自分が描いたイメージを体現した『黒ひげ号』。友人のロードスター(NA8C)を引き継ぎ17年乗り続けるそのワケとは

全国的なミーティングには1000台を超える台数が集まるなど、世代もジャンルも超えて幅広く愛されているロードスター

これまでも長年に渡って大事に乗り続けているというオーナーさんたちにたくさん出会ってきたが、新潟県長岡市在住の石上康行さん(46才)もまた、約17年前にご友人から引き継いだロードスター(NA8C)を理想のスタイリングに仕上げ、今も大事に乗り続けているオーナーのひとりだ。

ちなみに、石上さんはこのロードスターの前オーナーである吉田さんと現在でも交流を持ち続けていて、今回の取材日にもおふたり一緒にご来場いただくほどの仲だ。

高校生の頃にマツダがル・マンで優勝したのを見てかっこいいとモータースポーツとマツダが好きになったという石上さんは、社会人になると社内のクルマ好きの先輩に走り方を教えてもらい、ますますクルマにハマっていったという。

「僕はちっちゃいクルマが好きで、このロードスターに乗る前も2代目NBロードスターに乗っていたんです。1998年に発売されたNBに惹かれて、それまで乗っていたビートを弟に譲って新車で購入しました。

そしてNBに乗り始めてしばらくしたころ、近くの公園でこのNA8Cロードスターに乗る吉田さんと出会いました。その時は吉田さんのほうから声をかけてくれたんですけど、意気投合した僕たちはそれから一緒に走りに行ったりするようになりました」

しかし2004年に新潟中越地震が発生。その影響をもろに受けたのが、吉田さん(写真右)だった。

吉田さんいわく「私がこのロードスターを買ったのは2000年です。そして2004年10月にあの地震があって、それまでツーリングを楽しんでいた地元周辺の山道はどこもガタガタで走れない状況になってしまって…。

もともと自営業だったこともあって、ロードスターに乗れる機会がほとんどなくなってしまったこともあり、しょうがなく2005年にこのクルマを手放すことにしました」とのこと。

一方の石上さんはというと、2005年に大事に乗っていたNBロードスターがもらい事故で廃車になってしまい、ちょうどロードスターを探していたタイミングだったという。

「NBが事故で廃車になったときはロードスター熱がピークだったため『次もやっぱりロードスターがいい』と長岡のクルマ屋さんに探しに行ったんです。その時にたまたま売りにだされていた中の1台が吉田さんのロードスターだったんです。

それで僕は『吉田さんの友達だし、これを乗り継ぐよ』と、そのロードスターを買うことにしたんです。そのときはこんな偶然もあるんだなぁと思いましたね」

ちなみに石上さんが吉田さんのロードスターを購入したのが、新潟県長岡市にある『RSファクトリー ステージ』。その後の石上さんのロードスターライフをより楽しいものにした、地元のロードスター専門ショップだ。

こうして石上さんの愛車となったNA8Cロードスターは1998年式の1代目最終型Sグレードで、1800ccのマニュアルモデル。購入時はボディカラーも白で、エアロもホイールもノーマルだったそうだ。

「もともと絵を描くのが結構好きだったので、もしNAロードスターに乗ることがあったらこんな感じにしたいなーというイメージは購入前から出来上がって絵にしていました。まあ、妄想ですね(笑)。

でも、妄想で終わらせずそれを実際に形にしたのがこのスタイリングです。昔からNAオーナーには『こんな感じにしたらいいんじゃない?』みたいなアドバイスを送っていたけれど、まさか自分のクルマが実際にこんな感じになるとは思わなかったです(笑)」

そんな石上さんのロードスターで特徴的な部分といえば、丸みを帯びた独特のフロントエアロと、爽やかなパステル調の水色と黒でまとめられたカラーリングだろう。

「前後バンパーはズームエンジニアリング製のエランキットという製品です。ステージさんのデモカーに装着されているのを見て、こんなのがいいなと。

そこで社長が個人的にガレージで飾っていたエランキットのコレクションを譲って欲しいと社長に何度もお願いして、粘って粘ってなんとか『しかたねぇ』とパンバーだけ譲ってもらいました(笑)。カラーは日産キューブの水色です」

石上さんによれば、エランキットはロータス・エランをイメージしているためバンパーのラインはシルバーにするのが一般的だけど、そこをあえてブラックにして、ボディのアンダー部分のブラックと合わせツートンカラーで統一感を出しているのがポイントなのだという。

結果、当時はサーキットで『黒ひげ号』なる愛称をいただいたのだとか。

「この水色のボディにシルバーのバンパーラインだと、どうしてもぼやけちゃうから、あえて黒にすることで引き締まるんじゃないかなと思ってオールペン時に合わせてお願いしました。

ボディーの下の黒いラインは低く見えるように付け加えたんですけど、ただ全部塗りつぶしちゃうと厚みがでて面白くないと思ったので、ロードスターを略した“RS”をモチーフに自分で沸いたイメージをフリーハンドでイラストにして、それをカッティングシートにしたものを貼っています。左右非対称なので、これはこれでおもしろいかなって。

合わせてホイールやサイドミラーもブラックにして色がばらつかないように気をつけました。ちなみに、出口の焼き色がいい味を出しているハーフマフラーはステージ製です」

こだわりの詰まった愛車のデザインについて話す石上さんの表情は、実に生き生きとして楽しそうだ。

そして幌を開けてもらうと、3点式のロールバーや愛用ぶりが伝わるキャメルのレザーシートが視界に飛び込んできた。

「シートは前に乗っていたNBロードスターから引き継いで使っています。黒い内装に合わせたら似合うかなと思ったので。メッキのブレースバーとテインの車高調も同じくNBからの流用です」

5、6年くらい前まで地元のサーキットをよく走っていたという石上さん。

「ロールバーはサーキットを走るために必要なので装着したのですが、助手席は保護されない形状なので、たまにそこに乗る奥さんにはそこを指摘されます(苦笑)。ステアリングは、いちばん手にしっくりくるナルディを愛用していて、あとはセンターコンソールも走る時に肘が当たるのが嫌で、ショートコンソールというアイテムに交換しています」

存在感のあるキャメルのレザーシートがボディのパステルカラーと相まっておしゃれな雰囲気を作り出している一方で、走るための装備も抜かりなしというわけだ。

そんなこだわりの詰まった愛車だが、長年乗る間に付き合い方は少しずつ変わってきたという。

「若い頃はこのクルマ1台しかなくて、冬も含めてずっとこれに乗っていました。スノーボードをやっているのでこれでスキー場まで行って、手前でスタックして諦めて帰ってきたこともありましたね(笑)。

それはそれでとても楽しかったけど、人もクルマも歳をとって落ち着いたかなと。今は軽自動車がもう一台あるので普段はそれに乗っていて、このロードスターは休日のツーリングや奥さんと旅行に行くのに使ったりするくらいです。冬は知人のガレージを借りて置かせてもらっています」

「あれだけたくさん通っていたサーキットも走る機会が徐々に減っていったし、仲間の環境が変わって降りていく人もいっぱいいて。それで一時期モチベーションが下がって自分も手放そうかなと思ったタイミングもありました。

でも、やっぱりロードスターが大好きだし楽しくてね。そのうちにだんだん手放すタイミングがなくなって、これがなくなったら寂しくなるだろうなって思うようになって、気づけばもう自分の一部になっていたんですよね」

長く1台のクルマに乗っていると、石上さんのようにモチベーションが下がる時期が訪れるのは必然ともいえる。でもそれを乗り越えたからこそ、自分の半身ともいえる存在となったこの愛車と、これからもずっと共にする意志が固まったのだろう。

そして愛車との付き合い方も、乗って走って楽しむ方向から、長く大事に乗り続ける方向へと自然にシフトしてきたというわけだ。

「これからも、このクルマで旅行に行ったり奥さんと出かけたりとか、景色のいいところをあちこち走って回れたらと思っています。あとは、たまにはまたサーキットを走りたいですね! あれはあれで楽しかったから」

旧車の域に入りつつあるロードスターを長く楽しく乗り続けるにはメンテナンスも不可欠だが、石上さんには専門ショップのRSステージや整備士である弟さんという心強い存在も身近に存在している。

だからこそ、ご自身のライフスタイルに合わせつつ、これからも大好きなロードスターに乗り続けていくに違いない。

取材協力:万代テラス

(⽂: 西本尚恵 / 撮影: 金子信敏)

[GAZOO編集部]

MORIZO on the Road