街乗りから通勤まで1台所有で早7年。20才で譲り受けたシビックCVCC(B-SH)に込められた想いとは
1975年式のホンダ・シビックCVCCを20才の頃手に入れ、27才となる現在までただ1台の愛車として常日頃から乗り続けるという新潟県在住の阿部勇気さん。
今や程度のいい個体も減り、旧車イベント以外ではあまり街中で見かけることもなくなってから久しい1970年代の旧車を、阿部さんはどんなきっかけで手に入れ、そして日常の足として今も乗り続けられているのか?
そこには、シビックCVCCを大事に乗り続ける阿部さんと、それを応援する周囲の温かい想いがあった。
「もともと父がクルマやバイクが好きで、ホンダのビートに乗っていた影響もあって僕もホンダが好きになり、気付いたら現行車よりも古いデザインや雰囲気のクルマが好みになっていました。
学生時代は埼玉にあるホンダテクニカルカレッジで4年間学んだんですが、その頃には『いつかは古いクルマに乗りたい』という漠然とした想いがありましたね」
そんな阿部さんは3年生となる2015年に授業の一環で、初代シビックRSをレストアしてニュージーランドのラリーに参戦する東京大学工学部との合同授業『ヒストリックラリープロジェクト』にチームの一員として参加。
その際にいろんな情報や部品を提供してくれた初代シビックのオーナーズクラブの方々とも交流を深めたという。
阿部さんにシビックCVCCと出会うきっかけが訪れたのは、この時だ。
「クラブに所属していた方が病気で亡くなってしまい、そのご家族からクラブに相談があり『せっかくなら若い人に興味を持って乗ってもらったらいいのでは』という話になったそうです。
プロジェクトチームに所属していた8人のメンバーの中で最終的に僕が手を上げて、現車確認をして奥様とお話した上で引き取ることになりました」
こうして2015年11月に阿部さんにとって人生初の愛車となったのが、1975年式のホンダ・シビックCVCC(B-SH)。
車名より大きなエンブレムでしっかりアピールしている通り、アメリカの厳しい排出ガス規制に適合させたことでホンダの高い技術力を世界に知らしめることになった『CVCC(Compound Vortex Controlled Combustion)』エンジンを搭載した名車だ。
こういった希少車は購入しようと思っても簡単には出会えないし、当然ながら価格も安くないのが普通だ。
しかし『旦那さんの形見で簡単には捨てられないけれど、若い方に乗っていただけるのなら譲るので大事にしてやってほしい』ということで、新潟の魚沼出身の阿部さんはこのシビックを譲り受けるにあたって実家のお米10kgをお礼に贈ったという。
「このクルマに乗ることになって前オーナーのご家族をはじめ新しい人付き合いが広がったし、バックグラウンドを知っているクルマを手に入れたからには、普通に買うよりも大事にしないといけないという想いを持ちながら乗り続けています」
「実は僕のところに来た時は、1万6000kmしか乗られていなかったんです。もちろん車庫保管されていたから本当に綺麗でした」
阿部さんは手に入れたシビックCVCCを実家に置いて帰省するたびに整備を施し、4年生になると当時住んでいた埼玉に持っていき念願だった旧車とのカーライフを開始。
カレッジ卒業後は地元新潟のディーラーに就職し、6年経った現在も大切な愛車として乗り続けている。
休日のドライブはもちろん日常の買い物から通勤まですべて1台でこなしていることから年間1万km近く走行し、現在の走行距離は8万7000kmまで達していた。
「コンパクトで軽量なためか、スピードを出さなくてもハンドリングが軽快で乗っていて楽しいし、重ステでも駐車場に停めるのに苦労していません。それに燃費も良くてリッター17kmぐらいは走ります。
何かあった時のために最低限の工具は積んでいますが、今まで大きなトラブルはありませんね。雪の多い地域なので、4WDではないしサビも進みやすいから冬場は日常の足として使うのに苦労しますけど、それ以外は不便さも感じません」
クラブのメンバーやイベントで知り合ったオーナーさんたちから廃番パーツの代わりに使える他車種流用情報を教わったり、インターネットで海外製パーツを調べて購入したりすることで、好調な状態を保つことができているという。
グレードは2ドア最上位のRSLで、阿部さんが特に気に入っているというのが1500cc搭載車ならではのノーズの長さとカラーリングだ。
「初代シビックは1200RSの方が数も残っているしイベントにも多いけれど、僕の1500ccの方がノーズが長くてスタイル的にはより精悍に見えるので気に入っています。
ボディカラーはカタログから1年で消えた希少な純正色で、これまでイベントでも同じカラーリングに出会ったことがないんですよ」
内装も純正ウッドハンドルなど強いこだわりが伝わる箇所が満載だ。そのなかでもカセットデッキのエピソードがすごい。
「インターネットオークションで見つけて『絶対買わなきゃ!!』と思ってなんとか競り勝って落札しました。ただ、いざテープを再生してみたら音がひどかったので修理して、最終的にFMとカセットを聴きたいがためにトータル7万5000円もかかりました(笑)」
スピーカーも後部の天井に引っ掛ける当時モノで、聴いているのはご両親が作ったという当時のカセットテープ!! 試しに音を聴かせていただくと、当時にタイムスリップした気分を味わうことができた。
デッキに差し込むことでスマホなどとブルートゥース接続できるアイテムを使えば最近の曲も聴くことができるというから、不便さは皆無だ。
また、フル稼働車だけあってエアコン追加など実用面での工夫も見逃せないポイント。
「当時は車両価格87万円なのにエアコンオプションは15万円もするので、装着車はほとんどいなかったみたいでこのクルマにも付いていませんでした。
エアコン・クーラー関係の部品は全部インターネットオークションで手に入れたんですが、装着に必要なプーリーを手に入れるためだけにエンジンごと購入したりと、けっこう苦労しましたね」
エアコンダクトを装着する際に、もともとその位置にあったグローブボックスは下側に移設するなど、クーラー付き純正オプションと同じ状態に仕上げているこだわりようだ。
保管用に同じカタログを2冊持っているのかと思いきや「最初に買ったカタログは表に『RSL』の表記がないものだったので、RSL入りバージョンも買い増しました(笑)」というエピソードからも、こだわりが伝わってくる。
「ホンダが4輪メーカーとして世界に羽ばたくきっかけとなったクルマだという大事な証明である『排ガス規制適合車エンブレム』も気に入っています」というこのエンブレムをはじめ、阿部さんのシビックにはオーナーズクラブ仲間などから譲り受けたパーツがたくさん装着されている点も、特筆するべきポイントだ。
「ホイールはPCD120の4穴なので選択肢が少ないのですが、初代アコードに乗っているクラブの人から純正ホイールを譲ってもらいました。フォグランプも “カーオブザイヤー”のエンブレムも車内に装着された吊り下げ型スピーカーも譲ってもらったものです。
あとは後ろから垂れ下がっている静電気を逃がす電化製品のアースみたいなパーツも『似合うんじゃない?』と頂いたものです。これ、昔は付いているのがステータスだったみたいですね(笑)」
何気なく着ていたTシャツも、友人に描いてもらったという彼の愛車がプリントされたもので「イラストに描かれているナンバーは前オーナーの時のものです。引き取ってきて県の部分は変わってしまいましたが4桁は希望ナンバーで譲り受ける前と同じにしました」と、前オーナーの面影もしっかり引き継いでいるのだ。
「このシビックCVCCは、手に入れた経緯からはじまって、周りの繋がりや支え、協力があってこそ成り立っているクルマなんです。本当にありがたいです」
そんな阿部さんに、周囲の方々がいろいろなパーツを譲り渡したり、維持管理に欠かせない流用パーツ情報を教えたりしてくれるのは、きっと彼がこのクルマを譲ってくれた前オーナーの思いを大事にした上で、愛情を注ぎながら楽しく乗り続けていることを知って、そのカーライフを応援したいと感じた方々からのエールの形なのだろう。
彼が満面の笑顔で目を輝かせながら愛車について語る姿を見て、阿部さんの周りの方々とおなじように、いつまでもこのシビックCVCCとのカーライフを楽しんでほしいと心から思ったのだった。
取材協力:万代テラス
(⽂: 西本尚恵/ 撮影: 金子信敏)
[GAZOO編集部]
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