロードをベースに製作されたキャブコンバージョンを借りて2年3カ月かけて全国1059カ所の道の駅を制覇した。
ここでキャンピングカーにはどんなタイプがあるか、簡単に触れておこう。
■キャブコンバージョン(キャブコン)
トラックをベースに荷台部分をキャビンに架装したタイプ。広いリビングやベッドルームなどが設置できる。
■バンコンバージョン(バンコン)
ハイエースなど1BOXタイプをベースに室内を架装したタイプ。乗用車感覚で運転できるとともに、大型のキャブコンに比べて狭い道も走りやすい。アルファードやヴォクシーなど、ミニバンを架装したタイプもある。
浅井さんが日本一周の相棒として選んだキャブコンはどちらかというと一つの場所に定住するスタイルに向いていると言われている。2年3カ月の旅はさぞ快適だったに違いない。
「旅を終えてキャブコンは社長に返却しましたが、その後も新しい道の駅がオープンしています。道の駅の取材は継続していこうと考え、新しいキャンピングカーを買おうと思ったのです」
最初の日本一周の旅はすべての道の駅を回るため、道の駅から次の道の駅までの距離は短かった。しかし今後は新しい道の駅を中心に旅することになるので、一気に500km以上移動するケースも考えられる。そこで、浅井さんは機動力に優れたバンコンに的を絞って中古車を物色することに。
条件はシンクやコンロが備わっていること。そしてポップアップルーフが備わっていること。
「1〜2泊程度の旅なら普通のバンコンや軽キャンピングカーでも快適に過ごせます。でも私の場合は数カ月間旅に出っ放しになるので、車内にある程度の広さがあり、しかも車内を立って移動できるものじゃないとキツイ。だからポップアップルーフを絶対条件にしたのです」
しかしポップアップルーフ付きのキャンピングカーは人気があるため、中古車サイトで見つけて販売店に問い合わせるともう売れてしまったということが何度もあった。現在の愛車である2代目エルグランドのキャンピング仕様はやっとの思いで見つけた1台だ。
購入時の走行距離は約12万km。かなり走り込んだ中古車なので不安もあったが、実車を見たら思いの外程度がよく、しかも日産系ビルダーが架装したキャンピングカーで安心感もあったので、思い切って購入したという。
ところで、今はゆっくり寝ることに特化した“車中泊仕様車”に注目が集まっている。シンクやコンロが装備されないので8ナンバー登録の必要がないし、ポップアップルーフが備わるものもたくさんある。浅井さんはなぜシンクとコンロが備わっていることを絶対条件にしたのか。
「私は道の駅巡りの旅に2つの“縛り”をかけています。ひとつは旅の期間中は宿泊施設を利用せずすべてクルマの中で寝泊まりすること。もうひとつが食事をすべて道の駅で完結させることです。道の駅には地元の食材がたくさん売られているし、レストランもある。中には他の場所では見たことがないようなものもあって、本当に面白い。この縛りをかけて旅したほうが道の駅をより身近に感じられます。だからシンクとコンロは絶対に必要なんですよ」
2019年、「平成にオープンした道の駅は平成のうちに取材しよう」と、2度目の日本一周の旅に出る。旅の期間は3カ月。
「長期間の旅では取材以外の仕事もしなければなりません。このエルグランドにはAC電源がついているのでPCやカメラの充電は全く問題なし。今はあちこちにWi-Fiがあるからネット環境にも困りませんでした。仕事に疲れたらお湯を沸かしてコーヒーを飲みながら一休みします。その日に移動がなければ道の駅で仕入れた地酒や焼酎を飲むことだってできますから。疲れている時は寝る前に車内を片付けるのも面倒。ポップアップルーフなら車内を片付けなくても気にせず寝られるから便利ですよ」
現在、浅井さんが制覇した道の駅は1157カ所。全国の道の駅を知る浅井さんにおすすめの道の駅を教えてもらった。
■グルメ編「厚岸グルメパーク」(北海道)
道東の厚岸湾は牡蠣の特産地で、道の駅「厚岸グルメパーク」は最高に美味しい牡蠣を一年中堪能できる。しかも安い! 市場で買った牡蠣を2階のレストランに持ち込んで海鮮バーベキューを楽しむことも可能。
■温泉編「道の駅 ながゆ温泉」(大分県)
昔ながらの湯治場のような温泉施設が併設された道の駅。ここで楽しめるのは炭酸泉。ぬるめのお湯に入ると泡が身体を包み込んでくれる。徒歩数分の場所には、川岸にあり一切囲いがない“ガニ湯”や、炭酸泉で有名なラムネ温泉館がある。
「どんなに安くても、どんなに古くても、キャンピングカーが一台あれば車内でリラックスして寝ることができます。きっと新しい旅のスタイルを楽しめるようになるはずです。もし現在スペースに余裕のあるクルマに乗っているなら、試しに数泊クルマの中で寝てみることをおすすめします。きっと思いのほか快適で、自由に旅を楽しめることに気付くはずですから。『だったらキャンピングカーならもっと快適だね』。そう思ってもらえたら嬉しいですね」
浅井さんにとって、道の駅を訪れることはライフワーク。新しい道の駅がオープンすれば、全国どこへだってクルマを走らせる。キャンピングカーで暮らしながら、これからも終わりのない旅を続けていくに違いない。
(取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/柳田由人)
[ガズー編集部]
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