スバル フォレスターの価値。それは「帰って来られる」ということ

大阪府のフリーカメラマン、栗山主税さん。どこか芸術家的な響きも伴う「フォトグラファー」と呼ばれるよりも、シンプルに「カメラマン」と呼ばれることを好む。

「クライアントから『これこれこういう写真を撮ってきてほしい』みたいな依頼を受けて、依頼と寸分たがわぬ写真を撮ったうえで『どやっ!』という感じで(笑)納品するのが大好きなんですよね」

撮影職人としての腕前には自信がある。いわゆるクライアントワーク(注文に基づいて行う仕事)も、今言ったとおり大好きだ。

だがそれとはまったく別に「ライフワークとしての風景写真」を、昔から全国各地で撮影している。

  • 会津地方遠征時のワンカット。撮影=栗山主税さん

「注文仕事(クライアントワーク)だけをやっていると、どうしても凝り固まってくるんですよね。いわゆる“キレイな写真”しか撮れなくなり、そこから良い意味で崩すことができなくなってくる。そうならないための言わば鍛錬として、注文仕事が入っていない日はほぼ必ず日本のどこかまで行って、自分のための写真を撮るようにしてるんです」

そんな栗山さんの“鍛錬”の相棒として、なくてはならない存在となっているのが2019年式のスバル フォレスター X-BREAKだ。

もともとは初代のフォレスターに20年近く乗っていた。強力な2Lターボエンジンと、まるで自分の手足のような感覚で扱えるサイズ感とダイレクト感を有する初代スバル フォレスターは、栗山さんにとってまさに最高の相棒だった。

だがそんな相棒にも、機械である限り“終わり”あるいは“お別れ”がやってくる。

「足回りの、とある部品を換えないと次の車検に通らない――ということになったんですが、その部品を換えるには足回りのリンクをすべて外す必要がありました。で、それだけならまだいいのですが、リンクを外すためのネジがすべてサビて固着してしまっていて、結局はメンバー(俗に言うフレーム)ごと換える必要があることがわかったんです」

たったひとつの小さな部品を換えるためだけに、メンバーを交換するのかぁ。どないしよ……と悩みながらディーラーへ行った際に、今現在の相棒をたまたま見つけた。

「ディーラー試乗車としての役割を終えたばかりの一台として、片隅に置かれていたんです。で、担当セールスマンに『これ何?』と聞くと『や、今度中古車として売りに出す予定の元試乗車です』と言うので、『売りに出さんとどっかに隠しといて! 俺が買うから!』と言って、そのとき持っていた現金のすべてを手付金として彼に渡しました。といっても2万円しか持ち合わせていなかったのですが(笑)」

栗山さんにとって最高の相棒だった初代スバル フォレスターに乗っていた頃から「次の一台」は探し始めていた。20年近くも乗っていればさまざまな劣化や「時代遅れになる部分」もあるゆえ、当然の行動ではある。

そして、その頃からすでに現行型のスバル フォレスターには目をつけていた。

「僕の場合はライフワークとして山に行くでしょ? そうなると、車ってちょっとでも車幅が狭くて軽いほうが好都合なんですよ。で、フォレスターの対抗馬であるトヨタ RAV4なんかももちろんいい車なんですが、フォレスターと比べると車幅が広くて、ちょっと重い。

しかしフォレスターの全幅は1800mmを少し超える程度であり、2.5Lの自然吸気エンジンだった時代のモデルは車重も1.5tちょっとと、競合のなかでは一番軽い部類に入る。そしてその四駆性能は、モノコック構造の車のなかではピカイチである――ということで、現行前期型のフォレスターは、実際に買う前から超有力候補ではあったんですよね」

そんな超有力候補の、ほとんど新車のようなモノである「走行2500kmの元試乗車」が、しかも軽量な自然吸気エンジン搭載車としては最後の世代が、新車よりはずいぶん安い価格で買えるかもしれない――となれば、手持ちの現金を全額渡したうえで「これ、隠しておいて!」と叫んだ栗山さんの気持ちはよくわかる。

かくして今から約1年前、栗山さんと「相棒Season2」との生活が始まった。

クライアントワークがある日にはフォレスターを機材車にして撮影現場へ向かい、それがない日には、天気図や現地の情報などを仔細にチェックしたうえで「ここしかない!」という場所まで、ここしかないというタイミングで、フォレスターに乗って出かけていく。

「天候や太陽の傾き具合、星空を撮る場合は星の位置、鉄道を入れ込みたい場合は鉄道のダイヤグラムなど、すべてを頭に入れたうえで『こういう写真を撮りたい』と考えると、自ずと場所や時間は決まってくるんですよね。で、それはたいてい自宅からかなり遠いハードな場所だったり(笑)、とんでもない時間帯だったりします。

そこまで確実にたどり着き、現場でスムーズかつ安全に移動し、そして無事に帰って来る――という一連の流れを遂行するためには、タフな車じゃないと駄目なんです。でも同時に長距離を走ることにもなりますから、高速道路なども快適に走れる車じゃないといけません」

悪路を無事に走り切るだけであれば、スバル フォレスターよりも、例えばスズキ ジムニーのほうが向いているのかもしれない。ジムニーであれば、それこそ栗山さんが言う「車幅が狭くて軽量であること」という山における重要な条件を、見事に満たしている。

だが往復のための快適かつ安全な移動と、雪の山中などでのタフな機動を両立できる車としては、スバル フォレスター以上の存在はそうそうないというのが、栗山主税さんの見解だ。

「ライフワークとしての写真を撮ることはもちろん大切ですが、何よりも大切なのは『無事に帰って来られる』ということなんです。帰って来ないことには“次”はないですからね。フォレスターであれば――前の相棒である初代フォレスターでもそうでしたが、今の型であれば特に、間違いなく帰って来られます。だから、この車は僕にとっては絶対的に必要な存在であり、代えが利かない存在なんです」

初代フォレスターには結局20年近く乗った栗山さんだが、このフォレスターにも「あと20年は乗りますよ」と言う。

「その頃にはEVの時代になっているのかもしれません。でもまぁ多少高めの税金を払えば、まだまだガソリン車にも乗れるんじゃないですかね? もちろん未来の法制や条例についてはわかりませんが、もしも税金のようなものを追加で払えば乗れるのであれば、僕はこれに乗り続けます。それだけの価値が、この車にはあります」

生涯にわたる鍛錬を怠らない覚悟を決めた芸術家あるいは職人としての顔で、栗山主税さんはそう断言した。

(編集=vehiclenaviMAGAZINE編集部/文=伊達軍曹/撮影=阿部昌也)

[GAZOO編集部]

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