シビックタイプRユーロはかわいくて、私の心をちょっと強くしてくれる大切な存在
以前、本コーナーに登場してもらった新潟県にあるフィッシングショップの店長から「釣りが趣味とは思えないカッコいいクルマに乗っているお客さんがいるんですよ」と連絡をもらった。それが今回紹介する、さわさんだ。彼女の愛車は2010年式のホンダ シビックタイプRユーロ。
2005年にモデルチェンジした8代目シビックは、国内で販売されるモデルはセダンのみになり、2007年に登場したシビックタイプRもセダンになった。セダンのタイプRは走りがいいのはもちろん、日常使いでの利便性に優れるというメリットがある。一方でシビックタイプRはコンパクトであってほしいという声もあった。
そんな中で、欧州で販売されていたハッチバックのシビックタイプRが日本で発売されるというのは大きなニュースになった。シビックタイプRユーロは2009年11月に2010台、2010年10月に1500台が限定発売された。
「セダンになってからのシビックタイプRは私には大きいなと思っていました。あと、今のシビックタイプRは高級車になっちゃいましたよね。私のシビックタイプRユーロは無限のリアウイングが付いていてカッコいいですが(笑)、これがないと後ろ姿がコロンとしていてすごくかわいいんですよ。あまりスポーツカーっぽくない見た目なのに、実はすごく速い。そのギャップがいいんです」
フィッシングショップから紹介してもらったことからもわかるように、さわさんの趣味は釣り。それも深い山の中へと入っていく渓流釣りだ。さわさんはシビックタイプRユーロに釣りの道具を積んで山へと向かう。
でも釣りが趣味なら、悪路走破性が高いSUVや、小さくても荷物がたくさん積める軽1BOXのほうが向いている気もするが……。
「私は何日もキャンプをしながら釣りを楽しむわけではないので十分に荷物を積むことができます。それに渓流釣りは1人だと万が一川に流されたり熊などに襲われたりしたときに誰にも気づいてもらえないので、必ず2人以上で山に入ります。このクルマだと行くのが難しい場合は友達のクルマに乗せてもらうから困ったことはないですね」
さわさんの釣りのスタイルだとどんなクルマでも大丈夫だから、別のことを優先させよう。そして選んだのがシビックタイプRユーロというわけだ。山の中で楽しむ渓流釣りは目的地に着くまでにワインディングがたくさんある。スポーツカーなら釣りだけでなく走りも楽しむことができる。
さわさんは子どもの頃からスポーツカーが大好きだった。これはF1好きだった父親の影響だという。父はアイルトン・セナやアラン・プロストが活躍したホンダF1第2期に10代だった世代。F1が地上波テレビで放映されなくなった後もさわさんと一緒にレースをBSやCSで観戦していた。その影響でさわさんもモータースポーツやスポーツカーが好きになった。
18歳で運転免許を取った後、さわさんは中古車でスポーツカーを探そうと思っていた。でも父親は心配だったのだろう。「最初は新車にしなさい」ときつく言われ、仕方なくワゴンタイプの軽自働車を買った。軽ワゴンは釣りなどには便利だが、走りが楽しいわけではなかったので、あくまで“つなぎのクルマ”と考えていたそうだ。
モータースポーツが好きだったさわさんは、軽ワゴンに乗るようになってからモータースポーツ観戦でサーキットにも足を運ぶようになった。中でも好きだったのはドリフト。新潟県新潟市にある間瀬サーキットで開催されるイベントに訪れるうちに参加チームの人たちから顔を覚えてもらった。
「イベントはモータースポーツをしている先輩に声をかけてもらって参加するようになりました。最初はちょっと怖かったですが、思い切って話をしてみたらみんなすごくいい人で、すぐに仲良くなれました。時間があるときに同乗させてもらうこともできて、やっぱりスポーツカーって楽しいな、自分も乗りたいなっていう思いが強くなっていきましたね」
さわさんが憧れたクルマはドリフトで人気の高いトヨタ チェイサーツアラーVやマツダ RX-7、気軽にオープンエアを楽しめるマツダ ロードスターなど。何がいいかなと考える中で、最終的に「これだ!」と降りてきたのがシビックタイプRユーロだった。
「『オーバーレブ!』っていう漫画に出てくるアイカというキャラクターが好きで、彼女が乗っているのが赤いEG6型のホンダ シビックなんです。アイカはホンダ一筋!ってキャラですごくカッコいいんですよ。アイカに憧れて私も赤いシビックに乗りたいと思うようになって中古車サイトでシビックを見ていたら、タイプRユーロが目に止まりました」
さわさんは『何これ!?カッコいい!』とシビックタイプRユーロに一目惚れ。どんなクルマなのだろうと調べたら、ヨーロッパから輸入されたタイプRということがわかり驚いたという。
手伝っていたのは中古車ショップが運営するドリフトチームだったので『このクルマに乗りたいです!』と相談したら、すぐに『オークションに赤いタイプRユーロが出ているけれどどうする?』と連絡が来た。シビックタイプRユーロは約3500台しか販売されておらず、しかも赤は希少カラーだ。それがすぐに見つかったのは、運命的な出会いだったのかもしれない。
ちなみに車両価格は予算内に収まったが、見つかったクルマにはナビがついておらず、ナビの装着をお願いしたら予算をかなりオーバーしてしまった。
「シビックタイプRユーロの純正オーディオは1DINや2DINではなくインパネ一体型だったので、そこにナビをつけるのが大変で……。メーカーから部品を取り寄せてもらったりしたので結構費用がかかっちゃいましたが、それは必要経費と考えました」
子どもの頃から夢見た憧れのスポーツカーが自分の手元にやってきたのが2023年の春。ちょうど桜の季節だった。川沿いの土手の道を走っていたら満開の桜並木が続く場所に遭遇。そこにクルマを停めてクルマから降りたら、真っ赤なボディに淡いピンクの桜が映り込んだ姿がとてもキレイで、シビックタイプRユーロを選んで本当に良かったと思ったという。そのときの写真が下の1枚になる。
シビックタイプRユーロが納車されてから、通勤や趣味の釣り、モータースポーツ観戦など、オンオフを問わず多くの時間を一緒に過ごしている。購入後の走行距離は1年ちょっとで2万kmを超えた。でもさわさんは決して無茶な運転はしない。
「タイプRでしかも赤で目立つから、走っていると他のスポーツカーから挑まることもあるんですよ。でも私はすぐに道を譲っちゃいます。もし誘いに応じて事故を起こしたりしたら嫌ですから。自分の身体はもちろん、人に迷惑をかけてしまうのも絶対にいけないことだと思うので。ドリフト観戦は好きだけれど自分ではやっていないです。このクルマはFFだしドリフトとはちょっと違うかなと思って」
ホンダのi-VTECは街なかを走らせていても十分に楽しいし、何より目立つクルマなので歩いている人たちが振り返るのが気持ちいい。
「最初は想像以上に目立っちゃって照れくさかったけれど、今は『カッコいいクルマだしみんな見たくなるよね』と思っています(笑)。本当にそう思ってもらえたら嬉しいですね。信号待ちで建物のガラスにクルマが映っているのを見るとついその姿を眺めちゃいます。まだシビックタイプRユーロに乗って1年半くらいですが、運転していると、アイカみたいにちょっと自分が強くなったような気がして気持ちいいです」
まさに相棒と呼べるクルマに出会うことができたさわさん。シビックタイプRユーロにはずっと乗っていくつもりなのかと思ったら、笑顔で首を横に振った。
「まだ当分は乗るつもりですが、何か気に入った別のクルマが見つかったら迷わず乗り替えると思います」
なるほど。こだわりを持ち過ぎず、自分の気持ちに正直に生きていく。次に乗りたいクルマが見つかるまでは安全運転を心がけながら、真っ赤なシビックタイプRを存分に楽しんでもらいたい。
(取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/柳田由人 編集/vehiclenaviMAGAZINE編集部)
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