マツダ RX-8のノーマルエンジン最速ラップタイム保持者が「CX-8」にもホレる理由
黒田晃尚さん。エンジン無改造のマツダ RX-8としては最速のラップタイムを、各地のサーキットで記録している男だ。
筑波サーキットのコース1000(ショートコース)では数年前から最速記録を保持し続けており、コース2000(本コース)では2022年1月、それまでの記録を塗り替える1分1秒264をマークした。そのほか富士スピードウェイにおいても、エンジン無改造のマツダ RX-8としての最速ラップを保持している。
そんな、アマチュアとしてはべらぼうなまでの“腕前”を誇る黒田さんがサーキットまで向かう車として、そして家族の車として愛しているのが、RX-8と同じくマツダの3列シートSUV「マツダ CX-8」だ。
“最速男”から見た、家庭的な3列シートSUVの乗り味やパフォーマンスとは、果たしていかなるものなのか?
そのことを探る前に、まずは黒田晃尚さんの「最速男としてのヒストリー」を簡単にご紹介していこう。
免許を取るとほぼ同時に運転させてもらった、地元の先輩が所有するBMW 318iの動きにまずは感動し、また別の先輩に運転させてもらったA70型トヨタ スープラの圧倒的な加速力によってスポーツカーの魅力に目覚めた黒田さんは、祖父と共有する形でST202型トヨタ セリカ SS-IIIを購入。それに乗ってサーキットも走るようになった。
しかしそのSS-IIIがAT車であることに若干の限界を感じはじめ、約3年後に5MTのST205型トヨタ セリカGT-FOURを購入。それでもってジムカーナ競技に励みながら腕を磨いた。
その後、就職を機に「自家用車がない生活」を6年ほど送ったが、結婚を機に2008年、マツダ RX-8 タイプEのAT車を新車で購入した。
「『結婚を機にRX-8を買う』というのも変な話かもしれませんが(笑)、妻もRX-8のデザインは大いに気に入ってくれたので、『せっかくだから運転が楽しい車を我が家のファミリーカーにしよう』ということになったんですよね」
オートマのRX-8に荷物を満載し、家族であちこちを旅行した。そしてサーキットも激走した。
「ATのRX-8でも『筑波のコース1000ではオートマ最速!』を自称していましたが、それはATのRX-8でサーキットを攻める人なんてほとんどいないゆえのことなので(笑)、半分以上は冗談として言っていたものです。しかしそのうち、もっと速く走れる可能性がある“MTのRX-8”に乗り替えたくなってしまいまして……」
そう思考した結果として入手したのが、現在はサーキット専用車として活躍している2012年式マツダ RX-8 スピリットRだ。
「ノーマルエンジンのRX-8は、直線は決して速くはありません。ストレートではスズキのスイフト スポーツのほうが速いぐらいかもしれませんが、ハンドリングは本当に素直なんですよ。ステアリングをパッと切ればスッと曲がっていくし、アクセルをちょんと踏めば安定する。純正状態でもそういった傾向が強いですし、今はRX-8のそういった美点をさらに活かせるような、サーキット専用のセッティングにしています」
それらの結果として――ノーマルエンジンの部では――筑波のコース1000とコース2000、そして富士スピードウェイにおける最速ラップ保持者となり、現在は鈴鹿サーキットにおける最速ラップも狙っている黒田さんだ。
「最速ラップをマークしたからといって賞金が出るわけでもなんでもないのですが(笑)、登山のようなものなのかもしれませんね。ラップタイムというのはさまざまな外部要因にも強く影響を受けるものではありますが、それでも『前回までの自分を超えたい!』って、なぜか強く思うんです。妻にはまったく理解してもらえませんが(笑)」
黒田さんとしては「RX-8をファミリーカーにする」という選択もぜんぜんアリだというが――というか、過去にはATのタイプEで実際にそれをやっていたわけだが――ここ最近は車の運転よりもアウトドアで行うキャンプのほうが大好きになっている妻のため、そして長男と長女のために選んだのが、3列シートのSUVであるマツダ CX-8だった。
とはいえ――筑波サーキットのコース2000を完全ノーマルエンジンのRX-8で1分1秒264で走るほどの男が、「3列シートSUV」の走行フィールおよび走行性能で満足できるものなのだろうか? やはり黒田晃尚さんも「家族のために自分を押し殺しているパパさんの1人」なのだろうか?
「それがですね……実はぜんぜんそんなこともないんですよ! マツダ CX-8のドライビングフィールや性能には大いに満足してまして、実はこのCX-8も2台目なんです。つまり、連続してCX-8を買っちゃうぐらい気に入ってるんですよ」
もちろん車両重量2t近くとなる車であるため、RX-8のような軽快感は――当たり前だが――ない。だが車におけるドライビングプレジャーとは「ヒラヒラ軽快に走る」という部分だけにあるわけではない。それとは別種のプレジャーを、黒田さんはCX-8の中に見いだしているのだ。
「SUVというよりは『ちょっと大きめなセダン』って感じなんですよね、CX-8の操縦フィーリングって。もちろん、この重量ならではの慣性モーメントみたいなものはそれなりに感じますが、それも大柄なSUVとしては最小限であるように思えます。あとはG-ベクタリングコントロール プラスの威力もあって、本当に走らせやすいんです。大きめな車の運転に不慣れな人であっても、CX-8であればすぐに慣れるのではないでしょうか? 高速道路を走る際の安定感や、その安定感とディーゼルターボエンジンのトルクがもたらす“ある種のプレジャー”は、クセになる味わいですね」
とはいえ大きめなSUVであることは間違いないため、3列目シートをたたんでしまえば本当にたくさんの荷物が載る。サーキットで最速ラップを叩き出すための各種ギアも、家族で有意義な時間を過ごすためのさまざまな道具や、幸せなお買い物の成果物も――。
「CX-8の後継モデルとして発売されると噂されているFRレイアウトのCX-80に、興味がないと言えば嘘になります。でも――最高の実用車であると同時に“運転自体が楽しめる車”でもあるCX-8をわざわざ手放す理由は、どこにもありませんね」
筑波サーキットでのRX-8による練習走行を終え、レーシングスーツから私服へと着替える途中、“最速男”と“パパ”の中間めいた表情で、黒田晃尚さんはそう言った。
(文=伊達軍曹/撮影=阿部昌也/編集=vehiclenaviMAGAZINE編集部)
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