21歳でワイスピ劇中車仕様のオーナーに。RX-7はさまざまな出会いを運んでくれたスペシャルな相棒
見た瞬間に思わず感嘆の声をあげてしまうクルマと言われたら、あなたは何を思い浮かべるだろう。
このクルマが取材会場である秋田県のポートタワーセリオンに現れた瞬間、無意識に「おぉ〜」という声が漏れてしまった。通りがかりのひとたちも皆、クルマの近くまで寄ってきてスマホのカメラを向け、そして笑顔を浮かべる。
『ワイルド・スピード』といえば、クルマ好きならずとも知っているであろうハリウッド映画の大ヒット作。そして日本が舞台となったシリーズ3作目に登場するのが、このオレンジとブラックのツートンカラーで存在感を放つスポーツカーだ。『RX-7 フォーチュン(FORTUNE)』と名付けられたこのクルマは、コンプリートカー製作などを手掛けるヴェイルサイドが、マツダ・RX-7(FD3S)をベースに作り上げたクルマである。
そんな超有名劇中車に憧れ、21歳の時に愛車として迎え入れたのが、秋田県在住のだーいしさん(27歳)。
「若いうちはスポーツカーに乗る!!って決めていて、なかでも1990年代から2000年代のクルマがいちばんカッコいいし、運転しても楽しいと感じていました。スープラやRX-7を見るたびに『やっぱりカッコいいな〜』って目で追ってしまうんです。最初はGT-Rが欲しかったんですけど、まわりにR32、R33、R34、R35まで乗っている人がいたんですね。イニシャルD仕様のFD3Sとかもいるしカブりたくないなと思った時に、ワイスピを見直したらこのオレンジと黒のフォーチュンが刺さってしまって。秋田県で乗っている人はほかにいないだろうっていうこともあって、それからは他のクルマは眼中になかったですね」
「20歳の時にフォーチュンに乗りたいと思ってヴェイルサイドさんに直接問い合わせてみたんです。そしたら『ベース車を用意してもらえれば製作可能ですが、完成までは5~6年待ち』というかんじでした。そんなタイミングでたまたま完成形の中古車が出品されていて、しかも『ベース車は絶対に年式の新しい6型がいい』と探していたのですが、偶然そのクルマも6型だったんです。見つけた時は本当に運命的な出会いで、ラッキーだと思いました。当時はベース車となるFD3Sの中古車価格もどんどん上がっている状況だったし、今を逃したら手に入れることはできないだろうなと。販売価格も出ていなかったけど、どうせローンを組んで月々払い続けるつもりだったので『予算オーバーでも買う!』って即決しました」
それほどの強い覚悟で手に入れた愛車は、その後のだーいしさんの人生を大きく変える存在となり『墓場まで持っていくつもり』だという。
マツダ・RX-7をベースに、ワイドボディ化や灯火類の形状変更など、知らない人が見たらベース車がわからないほどの大変身を遂げたスタイルのコンセプトは、日本生まれのサムライが纏う『鎧』。いたるところに鋲を模した意匠が施されるなど“戦うための装備”をイメージした作り込みは、映画の中で繰り広げられるド迫力のカーアクションシーンなどで大きな存在感を放っている。
この車両は2002年式のRX-7 タイプRを使用して作られているそうだが、インテリアもドアやダッシュボードに至るまで張り替えられ、オーディオチューンも施されるなど、外装に負けないくらいのカスタムが施されている。ドアやハッチを閉めた状態で停まっている車内を覗かれたとしても、いっさいスキのないクルマに仕上がっているというわけだ。
「購入時にはLEDテールランプが装着されていたんですけど、純正テールランプが好きだったので自分でバンパーなどを全部取り外して交換しました。マフラーも自分好みのものに交換しましたね」と、愛車のお気に入りポイントを教えてくれただーいしさん。
特にお気に入りはべバスト製の後付けサンルーフで、劇中車とは異なる部分だが「この開き方がカッコよくて好き」とのこと。また、ホイールも劇中車とは異なるアブフラッグ製19インチホイールが装着されているが、こちらも自分好みのタイヤサイズを組み合わせて履かせるなど、自らが思い描くスタイルに仕上げるために一役買っている部分だという。
エンジンはもともと搭載されているロータリーターボエンジン13B-REWのままで、コンピューターセッティングは『ロングライフ重視』に変更されているという。
「速いって聞いてはいたけど、実際に乗ってみると予想以上の速さに驚きました。いちどアクセルを踏み込みすぎたら自分がコントロールできる範囲を超えてしまいそうになって怖い思いをしたことがあって、それ以降はさらに安全運転を心がけるようになりました。クルマも古いので、労ってあげないといけないですしね。ちなみに雨の時は一切乗りません」
快調を維持するために日頃のメンテナンスは欠かさないそうで、自分でできるところは整備士だという父親の工具を借りて自分で作業し、プロに任せるべきところはプロに任せているとのこと。
「親父はクルマ好きで整備士なんですが、まわりのひとたちの影響もあって自分もクルマ好きになったかんじですね。親父は車高短のセダンとかそういうのが好きなんですが、それとは違う路線をいきたいなというのもあって、スポーツカー路線に興味を持つようになって、それからワイスピだったり頭文字Dを見たりして育ちました」
最近、10代〜20代のオーナーを取材していると『親がクルマ好き』『頭文字Dやワイルドスピードを見てあこがれた』という話はもはやテンプレのようなもので、その影響力の大きさを感じさせられる。
そして、この日の取材会に一緒に参加していただいた奥様も、頭文字Dが好きで、このフォーチュンがキッカケで出会い、交際がはじまったのだという。
「ウチも親はクルマが好きな方で、昔からいろいろなところを車中泊しながら旅行したり、このあいだもお母さんとふたりでスポーツランドSUGOにレースを見に行ったりしました。そんなかんじなので、はじめてこのクルマを見せた時は『うわー!生でこんなすごいクルマを見られるなんて!」って興奮して喜んでいましたね(笑)。もちろん、わたしもこのクルマが大好きです」と奥様。このフォーチュンでいっしょに頭文字Dの聖地巡りなどたくさんの思い出を積み重ねてきたということだ。
趣味が合う奥様と出会えてよかったですね、とだーいしさんに問いかけてみると「そうですね、最高の奥さんに出会えてよかったです!」と満面の笑みで即答してくれた。
そんなだーいしさんのカーライフの中で、欠かせないのがクルマを通して出会った仲間や、仲良くなったひとたちとのつながりだという。
「SNSの情報を見て集まっているという場所に行ってみたり、話しかけたり、自分でツイッターで投稿したりとか、そうやってたくさんの人と仲良くなりました。いろんなクルマに乗っている同じ年代の友達が周りにけっこういます。そんな繋がりを通じてミーティングのお誘いだったりとか、イベントに展示しませんか?みたいなお話もいただいたりするようになりました。そういう意味では、このクルマに乗りはじめて人生が変わったと思いますね」
これだけ存在感のある愛車に乗るということについて「正直、覚悟もいる」というだーいしさんだが、このフォーチュンに乗っていなければ見ることのできなかった景色や、経験できなかったできごとは、数えきれないだろう。
この日も、そうやって出会ったお友達や知り合いも一緒に参加していて、まるでカーミーティングのような楽しい雰囲気を作り上げていた。
「毎日乗っているとマンネリ化しちゃいそうなので、普段乗りは別のクルマで、このフォーチュンは週末やお出かけの時に乗る感じです。6年乗ったけれど、飽きないですね!本当に、いつ乗っても楽しくて。洗車すらも楽しいです」
もはや、このFD3Sに乗っていることがひとつのアイディンティともいえるだーいしさん。
「クルマで繋がったり仲良くなったりした人が多いので、愛車は手放せないですね。今が9万kmなので、10万kmを機にエンジンのリフレッシュを計画中です。あとはブレーキも大きなものに交換したいなって。何かない限りずっと乗り続けたいと思っています」
もしこの先、おふたりの間に子供が生まれたら、その子は生まれながらにこんなスペシャルなクルマが身近にあるわけだからクルマ好きにならないわけがないだろうし、いずれは愛車になるのかもしれないと考えたら、羨ましい限りである。
こうして、クルマ好きの血は脈々と受け継がれていくのかもしれない。
取材協力:道の駅 あきた港 ポートタワーセリオン イベント広場(秋田県秋田市土崎港西1-9-1)
(⽂: 西本尚恵 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]
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