自分が作った「運転していて楽しい」クルマを愛でる。クラリティPHEV開発責任者のリアルな愛車ライフ
今回の記事に登場するのはホンダ・クラリティPHEVの開発責任者である清水潔さん。
そして自身も愛車としてクラリティPHEVを所有する1人のクルマ好きなオーナーとして、この『GAZOO愛車広場 出張取材会』にご参加いただいた。
2030年までに年間EV生産台数200万台を目標に掲げるホンダが、電動化戦略のトップランナーとなるシリーズとして発売したクラリティシリーズ。
2008年から水素を燃料とする燃料電池車『FCXクラリティ』をリース販売して各種データを収集したうえで、そのノウハウを活かして2016年に北米市場で『クラリティ フューエルセル』を発売。そして2018年に海外だけでなく日本でも発売を開始したのが、プラグインハイブリッドの『クラリティPHEV』だ。
発売当時、充電電力で走行できる距離が100km以上とPHEVモデルではトップを誇り、それでいてエンジンも搭載した“EV車とガソリン車のいい所どり”のモデルとして、様々なメディアが取り上げていたのはまだ記憶に新しい。そして、それらのニュース記事にクラリティ フューエルセルおよびクラリティPHEVの開発責任者として登場していたのが、まさに清水さんだったのである。
そんな清水さんがクルマに興味を持ったキッカケは『トールボーイ』の愛称で親しまれた初代シティだったという。独特なデザインの内外装、クルマ自体のコンセプトに興味をそそられたのだとか。
その後、免許を取得してからは、はじめての愛車としてシティ ターボIIを購入し「見た目からは想像のつかないトルクや軽快な走りに面白さを感じた」と顔を綻ばせていた。
そして、ホンダに入社してからも車種やジャンルを問わず“運転していて楽しい”クルマづくりを心がけてきたという。
エンジン車が大好きと語ってくれた清水さんだが、電動車の開発を担当するにあたってどんな気持ちだったのかを伺ってみると「時代が変わって今後電動車が中心となるなら、その時のために運転が楽しいクルマを作っておきたいなと思ったんです。電動車って重量物が床下にあることが多く、低重心で走りも良かったりするんです。あとは、最初は不便だと思う充電も、最近はペットにエサをあげるような感覚で案外楽しいんですよ♪」と、この日イチバンのキラキラした笑顔で答えてくれた。
「当然ながら開発する段階ではいろいろなお客様を想定して設計していうわけですが、実際に愛車として使ってみると『マルチモニターは縦長型のほうがよかったな〜』とか、息子に運転してもらって後部座席に乗る時は『“大人5人がゆったりと乗れる上級セダン”というコンセプトが思った通りに実現できていてよかった』とか、改めて感じることはいろいろありますね。でも、とにかく『運転していて楽しいクルマにしたい』という部分にこだわったので、そこに関してはオーナーとしても満足できる仕上がりになっていると自負していますよ」
そう楽しそうに語ってくれた清水さんは、クラリティに付けられたナンバープレートの数字もお気に入りなのだという。このクルマが発売されたのは2018年の7月20日、自身の子供のような存在でもあるこのクラリティの誕生日だ。
好きな番号をつけてペットを愛でるようにカーライフを楽しんでいる様子は、まさにひとりの“クルマ好きなオーナー”なのだと感じさせられた。
そんな清水さんがクラリティシリーズの開発責任者に立候補したのは、アメリカ駐在中にFCXクラリティユーザーに聞き込みをおこなったことがキッカケだったという。
「FCXクラリティに乗ってくださっているお客様に意見を頂く機会があったんですけど、この意見をもとに、環境に優しく、お客様に満足頂けるクルマの開発がしたい!と思ったのが始まりでしたね」
同クラスのガソリン車のセダンと比較して『航続距離が短い』『荷物が乗せられない』『装備が足りない』などの意見をいただき、それを活かして作り上げたのがクラリティ フューエルセル、そしてクラリティPHEVなのだという。
ちなみに栃木県で行われた今回の出張取材会に応募していただいた理由も「記事になることでおなじクラリティPHEVユーザーの声が少しでも多く聞けたらいいな」と思ったから、だそうだ。
世界全体で温暖化への対応を強化することが採択された『パリ協定』。2015年12月に採択されたこの施策に対し、各国はさまざまな取り組みをおこなっていて、自動車メーカーからも続々と排出ガスを出さない『ゼロエミッション車』が登場している。補助金を活用して購入できる制度なども手伝って、街中でもよく見かけるようになった。
一昔前なら、EV用急速充電器がスーパーなどに設置されていると「おお!」となっていたのに、今では物珍しくもない。電気自動車は、確実に私たちの生活に馴染みのあるクルマに変わってきている。
そしてその流れは、日本以上に海外ではさらに顕著だという。
電気自動車メーカーとして名を馳せるテスラ社がロードスターの販売を開始した15年前、清水さんはちょうどカルフォルニア州に駐在していたそうだ。
当時、ゼロミッションのクルマはカルフォルニア州が積極的に取り入れていて、BEVやFCEVのような電動車に課題があることを受け入れながらも『それでも乗ってみよう』という人が多く、ユーザーの数も徐々に増えていた時期だったと話してくれた。
むしろ、使い勝手を気にするよりも、ガソリンを使わずに電気や水素エネルギーを使うなど環境のためにできることをしよう、ということへのチャレンジに重きを置いているように見えたのだそうだ。
「テスラがモデルSを販売した時も、高額にも関わらず購入する人が結構いて、圧倒的に新しいことを取り入れる、広めていくモチベーションが高いと思うんです。一方で、日本は保守的な部分があると感じます。どっちか良い悪いではなく、そういうのも電動車の普及率に関係しているのかなと」
そういうことも要因になっているのか、アメリカを離れたここ数年で、目まぐるしく進化を遂げたカリフォルニアでのBEV車の在り方に驚いてしまったと目を細めた。
「電動車や圧縮天然ガス自動車などの新しいエネルギーで走るクルマって、航続距離が足りないとか、充電に時間がかかるとか、使い勝手のハンディキャップを持っていると思うんです。だから、そういうネガを潰しつつ、いかにガソリンエンジン車と変わらないような使い勝手にするか、電動車が楽しいと思わせるかが重要だと考えています。昨年11月に、久しぶりにアメリカに出張してレンタカーとしてテスラ モデルYを借りたんですけど、カルフォルニアではソレがかなり実現していると思います。たとえばショッピングモールの駐車場など生活に寄り添った場所に充電スタンドが設置してあるんです。これなら買い物をしている間に充電が終わるので、ガソリンスタンドでサクッと燃料を入れる感覚で時間を無駄にすることなく充電ができますよね。日本は急速充電料金がほとんど時間定額制なのに対して、アメリカはガソリンのように従量課金制なのも大きな差です」
さらに清水さんは、航続距離の考え方も違うと教えてくれた。ホンダからHonda e というBEV車がラインアップされているが、これは街乗り中心に使うことを想定しているので、航続距離は長く造られていない。一方でテスラは、航続距離が長くガソリン車から乗り換えて使っても、物足りなさを感じないようになっている。それどころか暴力的な加速力は、ガソリン車以上の楽しみ方という付加価値もある。
「僕の中で、テスラはスーパーカーのような位置づけなんです。魅力的なクルマだと思いますが、日本で使うとなるとテスラ専用の充電ステーションがあって最高の性能が発揮できるというインフラ的な面から見て使いにくい所も見えてくる。だから、クラリティPHEVは、アメリカでの使い方とはかけ離れないようにしつつ、日本で使ってもお客様が困らないように開発しました」
日常の使い方ではほとんどを電気でエコに走れる一方で、ガソリンで発電しながら長距離走行も難なくこなせるという、PHEV車ならではの楽しさを大切にしたのだそうだ。
さらに清水さんは、SUV、スポーツカー、軽自動車などのジャンル問わずに電動車のラインナップが増えていき、人が使いやすいネットワーク、インフラ問題を解決するべく、関わる人すべてが同じベクトルを向いて取り組んでいくことが大事だ、と未来を見据えた。
「いろいろ話してきましたが、難しいことを抜きにすると“運転が楽しいこと"が最も大事なんです。ホンダ車はこうでなくちゃ!」
電動車のこれからは、誰にとっても未知の領域だ。見当もつかないし、次の角を曲がったところに何が待ち受けているか、曲がってみなくては分からない。ただ、それでも信念をもって、電動車を開発している人がいるということ知っておいてほしい。
- 取材協力:
- カンセキスタジアムとちぎ 栃木県宇都宮市西川田二丁目1-1
栃木県フィルムコミッション
(⽂:矢田部明子 / 撮影:土屋勇人 / 編集:GAZOO編集部)
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