一匹狼の職人が10年越しの目標を達成して手に入れた憧れのレクサス LC
新潟県長岡市にあるSさんの邸宅。眼の前に田園風景が広がる、とても心地のいい場所だ。休日には仲間が集まりバーベキューなどを楽しんでいる。
Sさんの仕事は建設業。以前は社員を雇いながら仕事を受けていたが、現在は「みんな自由に働いたほうがいい」と社員は雇わず、施主からの依頼内容によって職人たちが集まり、チームで仕事をする体制をとっているという。
自宅横には真新しいガレージが建てられていた。これはSさんにとって特別なクルマの納車に合わせて作ったもの。それが今回紹介するレクサスのフラッグシップクーペ、LCだ。
Sさんは子どもの頃からクルマが大好きで、運転免許を取得してからはさまざまなモデルを乗り継いできた。最初に選んだのはマツダのFC型RX-7。当時はRE雨宮の代表である雨宮勇美さんに憧れていて「免許を取ったら雨さんのところに行かなきゃ!」と思っていたという。もちろんFCはガッツリとチューニング。結局FCは2台乗り継いだ。
チューニングカーの次にハマったのはカーオーディオ。この時に選んだのはステーションワゴンが多く、デッドニングを施したうえでアルパイン、アゼスト、カロッツェリア、ロックフォード・フォズゲートなどさまざまなブランドのオーディオを組んだ。最終的には7.1chのシステムを組み、車内で映画を観る時間を楽しむようになった。
自身の中でカーオーディオ熱が収まった後はBMW 5シリーズやトヨタ セルシオなどに乗るように。そして仕事が忙しくなってからはトヨタのカローラフィールダーやサクシード、プロボックスといった仕事でも使うクルマばかり選ぶようになった。
「中でもカローラフィールダーは重宝しました。上級グレードのW×B(ダブルバイビー)は装備もよくて満足度が高いのに、現場に乗っていっても嫌味がないんです。だから何台も乗り継ぎましたね」
カローラシリーズやプロボックスはとてもいいクルマだが、過去に選んできたクルマを考えるとSさんはクルマに興味がなくなったのかなと感じる。しかしそうではなかった。「いつかこれに乗ってやるぞ!」と思い続けながら仕事に向き合っていたのだ。それがLCだ。
「たしか2012年のデトロイトモーターショーでコンセプトカー(LF-LCコンセプト)が公開されたんですよね。あれをYouTubeで見て『なんて美しいクルマだ!』とため息が出ました。あくまでコンセプトカーですが、もしこのクルマが本当に登場したら絶対に乗りたいと思ったのをよく覚えています」
そして2016年のデトロイトモーターショーで市販モデルであるLCが初公開された。コンセプトモデルのイメージを色濃く残したスタイルは世界中を驚かせた。その時のSさんの興奮は想像に難くない。
「LCの開発責任者はトヨタの社長になった佐藤恒治さんなんですよね。彼は見た目がスマートじゃないですか。クルマだけでなく作った人もカッコいい。ますますLCに憧れました(笑)」
スタイルに惚れ込んだクルマが本当に発売された。でもそれはプレミアムブランドのフラッグシップモデルで、1300万円以上する。普通ならこの価格を見て憧れのままで終わらせてしまうだろう。しかしSさんは違った。絶対にLCに乗れる男になる。何が何でも手に入れる。強い思いで仕事に励んだ。
そして2022年。努力が実り、ついにLCを買うタイミングがやってきた。ディーラーに足を運んで話を聞いたら納車までしばらく時間がかかると言われたが、すぐにでも乗りたい。そこでSさんは高年式低走行の中古車を探すことにした。すると八王子にあるレクサスで希望の色、仕様のものが見つかった。
「こだわったのは赤いインテリアです。上品で落ち着いた赤はLCのイメージに似合いますから。もうひとつこだわったのは、LC500hではなくLC500ということです。官能的なスポーツモデルなので、V8エンジンのサウンドをとことん楽しみたかったんです」
納車されたLCにはモデリスタのアルミホイールセットが装着されていたが、BBSのRI-Dに履き替えた。紫色のベルハウジングは友人の職人にワンオフで製作してもらったそうだ。
「モデリスタのホイールは4本で121万円もするオプションなので後ろ髪を引かれましたが(笑)、せっかく乗るなら自分の好みで完璧に仕上げたいと思い、BBSを選びました」
憧れ続けたクルマが納車された日、Sさんは奥様をドライブに誘った。Sさんはドレスアップし、奥様にもお洒落をしてほしいと頼んだ。憧れ続けた優雅なクルマでドライブを楽しみ、夫婦で素敵な時間を過ごすはずなのだが……。
「ドアの開け方がわからない。スカッフプレートが幅広いから乗りにくい。車高が低いから周りの景色が見えない……。こっちは念願のクルマをようやく手に入れたのに、酷評されましたよ(笑)。しかもドライブ帰りに『近所のスーパーに寄って』と。何するの?と聞いたら『納豆と麦茶を買う』と。いや、わかるけれど、今日だけはそれを言っちゃダメだよ……。ロマンチックさのかけらもないドライブでした(笑)」
Sさんの世代だと若い頃にデートカーが流行し、ドライブデートといえばクーペだったはず。でも今はシートにゆったり座れて見晴らしのいいSUVやミニバンが女性からの人気がある時代。残念だが、奥様のリアクションも仕方ないのかもしれない。以来、Sさんは「LCは一人の時間を楽しむもの」と割り切っている。
ところで、Sさんは建築関係の仕事以外にも、さまざまな顔を持っている。若い頃はモーグルスキーの選手で、現在でもメーカーのサポートを受けながらさまざまな活動をしている。ルアーフィッシングも半分仕事のような形でやっている。他にも自転車やゴルフなど、1年を通していろいろなスポーツを楽しんでいるのだ。
ガレージの脇にはこれらの道具を置いておくスペースが併設されていたが、フィールドに出ていくとき、LCだとさすがに無理があるはずだ。
「もちろん無理です。LCはFRだから雪の季節は動かしませんし、ゴルフバッグも積むことができない。ドライバーやフェアウェイウッドなどをバッグから出して助手席に積めばバッグを折りたたんで無理矢理載せることはできますが、それじゃカッコ悪いでしょう。ルアーフィッシングには一度だけ行ってみましたが、渓流の脇に停めたら軽トラに乗ったおじさんから『こういうのが来ると事件の匂いがするぞ』と言われました(笑)。確かに違和感があり過ぎました」
だからフィールドに出ていくときはカローラツーリングを愛用している。LCに乗れる機会は多くないが、それでも構わない。なぜならこのクルマは自分が目標を達成した証だから。眺めているだけでも気持ちの昂ぶりを感じることができる。
LCに乗る時間ができたら長岡から関越自動車道を東京方面に向かい、関越トンネルを越えて沼田ICまで走るそうだ。
「関越自動車道は水上ICあたりがすごく気持ちよく走れるんです。もちろんアクセルを踏み込めば獰猛な走りを味わえますが、実際に乗って感じたのは、LCは“急いではいけないクルマ”だということ。周囲を威圧しながら走るのではなく、のんびり優雅に走らせるのが気持ちいい。LCのジェントルさを楽しんでいます」
2012年に衝撃を受けてから10年。2022年に夢のクルマを手に入れたSさん。10年越しの目標を達成してしまうと、今後のクルマ選びに困りそうですねと聞くと、Sさんは笑いながら話し始めた。
「今はね、新たな目標があるんですよ。このLCを手放すつもりはありません。そしてクーペに乗ったら、LCのコンバーチブルも欲しくなりました。コンバーチブルは白いボディに赤いインテリアで乗りたい。結構本気で考えています」
ガレージに並ぶラグジュアリーなクーペとコンバーチブルをその日の気分で乗り分ける。それこそ本当に贅沢な暮らしかもしれない。本気になったときの底力を発揮して夢を叶えたSさんなら、新たな目標も実現できるに違いない。
(取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/柳田由人 編集/vehiclenaviMAGAZINE編集部)
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