遊びも仕事も全力な「職人さん」が、初代レクサス RXの前期型にこだわる理由
「す、水上バイクを進水させるためとはいえ、レクサスを海の中に入れちゃって大丈夫なのか?」
思わずそう心配したくなる絵面ではあるが、大丈夫。写真の場所は海ではなく、淡水の湖である茨城県の霞ヶ浦。それゆえ、初代レクサス RXハイブリッド前期型の下回りがサビてしまうことはない。
そしてグリーンの水上バイクにまたがる人物は、その水上バイクと初代レクサス RXのオーナーである谷内竜吾さん。外構工事や塗装工事など、住宅に関することなら一貫して作業を請け負う小さな会社の社長さんだ。ざっくり言ってしまえば「職人さん」である。
職人さんというのは――谷内さんのように腕が良く、人当たりが良いナイスガイである場合は――実はけっこうな額のお金が稼げる仕事だ。
そのため谷内さんが今から4年前にこの初代RXの前期型を購入した際には、同じ初代RXでも、フロントにスピンドルグリルが採用された「後期型」を選択することもできた。また事業が順調に伸長している現在にあっては、2代目の(つまり現行モデルの)レクサス RXの購入も――谷内さんのフトコロ事情を詳細にお聞きしたわけではないが、おそらくは――可能なはず。
だが谷内さんはあえて「初代の前期型」を選び、そしてそれを後期型や現行型などに買い替える気も「さらさらありません」と言う。
この車が、谷内さんにとっての「理想的なオールラウンダー」だからだ。
「これより新しい世代のRXは、決して悪く言うわけではないのですが『自分、舗装路以外は走ったことがないし、走るつもりもありません』みたいな雰囲気を放ってる車じゃないですか(笑)」
確かに、そういった雰囲気は若干あるかもしれない。
「でも僕としては、車はもっと“遊び”にガンガン使いたいし、ビジュアルと雰囲気も、水辺や雪山、あるいは泥道なんかが映えるものであってほしいと思ってるんですよね。初代レクサス RXの後期型や現行モデルはちょっとラグジュアリーすぎて、そのあたりが自分には合わないんです。とはいえ、こんな僕も常に水辺で遊んでいるわけではなく(笑)、かしこまった場所に顔を出すことだってあるわけですよ」
小さな会社とはいえ社長さんだ。もちろんそういったケースも多いだろう。
「初代RXの前期型って、そのあたりの加減が絶妙なんです。先ほど言ったとおりの水や雪、泥などにもけっこう似合うし、でも同時に“レクサス”ですから、当然のようにフォーマルなシーンにもばっちり似合う。そういう車って、ありそうで、実はあんまりないんですよね」
高校へは行かなかった。中学生の頃から朝刊の新聞配達でお金を稼ぎ、中学を卒業すると、さまざまなアルバイトを掛け持ちした。
しかし20代になって結婚したのを機に「正業に就こう」と決意し、24歳で職人の道へ。まずは外構工事も得意とするタイル屋さんで外構の基本を学び、次は土建屋さんで「型枠」などの基礎工事技術をマスター。お次は土木屋さんでユンボの技術や、詳細な土木作業では必須となる「数学」の基本も押さえた。
そして――生来飲み込みが早いたちで、熱意も才能も人一倍であったゆえか――職人の世界に入ってからわずか5年で独立を果たした。29歳だった。最初はいわゆる「ひとり親方」だったが、現在では3人の従業員とともに働く「社長さん」である。
そんな谷内さんが、独立を果たすちょっと前ぐらいから憧れを抱いていたのが水上バイクだ。
「水上バイクって“究極の嗜好品”だと思うんですよ。同じようにある意味嗜好品であるオートバイは、自宅から乗っていけますし、通勤とかに使うこともできる。でも水上バイクは、まずは乗れる場所まで持って行かなければ絶対に乗れませんし、当然ですが、乗った後は持って帰らなければならない。そんな究極の嗜好品を、いつかは自分も持てるようになりたい……と思ったんですよね」
独立後、「とりあえず免許だけは」ということで、水上バイクの運転に必要な「特殊小型船舶操縦士免許」を取得。しばらくの間はレンタル艇をたまに利用する程度にとどめていた。
だが、ちょうどその頃に購入した初代レクサス RX前期型に、これまた「とりあえずバーベキュー道具を運搬するために」という理由でヒッチメンバー(けん引用連結器具)を取り付けた瞬間、「……やっぱり自分の艇が欲しい!」との想いが、炎が、燃え盛ってしまった。
そしてほぼその直後、中古の水上バイクならびに新品のトレーラーを購入した。独立から約2年後のことだった。
以来3年。月におおむね3回は乗りに行く水上バイクだけでなく、月に一度は行くことにしている近場への旅行にも、「前期型の初代RX」はいつだって谷内さんと一緒だ。
いや、仕事では主に2tトラックで移動しているわけだが、仕事以外の時間においては、「とことん遊ぶために、真剣に働いているんです(笑)」と言う谷内さんのかたわらには、いつだってレクサス RXがある。
中古車として購入してからの走行距離は、この4年間で6万kmを大きく超えた。ちょこちょこした故障はするが、大きな故障は1回もない。
「で、乗れば乗るほどに思うんですよね。『あぁ、本当に俺の理想どおりの車だな……』って。つまり、オンにもオフにもよく似合い、それぞれの働きを完璧にこなしてくれる車だよなぁ――ということです」
冒頭付近で述べたとおり、今のところはこのRXを手放すつもりは「さらさらない」という谷内さんだが、同時に「あと5年ぐらい乗って、初代RXの前期型がちょうどいい“化石”みたいな雰囲気になったら(笑)、もしかしたら他の車に乗り替えるかもしれませんね」とも言う。
確かに、今から5年後に販売されているだろう次世代SUVに乗り替えるのもステキな話であり、それを止めるつもりはない。
だが「ちょうどいい“化石”」というのは、それはそれでなかなかカッコいいものである。
それゆえ谷内さんは、完全にぶっ壊れて修理不能となるまでは、なんだかんだで「初代の前期型」に乗り続けていそうな気も……するのである。
(文=伊達軍曹/撮影=阿部昌也/編集=vehiclenaviMAGAZINE編集部)
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