祖父と父が乗った「青い鳥」を愛車に選び14年。1998年式日産ブルーバードSSS-Z(U14型)
「親の背を見て子は育つ」という言葉があるが、それはクルマ選びにも当てはまるかもしれない。
幼少期に父親、あるいは母親が乗っていたクルマのことまで覚えているか定かではないが、出掛けた場所や、車内から見た風景、そのとき流れていた音楽・・・。子どもたちの人生に何らかの影響を与えている可能性が高そうだ。
もっとも、子どもが成長して自分のクルマをが所有できるようになったとき・・・。果たして両親と同じような車種を選ぶか、反骨精神(?)を発揮してまったく違う路線を歩むかは神のみぞ知る、ということだろうか。手塩に掛けた英才教育が必ずしも実を結ぶとは限らないところが悩ましい。
今回、取材したオーナーは、父親と祖父が所有してきたモデルを自分の愛車にしてしまった方だ。いま、小さなお子さんを育てているクルマ好きの父親としては羨ましい限りだろう。今回の記事が英才教育をするうえで何らかのお役に立てることを祈りたい。
「このクルマは1998年式ブルーバードSSS-Z(U14型/以下、ブルーバード)です。手に入れてから今年で14年目です。現在の走行距離は20万2千キロ、私が所有してからは15万キロほど乗りました。私はいま34歳なので、20歳のときからの付き合いになるわけですね」
1959年にダットサン セダンの後継モデルとしてデビューしたのが初代ブルーバードだ。その後、モデルチェンジを繰り返し、オーナーが所有するU14型は、ブルーバードの名を冠する最後のモデルとなる。
それ以降、2005年にフルモデルチェンジした時点で「ブルーバード シルフィ」に車名が変更された。その後、2012年にフルモデルチェンジされた際に「シルフィ」となった。このシルフィも2020年に生産を終了しており、実に60年以上もつづいたブルーバードの系譜に終止符が打たれたことになる。
オーナーのブルーバードのグレード名は「SSS-Z(スリーエスゼット)」。ボディサイズは、全長×全幅×全高:4565×1695×1395mm。「SR20VE型」と呼ばれる、排気量1998cc、直列4気筒エンジンが搭載され、最高出力は190馬力を誇る。スペックを見てお分かりいただけると思うが、きっちりと5ナンバーサイズに収まっている点もいまとなっては新鮮に映る。
さて、最近では街中で見掛ける機会がかなり減った感のあるU14型ブルーバード。現在でも大切に所有しているオーナーはよほどの強い想い入れがあるはずだ。まずは、オーナーとブルーバードの接点を聞かねばなるまい。
「私の祖父が5代目の810型、6代目の910型、8代目のU12型を2台、それから私と同じ10代目のU14型と歴代のブルーバードを乗り継いでいたんですね。そのころ、家のクルマは日産バネットというミニバンでした。幼心に“背が低いクルマのほうがカッコいい”という想いがあり、祖父のブルーバードに惹かれましたね。父も、若いときには5代目にあたる811型ブルーバードに乗っていたそうです」
まるで絵に描いたようにブルーバードに魅せられた一家・・・かと思いきや、オーナーから意外な言葉が発せられた。
「実は、父が当時、日産のディーラーに勤めていて、祖父はセダンタイプのクルマが希望で・・・ということからブルーバードに乗っていたみたいです。祖父は熱狂的なブルーバード・ファンというわけではないんです(苦笑)」
それはさておき、オーナーは大人になるまでブルーバードへの想いが途切れることはなかったようだ。
「現在所有しているブルーバードがデビューしたのは、私が小学校4年生のころだったと記憶しています。当時もらったカタログはボロボロになるまで何度も読み返しましたよ。運転免許証を取得して、祖父が所有するU14型ブルーバードを借りて乗ることが多く、改めて良いクルマだなと思いましたね。あるとき、インターネットを介して知り合った方がブルーバードを手放すということで『買い取り価格+α』で譲ってもらいました。それが現在の愛車です。真っ赤なセダンはリセールバリューも今ひとつなのか、結果的に破格値で譲ってもらえることになりました」
祖父の愛車であるブルーバードを運転したとはいえ、自分のための愛車として手に入れたことで新たな発見はあったのだろうか?
「思っていた以上によく走るクルマなんだなと感心しました。それに、長距離移動でも疲れないんです。大人4人でキャンプに行ったときも、荷物を積み込んでもトランクがきちんと閉まりましたし(笑)。実用的で、ありながら5ナンバーサイズに収まっているところがいいですよね」
いまや、3ナンバーを掲げる乗用車は珍しくなくなった感がある。このブルーバードが現役当時とはクルマに求められるものも変わってきている(増えているというべきか)だけに、やむを得ないところもあるのだが・・・。こうして眺めていると、改めてブルーバードのパッケージングの秀逸さに驚かされる。
20歳のときにこのブルーバードを手に入れたオーナー。これまでの愛車遍歴も気になるところだ。
「最初の愛車は18歳のときにクルマ好きの先輩から譲ってもらった、廃車予定のパルサーGTI-Rでした。まだ運転免許を取得する前だったので、父に運転してもらって引き取りました。タービンが壊れていて、エンジンの調子もよくない個体でしたね。結局、騙し騙し2年くらい乗って、いったん保管〜復活を経て、現在は修理中です。その他、7〜8年前に先輩が買い手を探しているという初代コペンを引き取り、5年前にはエクストレイルGTを購入しました。結果として、買ったクルマは手放していないことになりますね(苦笑)。実は、家にあるセレナを含めると、SR20型エンジンの各バリエーション(DE・DT・VE・VET)をコンプリートしているんです(笑)」
SR20型エンジンの各バリエーションをご一家でコンプリート・・・。このとき思わず「カタカナで4文字の言葉」を思い浮かべたが、ここで触れるのはやめておこう。
実はこのブルーバードを手に入れたとき、家族間でちょっとした騒動が巻き起こったそうだ。
「当初、GTI-Rを手放して現在の愛車であるブルーバードを手に入れるつもりだったんです。しかし父親が『なんだかもったいないな』というので2台所有することにしました。それを知った母親が激怒(苦笑)。よりにもよってブルーバードを引き取りに行く直前にバレてしまったんです。その後も母親の怒りはなかなか収まらず、結局1週間ほど私と父とは口を利かなくなり、ついには弟から『兄ちゃんいい加減にしてくれ。お母さんが食事の手抜きしているじゃないか。兄ちゃんのせいで機嫌が悪いんだからいい加減謝れ!』といわれる始末。さらに、そういうときに限ってテレビで「家族って、家やクルマを買うときは相談するよね」といったシーンが流れたり・・・。あれにはまいりました」
取材中は過去の笑い話としてユーモアを交えて話してくれたオーナー。しかし、当事者にしてみればなかなかの修羅場だったに違いない。それでも2台とも手放さなかったのはさすがというか何というか・・・。
「最近は母親も感覚が麻痺してきたのか『クルマを2台処分したら1台買えばいいんじゃないの』なんていってきます(笑)。ということは、現在所有している4台のうち、2台は残していいのか!なんて勝手に解釈しています」
自分だけの愛車として迎え入れたブルーバード。このエピソードをはじめとして、15年間のあいだにさまざまな紆余曲折があったようだ。
「オドメーターが13万キロに達したあたりでCVTが壊れました。本来であればそれなりの出費になるんですが、たまたまディーラーでサービスキャンペーンを実施していて『キャンペーン期間中にCVTが壊れたクルマは工賃だけで載せ換えができる』タイミングだったんです。これは助かりましたね。
エアコンが壊れたときは友人が廃車にするというプリメーラから移植しました。このとき、ディストリビューターや足まわりなど、交換してから3万キロしか使っていない部品も移植することができたのでラッキーでしたね。
あと、出先で左リアドアとフェンダーをぶつけてしまい、入手できず困っていたところ、友人が中古のドアを見つけてくれたんです。塗装が色褪せてきていたので、板金修理の際に前後バンパーの補修と塗装、サイドステップおよびリアスポイラー、ドアミラーカバーの塗装、運転席のドアヒンジ交換に加えて、板金屋さんの勧めで屋根だけクリア塗装をしました。これで見違えましたね。そのタイミングでこの取材のオファーがあったので驚きました。これまでいろいろありましたけれど、いざというときには誰かが助けてくれたり、タイミングよく安価で修理できたり・・・悪運が強いみたいです」
結果として、現役当時のような美しさを取り戻したブルーバード。オーナーなりにモディファイした箇所も気になるところだ。
「主なところではINTER TEC製のFRPボンネット、後期型SSS用の純正キセノンライト、運転席のみ、アコード ユーロRに装着されていたレカロシートを移植して装着しています。純正キセノンライトは配線図を入手して自分で交換しました。重整備はディーラーに預けますが、メンテナンスやモディファイは基本的にDIYですね」
オーナー自らメンテナンスを行っているブルーバード。愛車で気に入っているポイント、こだわっているポイントは?
「このクルマの“安定感”がとても気に入っています。高速で走っていても怖さを感じたことがありません。こだわっているというか、普段から気に掛けているのは、壊さないように乗ることでしょうか。次にCVTが壊れたらどうしようという怖さはありますね。油温が暖まってくるとCVTの回転数が下がるんです。暖まるまではMTモードを使って2000回転以下で走るようにしたり気をつけています。弟にこのブルーバードを貸すことがあり、彼もこの乗り方を実践してくれているようです。板金塗装して綺麗なったり、何かと気を遣うことに懲りたみたいで『ブルーバードはもういいです。他に何か貸していただけますか?ダメだったら僕はタイムズのクルマを借ります』と敬語でいわれてしまいました(笑)」
深い愛情を注いできたブルーバード。今後、どのように接していくつもりなのだろうか?
「“壊さずに乗れる限り乗りたい”です。降りるとしたらCVTのトラブルかなと思っていますが、もしかしたらそのときもラッキーなできごとが起こるかもしれません。繰り返しになりますが“今まで以上に気を遣って、壊さないように、楽しみながら乗ろう”と思います」
オーナーはこれまで新車を購入したことがないという。中古車、それもどちらかというと廃車予定のクルマや不遇なクルマを何台もレスキューし、現在も大切に所有している。
恋い焦がれて手に入れた愛車とはいえ、長く所有していればトラブルにも見舞われるし、ちょっと飽きてしまいそうになる瞬間が訪れてもおかしくない。それが今回取材したオーナーは違う。粘り強くトラブルと向き合っているうちにどこからともなく救いの手が差し伸べられ、いつの間にか問題が解決している。結果としてクルマに対する愛情が深まっているというわけだ。
今回の取材を通じて気づいたことがある。オーナー曰く「悪運が強いから」とのことだが、不思議な力が作用して幾多のトラブルを乗り越えてきたことは確かだ。これは悪運が強い・・・のひとことで片付けられるものではなさそうだ。おそらくオーナーはクルマという、本来であれば「意思なき機械」から愛された人ではないだろうか。だからこそ、思いがけない幸運にも恵まれる、そんな気がしてならない。
ブルーバードの車名の由来である「青い鳥」。メーテルリンクの童話にちなんで名づけられたブルーバードは、文字どおりオーナーに幸せを運んでくれる存在なのかもしれない。
(編集: ガズー編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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