大型ラジコン飛行機を飲み込むプリウスαへの、並外れた信頼と秘めた想い
職種を詳しく明かすことはできないし、現在はご年齢に伴って引退されているが、非常にストレスが溜まる職場で、中澤健五さんは数十年にわたる職業人人生を送った。
そしてストレスフルな職種であったがゆえに、中澤さんには「ラジコン飛行機」がどうしても必要だった。
「30代になったばかりぐらいの頃にね、職場の先輩に言われたんですよ。『中澤くん、この仕事を続けるなら何か“趣味”を持ってないと、心がもたないよ』って。確かにそうなのかもしれないな……と思いましたね」
そのとき、先輩氏が若き日の中澤さんに「では俺が君に“趣味”をプレゼントして進ぜよう」といって教えてくれたのが、ゴルフと麻雀。律儀に“プレゼント”を受け取った中澤さんは今も、ご本人いわく「まあまあの腕前」を、ゴルフと麻雀において発揮しているという。
「まあゴルフも麻雀もいいんですけど、あれって4人いないとできないじゃないですか? それだとちょっと困るときもあるだろうから、何かしら『自分1人でもできる趣味』を探すため、とりあえず本屋さんに行ってみたら――1冊の雑誌と出会ってしまったんですね」
それは『ラジコン技術』という、1961年創刊の老舗月刊誌だった。
「見た瞬間に『これだ!』と思いましたよ。ラジコン飛行機なら1人で楽しめるし、雨降りの日でも、家の中で“組み立て作業”を楽しめますからね」
しかし、数あるラジコンのジャンルのなかで、なぜ「飛行機」だったのだろうか?
「例えば船のラジコンでもいいんですけど、あれって2次元の動きですし、仮にエンジンが止まっても沈みはしないじゃないですか? でも飛行機は左右に加えて上下にも動くという“三次元”ですし、空中でエンジンが止まってしまえば、まず間違いなく落ちてしまう。……それってやりがいがあるぞというか、単純に『面白そう!』と感じたんです」
さっそく近所の模型屋さんに相談して、比較的安価で小ぶりな入門者向けの高翼機キットを購入。それを、初めて買った初代ホンダ シビックに続く2台目の自家用車として購入していた2代目ホンダ アコードに積み込み――何度も墜落させながらではあるが――ストレスフルな激務のかたわら、ひたすら腕を磨いた。
そして、時を追うごとに中澤さんの愛車は2代目アコードからトヨタ マークII、同じくトヨタのクラウンへと変わっていき、“空飛ぶ愛機”のほうも徐々にサイズアップさせていきながら、それらをマークIIやクラウンのトランクに収容して飛行場まで運び続けた。
「まぁクラウンの後はミニにも7年ぐらい乗って、それにもラジコン飛行機を載せてましたよ(笑)。でもそうこうするうちに、ただ飛ばすことに飽きたというわけではないのですが、“究極”にチャレンジしたくなったんですよね」
ラジコン飛行機における究極とは、現在中澤さんが行っている「F3A」という競技。いわばラジコン飛行機の曲芸飛行だが、ただ適当に宙返りや急降下などをすれば良いというわけではなく、細かく定められた規定の動きをどれだけ正確に、どれだけ美しく行えるかを競う競技である。
「そのF3Aを始めようと思って、実際に始めたのが今から10年ぐらい前、62歳のときでした。そしてF3Aで使用する『200cm以内の機体』を積載するために、このプリウスαを買ったんです」
数ある車のなかからプリウスαを選んだ理由は「それがトヨタの車だったから」だと、中澤さんは言う。
「私の中にはね、『トヨタの車は絶対に壊れない!』という自信あるいは信頼があるんです。マークIIに7年、クラウンにも7年乗りましたが、半年ごとの点検を受けてさえいれば、本当に壊れない。途中で1回だけタイヤがパンクしましたが、まぁパンクは故障じゃないですよね(笑)」
中澤さんが自身の経験から導き出した「トヨタの車なら、そう簡単に壊れることは絶対にない」という、ある種の法則。しかしその法則だけでは、中澤さんがプリウスαを選んだ理由は説明できないような気もする。
なぜならば、サイズ200cm以内の“大型機”を積載できそうなトヨタ車は、プリウスα以外にもノアやアルファードなどたくさんあり、むしろそれらミニバンのほうが、F3A機を載せるには好都合に思えるからだ。
「確かに箱型のミニバンのほうが、飛行機を載せるという面ではいいのかもしれませんが――5年前に亡くなった妻がね、病気のため足が悪かったんですよ。ステップ位置が高いミニバンだと……乗り込めないんです。でも着座位置が乗用車並みのプリウスαなら、足が悪い彼女も乗り込むことができた。そして私の飛行機も十分に積載できるし、私が絶大な信頼を置いているトヨタ車ということもあって(笑)、私たちにとっては『プリウスαの一択』だったんですよね……」
中澤さんの自家用車がミニだった頃、病院から退院する妻を、長期入院していた彼女が初めて目にすることになるミニで迎えに行くと、第一声は「うるさい車ねぇ……」だったという。だが同様のシチュエーションをプリウスαによって繰り返した際の第一声は、「静かでいい車ねえ」というものだったそうだ。
そんな妻も、残念ながら5年前に亡くなった。そして中澤さんは、F3A競技における上から2番目の難関検定資格である「マスターズ」を、ご本人いわく「まぐれで」取得した。
それでもF3A競技を――というか、仲間とともにF3A機を飛ばす楽しみを手放すつもりはないし、10年近く連れ添ったトヨタ プリウスαを手放すつもりもない。
「マスターズのさらに上に『スーパーマスター』という最上級資格があるのですが、それはもういいんですよ。今は技術的な向上よりも、仲間たちと“集う歓び”のほうが、私のなかでは勝っています。5年前に妻が亡くなって寂しくはなりましたが……でもこの飛行場に来れば、誰かしらがいます。仲間たちと楽しく飛行機を飛ばし、そして語らうだけで、気晴らしになるんですよ」
そして、新車登録から約10年がたったトヨタ プリウスαについても言う。
「私はカーマニアではないし、運転が特に好きなわけでもないですが、この車は本当に乗りやすくて使いやすい車ですし、そしてトヨタ車ですから(笑)ぜんぜん壊れない。だから“買い替える必要”がないんです」
長年の付き合いがあるトヨタディーラーの担当セールス氏には、常々こう言っているという。
「俺に“セールス”をしないでくれ、と。プリウスαみたいな車のEVが登場したら必ずアンタから買うから、どうか安心してくれ。でも逆に、それが出るまではずっとこのプリウスαに乗るよ。だから、点検で預けたときはしっかり頼むよ――ってね」
ご本人がおっしゃるとおりカーマニアではない中澤さんに、亡き妻に対しての愛はあっても、こちらの連載において常に主題となっている「自分が所有する車への明確な愛」はないのかもしれない。
だが中澤さんの「トヨタが作る車への絶大なる信頼」と「プリウスαという実用車に対する(ある種の)愛着」も、このシリーズでしばしば主題となる“自動車愛”の一側面であるような気はしてならないのだ。
(文=伊達軍曹/撮影=阿部昌也/編集=vehiclenaviMAGAZINE編集部)
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