海も山もキャンプも全部スプリンタートレノ(AE86)で。30年を共にしてきた“相棒”
免許を取って父と兄から譲り受けたトヨタ・スプリンタートレノ(AE86)。それから30年、サーキット走行もアウトドアもスキーもウェイクボードも全部一緒に楽しんできたという大切な“相棒"との濃厚なエピソードをご紹介する。
トヨタAE86といえば、今やクルマ好きでなくても認識している人が多い絶大な人気を誇る名車だ。それだけに、手放すことなく長く大事に現役で乗り続ける愛好家も多い。
仮に、AE86という愛車の用途を、後に残すことを念頭に長く大事に乗り続ける方、カスタムを施しモータースポーツを楽しむ方、そして普段乗りの相棒としてメンテナンスしながら乗り続ける方の3つに分けるとしよう。
おそらく多くのオーナーさんはそのどれかひとつの道を邁進しているか、複数台を所持して用途を使い分けたりしているのではないだろうか。
しかし今回ご紹介する愛媛県在住の徳野さんは、30年にわたって愛車のトヨタ・スプリンタートレノ(AE86)を日常の移動手段やアウトドア遊びの相棒として乗り続けながら、若い頃はモータースポーツを楽しみ、最近では徐々に純正ベースに戻して長く乗り続けていくことに価値を見出しているのである。つまり、たった1台のトレノで3つすべての用途をこなしてきたのだ。
「このスプリンタートレノは、昭和末期に父とモータースポーツ好きの兄がファミリーカーとして共同で買ったものです。そして僕が免許取得して20才の時に兄がクルマを買い換えることになり、おさがりで譲ってもらいました。それ以来30年間、ずっとこの1台に乗り続けています」
徳野さんのお父さんとお兄さんが当時新車購入したこのクルマは、1987年式最終型のトヨタスプリンタートレノGT APEX。お兄さんから譲り受けてからは、街乗りとしてはもちろん、サーキット走行や趣味のキャンプやスノーボード、海などのアウトドアもこのトレノで楽しんできたそうだ。
「若い頃はセカンドカーとしてジムニーを持っていた時期もったんですが、結婚をして2台維持することができなくなりました。でも趣味のアウトドアは続けたい。ただ、365日乗ることを考えたらこっちのトレノほうがいいなって。基本的に海や山遊びはシーズン限定ですから。そんなわけで、雪山に行くときはスタッドレスを履いて、ウェイクボードに行くときはヒッチメンバー付きのバンパーに付け替えてトレーラーを引っ張れるようにしたりという感じになったんです」
アウトドアが趣味でジムニーとトレノのどちらかの2択なら、利便性を考えジムニーを選ぶほうが定石のように思う。しかし「コンパクトかつ軽量、しかも荷物がたくさん載ってメンテがしやすい。それでいて走るのも楽しい」とトレノを選んだ結果、街乗りからサーキット走行、はたまたアウトドアまでこなすオーナーの大切な相棒として、現在まで長い間大活躍することになったというわけだ。
そんな徳野さんが一番気に入っているのが、20年ほど前に載せ換えてから元気に稼働し続けているエンジンだ。
「その頃はたまにサーキットを走っていて、足まわりやブレーキ関係などもイジっていました。で、ある時走行会に参加することになって、もう少しクルマをパワーアップさせて速くしたいなと山梨にあるプロショップにエンジン製作をお願いしたんです。当時AE86で富士スピードウェイの大会で優勝していたようなところで、AE92のエンジンブロックを使ったN1規定に沿ったエンジンをお願いしたんですけど、手元に届いたのが走行会の1週間前で。パレットに載せられてきたエンジンを運送業者の方に助けてもらって下ろして、友達に協力してもらいながら1週間で載せ換えたのをよく覚えています。載せ換え後はトルクをすごく感じるようになりましたね」
ちなみに徳野さんによると、そのショップはとてもリーズナブルな価格だったそうで、加えて希望通りの性能を発揮した上に20年経った今でも調子の良いエンジンということになるのだから、一番のお気に入りというのも納得だ。
そんな徳野さんだが、トレノ愛が深まるにつれその心境にも少しずつ変化が表れたという。
「トレノをどんどん好きになっていき、ほかに欲しい車種もないし1年でも長く乗り続けたいという気持ちにシフトしていったんです。結果、サスペンションをノーマルに、バケットシートも純正シートに、リアにもシートを戻してという感じでだんだん純正の姿に戻っていきました。実家の物置にサーキットを走るために外した純正パーツ類をまとめて保管してあったのが幸いしました」
こうしてサーキット仕様から徐々にノーマルの姿に戻っていった徳野さんのトレノだが、やはり特筆すべきは愛車に乗る頻度を減らしてまでキレイで良好な状態を保っていくのではなく、これまで通り普段使いやアウトドアを楽しみながらメンテナンスしつつ乗りつづけているという点だろう。
「これで海や山へ行くというともったいないという友達もいるけれど、僕の価値観からしたら乗らなくて飾っている方がもったいない。気軽に乗り続けてこそ良さを感じられていますし、毎日の生活でも乗りたいので、ヘタってきた消耗パーツを定期的に交換しつつ、純正に戻していっている感じです」
実際これまでにオルターネーターを3回にブッシュ類の全交換を2回、マフラーも錆びて穴があいたものを鉄板でふさぎながら使い倒して現在3つめと、寿命を迎えた消耗パーツを何サイクルか交換しているのだとか。さらに雪山に行くためバッテリーも3年に1回は交換するなど、日々快調に走るためのメンテナンスも欠かさないそうだ。
また外装や内装も、劣化していく部分はマメに手入れしているという。
「マフラーは最終的にサビるのが嫌だったのでステンレス製マフラーにしました(苦笑)。あとツヤ消しのボンネットは自分で缶スプレーで塗り直しています。リトラクタブルヘッドライトはちょっと鈑金しないといけないので後回しにしていますが、ルーフやピラーも3年に1回くらい自分で塗っているんです。それに掃除をしている時にサビをみつけたら、すぐに錆添加剤を塗るようにしています。あとは車内も純正シートのスプリングがヘタってきて破れてきたのがカッコ悪かったのでカバーを買って装着しました」
いっぽうで、徳野さんはご自身が乗って楽しく普段使いしやすい仕様がモットーのため、ステアリングは36φのナルディ製を愛用し、元の純正品は大事に保管しているという。
また、追加されたタコメーターは『イニシャルD』に憧れて装着したもので、定番チューンのTRD製リアスポイラーはお兄さんが装着したものをそのまま愛用していたりもする。
「イニシャルDが連載された時は、忘れられかけていたこのクルマが再注目されてうれしかったですね。通学中の中学生が振り返るくらい注目度がすごかったので、乗っていて気分が良かったです。それでタコメーターも追加しました(笑)。車高が低くサスペンションが硬くてバケットシートだったりすると、乗るのがちょっと億劫になったりとか、海や山へ出かけると段差が気になったりするじゃないですか。でもこれくらい車高が高いと本当の普通車なので、どこにでもいけます」
それにしても、これだけ長く乗り続けていると、大変だったり不便に感じてイヤになってしまったことはないのか気になるところ。
「エアコンが壊れたときは不便だったんですけど、そういう壊れがちな部分はもうだいたい修理しているので。故障で止まったりすることもここ最近はありませんね。不便なこととはちょっと違うかもしれませんが、人のクルマに乗った時にカルチャーショックを受けることはありますよ。駐車用のバックモニターとか、コンパクトカーでも想像以上にハンドリングがしっかりしていたりとか、サスペンションがノーマルなのにロールの収束が早かったりとかね。あとはハンドルのボタンの多さにもびっくりしました。でも、それくらいですね」
そんな徳野さんには夢がある。それは現在17才になる息子さんにトレノを乗り継いでもらい、親子3代のバトンを繋げること。しかし最近はちょっと考えが変わってきた様子で…!?
「息子が乗ってくれたらいいなとは思うけど、そうしたら自分のクルマを別に用意しないといけないし、やっぱり譲りたくないなぁって(苦笑)。今のところ荷物がたくさん載ってよく走り、運転が楽しくて僕が他に欲しいクルマがないんです。見た目もスタイリッシュで好きですし。今は外見ボロボロで傷やヘコミで満身創痍ですが、いつかはピカピカにしたいなと思ってそのための貯金もしています。僕にとっては何をするのも一緒な“相棒"ですから」
徳野さんのお話を伺いながら、旧車をリアルに乗り続けながら維持するとはこういうことなのかもしれないと、改めて感じた。そしてきっと息子さんが免許を取得しても、今しばらくは徳野さんがトレノに乗り続ける姿が目に浮かぶようだ。
取材協力:萬翠荘(愛媛県松山市1番町3丁目3-7)
(⽂:西本尚恵 / 撮影:西野キヨシ / 編集:GAZOO編集部)
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