祖父の形見が人生の相棒に。10年以上かけて愛情を注ぎ込んだトヨタ・プラッツ
2003式のトヨタ・プラッツ(SCP11)に乗り、普段の通勤から休日のドライブやミーティング、果てはサーキット走行とオールマイティな楽しみ方を10年以上続けているという川畑直樹さん(37才)。
川畑さんのプラッツは1リッターNAの1SZエンジンを積んだATでFFのFLパッケージで、特別なスポーツモデルや限定車というわけでもない。そんな“ふつうのクルマ”を相棒として選び、乗り続けている理由はいったいどうしてなのか?
Keiワークスでクルマの楽しさ知る
物心が付くまえから乗り物に興味を持ち、両親のクルマに乗せられて街中を走っていると、隣を走るクルマの車種を当てて喜んでいるような子供だったという川畑さん。
初めて自分の愛車を購入したのは高校卒業し、大学に入ってからのことだったという。
「高校が家から10kmほど離れた位置にあったんですけど、そのころはMTBに乗って自転車通学してました。その理由はというと『お前が原付に乗るとスピードを出して危ない運転をしそうだから』と親に言われたからで、クルマに乗れるまで我慢していたような感じでしたね(笑)」
大学入学後も電車通学していた川畑さんだったが、やはりクルマへの憧れは捨てられず、1台目の愛車としてスズキのKeiワークスを購入する。
「グランツーリスモや頭文字Dで育った世代でしたが、そのなかでも一番憧れがあったのが『オーバーレブ!』(山口かつみ作)という漫画に登場したホンダ・シビック(EG6)でした。だから、最初の愛車はEG6を買うつもりでしたが、親からスポーツカーは反対されたんです。だけど、最終的に軽自動車ならOKという話になって、純正レカロが付いて5速マニュアル、4輪ディスクブレーキと当時の軽自動車のなかでもかなりスポーツ寄りだったKeiワークスを新車で購入して乗りはじめました」
そうして初めての愛車を手に入れた川畑さん。そこからはまさに水を得た魚のような生活で、大学の4年間で走行距離は20万キロに達するほどだったという。
「指宿市の家から鹿児島市内の大学まで片道45kmあるのも理由でしたが、授業が終わるとそのままクルマで色んな場所へ出かけて夜も走り通して、家に帰って来るのは朝方…というのが週3回くらい。5000kmごとのオイル交換がだいたい月に1回ある、というような生活でした」
そんななかで、川畑さんは軽自動車専門誌を中心に調べた知識でクルマの整備やカスタムもDIYでおこなうようになる。
Keiワークス用のアフターパーツは手に入りにくかったというが、ワンメイクレースに使用されていたKeiスポーツRや、エンジン型式(K6A)が同じ旧型のアルトワークスやワゴンRなどから共通部品を流用してカスタムを楽しむようになっていったという。
川畑さんとKeiワークスとの愛車ライフは大学を卒業してからも続き、週末はドライブにも出かけ年間の走行距離はおよそ3万キロ程度。福岡県のショップが主催するジムカーナ走行会にも年に数回のペースで参加していた。
プラッツでサーキットも走ります
現在の相棒であるプラッツとの出会いのタイミングがやってきたのは、いまからおよそ11年前の2010年10月ころだった。
「じつは、このプラッツは亡くなった祖父が所有していたクルマだったんです。2003年に新車で購入してから亡くなるまでの6年間で1万2000キロくらいしか乗られず、ずっと車庫に保管されていたので、いわゆる極上車といえる状態でした。自分がクルマ好きなことを祖父もずっと知っていたこともあって、祖母から『自分が亡くなったら代わりに乗って欲しい』と言葉を残していたことを伝えられました」
その言葉を受け、祖父の形見としてプラッツに乗り始めたという川畑さん。もともと乗っていたKeiワークスと2台を所有する格好となったが、翌年にKeiワークスが高速道路を走行中にエンジンブローするトラブルに遭遇し手放すことに。そうしてプラッツを相棒に新たな愛車ライフがスタートした。
「引き継ぐときにKeiワークスのことを知っている親戚から、プラッツは改造するなよと言われていて、1年間は我慢してノーマルで乗ったんですが、やっぱり途中からイジりたくなっちゃいましたね(笑)」と川畑さん。
友人から購入したエンケイRPF1の16インチホイールを導入すると、それをきっかけにさまざまなパーツを手に入れカスタムを始めていった。
「最初はホイールだけのつもりが、取り付けてみたら案外似合っているなと思い、それならちょっと車高を落とそうかと中古の車高調を探して少しずつ…という具合です」
Keiワークス時代のようにプラッツに乗ってスポーツ走行へのチャレンジもスタート。ATで1000ccというパッケージに物足りなさを感じつつも「それはそれで工夫する楽しみがある」と川畑さん。
エンジンルームを覗くと剛性アップさせるためのTRD製タワーバーやブレーキタッチを向上させるマスターシリンダーストッパーなども取り付けられており、サスペンションには強化スタビライザーも追加されている。こういった部分は共有部分の多いヴィッツから流用できるパーツを探して取り付けているそうだ。
マフラーは過去に1000ccのプラッツ用として販売されていたという数少ないメーカー不明のアフター品を見つけることができ、それを装着した。
フットペダルもヴィッツの純正ペダルを流用。パーキングブレーキがサイドレバー式の2ペダルでフットレストが存在しないモデルだったが、こちらもヴィッツからの流用でフットレストを追加している。ATのシフトノブも、ボロボロになったためヴィッツRSのものへ変更済みだ。
サーキット走行のためのレカロ製シートやサベルトの4点式シートベルトが装着されたインテリアは、街中を走る“足グルマ”のプラッツとは一線を画す風貌だ。
いっぽうで、祖父が乗っていたころからずっと備わっているというのが、助手席の猫の足跡がプリントされたフロアマット。その下にはプラッツ純正マットがキレイな状態で残されている。
また、フロントバンパー先端のコーナーポールも、祖父が乗っていた時代からあえてその雰囲気を感じられるように残し続けている部分だという。
Keiワークスに乗っていたころから「クルマに乗り始めるとその1台だけにゾッコンになってしまう」という性格だったと川畑さん。11年のあいだにトヨタ愛も芽生え始め、愛用しているメガネは青山眼鏡株式会社のメガネブランドFACTORY900がレクサスとコラボした、ヘルメット装着時の使いやすさを重視して開発したレーシングモデル。なかでも、白いタイプのほうは限定色なのだそうだ。
川畑さんが乗り始めてからの走行距離は18万キロを超え、年式ゆえにメンテナンスのためのパーツ探しに苦労が増えてきたというが、それでも可能な限り乗り続けていきたいと今後についても話してくれた川畑さんのプラッツへの愛情はまだまだ深まるばかり。
きっかけは祖父の形見という受け身のはじまりだったが、もはや川畑さんにとって人生の相棒にふさわしい1台になっていると言えそうだ。
取材協力:鹿児島県立吉野公園
(⽂: 長谷川実路/ 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]
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