本格系サイクリストはなぜ、自転車を載せる車にレクサス HSを選んだのか?
海沿いの公園にたたずむ1台のレクサス HS250h。ホワイトパールクリスタルシャインというボディカラーを含め、特に希少というわけでもないハイブリッドセダンだ。
だがHSのオーナーである「のづっち」さんは、「TOKYO WHEELS」というサイクルアパレルのECサイトと店舗を運営すると同時に、自身もロングライド(自転車による100km以上の走行)やトライアスロン競技などに打ち込んでいるサイクリストである。
……自転車乗りであれば、愛車にはSUVやステーションあたりを選ぶのが「王道」であるはずだ。それなのになぜ、彼はわざわざ4ドアセダンであるレクサス HS250hを選んだのだろうか?
「実はこのレクサス HSは、高齢になった母から譲り受けたものなんです」
幼少期から車が大好きだったのづっちさんだが、青年時代はオートバイのほうにディープにハマっていた関係で、初めて自分の車を買ったのは30歳になってからだった。30系こと先代のトヨタ プリウスだ。いや正確に言えば、プリウスを購入したのはのづっちさんではなく、当時の恋人であり、現在の妻である「めぐ」さんだ。そしてめぐさんとの結婚を機に、プリウスは「二人の車」になった。
「仕事やプライベートで遠方へ出かける際も、飛行機や新幹線ではなく、車で行くのが好き。だって、自由だから」と考えているのづっちさん夫妻に乗られていただけあって、プリウスの走行距離は11年間で23万kmを超えた。6回目の車検時期は近付いていたが、まだまだ十分元気ではあった。
だがそんなタイミングでちょっと気になってきたのが、愛知県の実家にいる老齢の母と、母が乗っているレクサス HS250hのことだった。
「母も70歳を過ぎていましたので、そろそろ最新の運転支援システムが付いている車に乗り替えたほうが安心できると思ったんです。そのため、母に電話をして買い替えを勧めたのですが……」
母は首を縦に振らなかった。レクサス HS250hという車を、彼女は彼女なりに大いに気に入っていた。そして初度登録から14年が経っているとはいえ、まだまだ走行5万km台でしかない自動車を捨てて別の新車に買い替えることは、「物持ちの良さ」を美徳としていた時代を生きた彼女にとっては、とうてい許されざる行為に思えた。
だが愛知県に住まう母の身が心配でならないのづっちさんは、仕方なくひとつの提案をした。
「じゃ、あのHSは売却するんじゃなくて、俺が母さんの代わりに東京で大切に乗るよ。完全に壊れるまでは。それならいいだろ?」
それでやっと母は納得した。新しい世代のコンパクトなレクサス車に買い替えた。そして2009年式のレクサス HS250hは、走行23万kmを超えたプリウスの代わりとして、東京都内ののづっちさん宅へ“移住”した。
14年落ちのレクサスHSに、メカニカルな不具合はいっさい発生していなかった。そして「自転車を積むこと」も、なんとか可能だった。もちろんSUVやステーションと比べれば不便な部分はあるが、結論として、なんとかなった。
そして今。のづっちさんはレクサス HS250hにロードバイクやトライアスロン競技用のバイクを載せ、トレーニングや大会のため、全国を走り回っている。また妻であるめぐさんとともに近所を走り、あるいは全国を旅するという行為にも、当然ながらHS250hは使われている。のづっちさんいわくレクサス HS250hは乗り心地も燃費も、そして居住性も非常に良好な、良き車であるらしい。
だがここで2つめの疑問が、筆者の脳内に沸き上がる。
車としての機能性には合格点が与えられたとしても、「洒脱感」についてはどうなのだ? という疑問だ。
つまり、洒落たアパレル業を本業としている、まだまだお若いのづっちさんは、失礼ながらお母様ぐらいの高齢者によく似合うイメージもあるレクサス HSのビジュアルと全体像を、実はあまり好んでいないのではないか? という根本的な疑問である。
「それについては――実は最初のうち、自分としてもやや微妙でした。そもそも自分はレーシングカーやスポーティな車を『カッコいいなぁ』と感じるタイプです。それゆえ、いくら母のためとはいえ、『同じレクサスのセダンでもISだったら良かったのだが……』と思わなかったと言えば、嘘になります。でも――」
のづっちさんは続けて言う。
「でも、なんだかんだで気に入ってきたというか、愛着は湧いてきたんです。ビジュアル的には地味なのかもしれませんが、そこが逆に、今となっては個性的とも思えますしね。そして『なんだかんだで気に入ってきた』という理由の根本には、『やっぱりなんだかんだでいい車だから』というのがあると思っています。
2.5Lのハイブリッドシステムは同時代のプリウスよりもやはりパワフルですし、乗り心地も『さすがはレクサス!』といった感じで、インテリアのセンスも悪くない。母がこの車に愛着を抱いていたのも、今となってはわかる気がします。だから自分も、この車に長く乗るつもりです。母に似たのか、僕も意外と物持ちがいいタイプですから(笑)」
東京から約300km離れた場所で新しい車と暮らしている母は、息子に委ねたHS250hのことを、もしかしたら少し心配しているのかもしれない。「あの子は本当に、“あの子”を売り飛ばさないでいてくれるだろうか?」と。
でもお母さん、心配ないですよ。あなたの息子さんはきっと、レクサス HS250hをけっこう長きにわたって愛用してくれるはずです。なんだかんだ言いながら走行距離は、譲られてからの1年間ですでに2万kmほど増えたそうですし!
(文=伊達軍曹/撮影=阿部昌也/編集=vehiclenaviMAGAZINE編集部)
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