トヨタ タコマが思い出させてくれた、家族それぞれの夢

「明確な使用目的があるから車を買う」という例もあるだろう。例えば、サーキットで走りたいからトヨタ GR86を買う。また例えば、ソロキャンプに行きたいからスズキ ジムニーを買う――といったように。

だが車というのは面白いもので、明確な目的や理由はなく「単純に好きだから」「カッコいいと思ったから」ぐらいの理由で買った車がその後、オーナーやその家族の“世界”を大きく広げてくれることも多い。

2009年式トヨタ タコマ TRDスポーツを購入した向川文洋さんおよびそのご家族は、まさにそのパターンに当てはまるのかもしれない。

タコマ以前はトヨタ エスティマやホンダ ヴェゼルなど、まぁ言ってみれば普通の車に乗っていた。だがあるとき、「ピックアップトラックに乗ってみたい……」との思いが募ってきた。

「アメリカのピックアップの、あの無骨な感じが昔から好きなんですよね。でもアメリカ車は、私のなかでは『なんだかんだで故障しがち』っていうイメージがあるため、選んだのはトヨタのT100でした」

トヨタ T100。1990年代にトヨタが北米市場向けに作っていたフルサイズのピックアップトラックで、トヨタ タンドラの前身にあたる。

「で、T100をそれなりに楽しんだわけですが、もうちょっと新しいピックアップトラックが欲しいと思い、コレに買い替えました。2018年1月のことです。そのときは、まさか息子と2人でオフロードバイクに乗ることになるとは、夢にも思ってなかったのですが(笑)」

“コレ”こと2009年式トヨタ タコマ。トヨタ ハイラックスの北米向け仕様で、タンドラよりひと回り小さなサイズのピックアップトラックだ。

妻や子どもたちからは「乗り心地がイマイチ」との不評も浴びたが、同時に「でもカッコいいよね」との高評価ももらい、日本で乗るにも大きすぎないサイズのそのピックアップトラックは、向川家の「ファッション性の高いファミリーカー」として、ごく普通に活躍するようになった。

そして向川家のタコマが父子のオフロードバイクを載せるようになったきっかけは、約2年前に発生した。

「長男の大海(たいかい)が突然『バイクに乗りたい。モトクロスをやってみたい』と言い出しましてね……」

パパが通勤用として使っている125ccのスクーターの後ろに乗せてもらったことをきっかけにバイクへの興味が生まれ、その興味が「モトクロッサーで走ってみたい」という想いに発展したとのことだった。

だが今から2年前、大海くんからそれを告げられた直後の文洋さんは、大海くんがオフロードバイクに乗ることを許さなかった。

「やはりいろいろ危ないですし、ぶっちゃけお金もかかりますしね」

しかしその後、文洋さんの考えはあっけなく翻意された。思い出したのだ。自身も少年時代、父とともにモトクロッサーでオフロードコースを駆けていたことを。

「高校生になって中型二輪の免許を取って以降はすっかりやめてしまったのですが、そういえば自分も中学生の頃はモトクロッサーに燃えていたし、楽しかったよなぁ……と、いろいろなことを思い出しました。それを大海が『やってみたい』と言うのであれば、やっぱりやらせてあげるべきでしょう。そして正直自分も、またちょっと走ってみたい――なんて思ったんですよね(笑)」

翻意の結果今年6月、父子は埼玉県川越市にある「レンタルのモトクロッサーでオフロードを走れるコース」へと出向いてみた。

そしてそこから「レンタルではなく、息子用と自分用のモトクロッサーを買う」と決めるまでには3カ月もかからなかった。

なぜならば、家にはオフロードバイク2台を積んで走るには最適な車のひとつ、「トヨタ タコマ」があったからだ。

「タコマは荷台のフタを取って使ってますから、バイクの全高に関係なく積載できますし、そのほかの物も当然たくさん載せることができる。そしてこういったオフロードコースに来れば『荷台に乗って遊ぶ』みたいなこともできますので、タコマはまさにオフロードバイクを家族で楽しむためには最適な一台だと感じてます。そして何より“所有欲”みたいなものも満たされますよね。他の人はほとんど乗ってないし、単純にカッコいいですし」

なるほど。トヨタ タコマが――トラックゆえに乗り心地は若干悪いにしても――カッコよくて実用的でもある車なことはよくわかった。

しかし“ファミリーカー”としてはどうなのだろうか? サイズや燃費性能などの面で、「さすがに日本で普段づかいするにはちょっと……」ということにはならないのだろうか?

この点については、タコマのことが好きすぎる文洋さんではなく、妻のアンドレアさんにお聞きすることにしよう。……ぶっちゃけどうなんですか、「ファミリーカーとしてのタコマ」って?

「ぜんぜんOKだと思いますよ。私も毎日フツーに運転して、これ1台で買い物から何から、ほぼすべての用事を済ませてますし」

聞けば、アンドレアさんはトヨタ タコマを最初のうちは運転する気になれず、もう1台あった向川家の車であるホンダ N-BOXにばかり乗っていたという。

「私も四駆は大好きなんですけど、タコマはちょっと運転しづらさそうな感じがして、敬遠してました。でもそのうち旦那がタコマでの通勤をやめて、スクーターで会社に通うようになったんですよ。そうなると、ウチの駐車場の作りの関係でN-BOXを使うのが難しくなっちゃって……」

縦方向に長い向川家の駐車場には、縦列で「奥にアンドレアさんのN-BOX、手前に文洋さんのタコマ」というフォーメーションで駐車されていた。そのためアンドレアさんは買い物などに出かける際「自分では運転したくないタコマを1回出して、N-BOXを出して、またタコマをしまって」という作業を毎回行っていた。

「でもそのうちめんどくさくなっちゃって『もういいや! 今日はタコマで出かけちゃえ!』と思って、手前にあるタコマで買い物に行ってみたんです。すると『……あれ? なんかぜんぜん運転しやすいんですけど!』って気づいちゃったんですよ。燃費も、別に良くはないですけど、平均で6~7km/Lぐらいは走りますしね」

それ以来、もともとは四駆が好きで、トヨタ タコマのこともデザイン的には気に入っていたアンドレアさんは、もっぱらタコマを使うようになっていった。

「考えてみれば私はもともと、こういうカッコいい四駆が好きだったはずなのに、知らない間に自分で自分を縛りつけて、軽自動車に乗ってたんですよね。で、気づいてみたらタコマのことが気に入りすぎてて、N-BOXはもう1年ぐらいエンジンもかけてないなということで(笑)N-BOXは先日売却しました。だから今、我が家にある車はこのタコマだけです」

日本ではメジャーなカテゴリーとは言い難いピックアップトラック。それゆえ、道行く人は向川家のトヨタ タコマを見て「……どうなんだろう? 日本では使いづらいんじゃないかな?」などといったニュアンスで、いささか懐疑的に思うのかもしれない。

だが実際のタコマは――トラックゆえの乗り心地以外は――夢を追いかける息子にとっても、夢を思い出した父にとっても、そして「どうせならカッコいい車を普段づかいしたい」と考える母にとっても、それぞれの世界をよりいっそう広げてくれて、しかし“ごく普通の家族グルマ”としても使える一台だったのだ。

ちなみにこれは蛇足になるのかもしれないが、向川文洋さんにこっそり聞いたその中古車購入価格も、“ごく普通”であった。

(文=伊達軍曹/撮影=阿部昌也/編集=vehiclenaviMAGAZINE編集部)

[ガズー編集部]

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