森の中に理想のサウナを作った3兄弟の暮らしを支える日産 デイズ
サウナがブームになって久しい。専門誌や多くの書籍が発売され、ドラマも放送された。各地のサウナ施設には連日多くの人が訪れ、入場制限が行われることも珍しくなくなっている。
今回取材した元山巧大(こうだい)さんもサウナにハマり、時間があれば各地のサウナでととのっている一人だ。
ただ、元山さんには問題が一つあった。元山さんは腕と足首に小さなタトゥーを入れている。これが原因でせっかくいい施設を見つけても入場を断られることが多い。
「東京オリンピックを機に寛大になった施設もありますが、日本ではまだまだ多くの施設でタトゥーは禁止されています。別に悪いことをしたり人に迷惑をかけていたりするわけでもないのに断られるのは不思議で仕方ありませんでした」
気に入った場所があっても入れてもらえないなら、自分が好きな場所を作っちゃおう。元山さんはこう考え、山梨県富士吉田市に本当にサウナを作ってしまった。なんともすごい行動力だ。
元山さんは長崎県出身。父親は和裁の仕立て業と和裁の学校を営む職人で、自分が跡を継ぐつもりでいた。ところが修行中に父親の会社が倒産。元山さんは戻る場所を失ってしまった。これからどうしようと考えた時、人と接することが好きだった元山さんは営業の仕事をしたいと日産のディーラーに入社した。
そんな時、東京で仕事をしていた弟から連絡があった。
「父親がやっていた和裁を広めるためにブランドを立ち上げようと思う。若い人にも興味を持ってもらえる和服を作って、着物業界を変えたい。それを手伝ってほしい」
もともと家業を継ぐつもりでいた元山さんにとってこの誘いは魅力的だったが、ここでクルマの仕事を辞めるとすべてが中途半端になってしまう気もした。そこで元山さんは弟に「今の仕事で結果を出すまで待ってほしい」と伝えた。そしてがむしゃらに働き、入社からわずか3年で九州エリアのトップセールスマンになったという。
結果を出した元山さんは自動車販売の仕事を辞めて上京。弟とともに和服ブランドを立ち上げた。現在は着付けが不要で着物に不慣れな若者でも気軽に楽しめる和服ブランドの運営のほか、和テイストのダイニングバーも経営している。
「僕の原動力は“好きなものを仲のいい友達とシェアしたい”という思い。和服のブランドは自分が好きでずっと着ていて『これ、いいでしょう?』というところからスタートしました。仲のいい友達とお酒を飲むのも好きで、みんなが集える場所が欲しくなりバーを作りました。
サウナも同じ。僕が心から満足できる究極のサウナを作って、それを多くの人に味わってもらおうと思ったのです。もちろんタトゥーが入っていてもOKにして(笑)」
元山さんにとっての“究極のサウナ”とは、『いい水』と『ととのう環境』にある。サウナを出た後に肌に優しい水風呂に入り、自然の中でまったりと過ごす。元山さんは2021年頃から各地の別荘地などをまわり、同時に周囲の人に「最高のサウナを作れる場所を探している」と話していた。すると2022年4月頃に「富士吉田の山の中に良さそうな場所があるよ」と声がかかった。
そこは森の中にある湯治場としても知られ、富士の湧き水が流れる静かなるエリアだった。元山さんは究極のサウナを作るのはここだ、と思ったという。
思い立ったら即行動に移すのも元山さんのポリシーだ。ここから怒涛の数ヵ月がスタートする。
元山さんは東京在住だが、サウナづくりに集中するため、富士吉田に滞在する時間が多くなった。そこで富士吉田に部屋を借り、クルマも手に入れることにした。
元山さんは日産 パオやスズキ ジムニーなど古いクルマが好みだったが、これらは現在中古車相場が高騰しているため、予算内で買うのが難しい。しかもこのプロジェクトにはほとんど運転経験がない弟も関わることになった。サウナをオープンさせる場所は森の中にあるので、アプローチする道は細い山道になる。そこで運転に不慣れな弟でも取り回しがしやすい4WDの軽自動車にすることにした。
「じゃあ軽の4WDで何を選ぼう。そう考えた時に、僕が営業時代にたくさん販売していたデイズが頭に浮かびました。デイズは本当によくできた軽自動車で、お客さんに自信を持って勧めていました。それを思い出して、すぐに僕が販売していた先代デイズハイウェイスターを手に入れたのです」
富士吉田の生活にデイズがぴったりだと思った最大の理由は荷室の使い勝手だ。デイズは後部座席を格納するとほぼフラットな荷室空間が出現する。サウナの運営ではたくさんの薪をクルマに積むことが多いので、便利に使えるだろうと考えたという。
「営業時代はデイズを多くの方に勧めていましたが、当時僕はティーダラティオとV36型スカイラインというデイズより大きなクルマに乗っていました。もちろん商品のことはしっかり勉強していたのでお客さんに間違ったことは伝えていません。でも、自分で実際に乗ってみて『デイズは便利ですよ』と話していたことが本当だったと実感しています」
新しくサウナをオープンさせるにあたり元山さんはアーティスト活動をしていた3男も巻き込み、3兄弟で着物ブランド・ダイニングバー・サウナを回していく体制を整えた。それぞれが東京に拠点があるため、誰かが富士吉田に移住する形にすると暮らしに支障が出かねない。そこで1週間ずつ交代で富士吉田に通うスタイルを取ることにした。東京と富士吉田は高速バスで移動できるので、デイズは富士吉田での移動に特化できる。高速道路を走ることがないのでNAエンジンの軽自動車でも大丈夫だろうと思ったのも、デイズを選んだ理由の一つだと話す。
「強いてデイズの不満点を挙げるとするなら薪を満載して山道を登る時にパワー不足を感じることくらい。でもスピードを出せるような道ではないので、たいして気にならないです。まだ乗り始めて1年も経っていませんが、すごくいい仕事をしてくれていますよ」
この場所を見つけてから4ヵ月。元山さんの理想に近いサウナは無事にオープンした。オープン前のレセプションで仲間を招待したら、みんな絶賛してくれた。
「夏にオープンして、3つの季節を過ごしましたが、ここは森の中で四季を感じながら外気浴できるのが最高です。まだ味わっていない春も間違いなく気持ちいい時間を過ごせるでしょう」
これまでクルマがある暮らしを体験していなかった弟たちも予約が入っていない時は御殿場のアウトレットまでドライブしたりするなど、クルマが身近にある富士吉田での暮らしを楽しんでいるようだ。
サウナが軌道に乗ったらもう少し大きなクルマに乗り換えることも考えている。元山さんが目をつけているのは、古めのトヨタ ランドクルーザーやジープ ラングラー。カスタムしたトヨタ ハイエースにも興味があるという。
なるほど。今流行しているオーバーランドスタイルやバンライフのイメージがあるクルマたちは、森の中にあるオシャレなサウナにぴったりハマるだろう。
それまでには弟たちもクルマの運転に慣れているだろう。自分たちの夢を協力し合いながら実現してきた3兄弟だ。きっと次も楽しみながら、クルマがある風景が最高にカッコよくなる一台を選ぶに違いない。
【Instagram】
@luont_sauna_fuji
(取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/柳田由人 編集/vehiclenaviMAGAZINE編集部)
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