30年前惚れて購入したカプチーノ 今でも唯一無二の存在
愛車の見た目に一目惚れして購入したというエピソードはよく耳にする。しかし一瞬でハマってしまう理由は必ずしも見た目だけではない。
「直感ですね。試乗した瞬間にビビッとお尻にきて、乗っていて楽しいって思ったんです」
そう嬉しそうに話す東京都在住のsuperheroさん(51才)は、スズキ・カプチーノ(EA11R)に試乗した際にそのドライブフィーリングに惚れ込み、新車購入してから現在まで30年間大切に乗り続けているという。
「クルマ好きはDNAに組み込まれていました(笑)」というsuperheroさんが免許取得後に初めて買った愛車は、当時人気だったスポーツカーのフェアレディZ(Z31)の3.0 300ZX 2by2 Tバールーフで、大学時代の3年間を共に過ごしたという。
「就職して親から独立した自分へのプレゼントとして、自分が好きなスポーツカーかオープンカーを買おうと思ったんです。候補を絞っていった中で残ったのが、カプチーノ、ビート、FC3C型RX-7ファイナルバージョン、NA型ロードスター、そしてJZA80型スープラのエアロトップでした。それらをさんざん試乗しまくった中で自分に1番ピンときたのが、カプチーノだったんです」
その衝撃の出会いというのが冒頭で触れた「直感でお尻にビビッときた」というものだ。
「どうしてカプチーノにこんなにもハマったのか、まったくわからなかったんです。でも、ある方とお話しをさせていただいたときに持論を伺って、その言葉をこのクルマに置き換えて考えたときに、すべて当てはまっていたので驚きました」
なんと、その相手というのはトヨタで86やスープラなどのスポーツモデルの開発統括を担当していた多田哲哉さん。
「多田さんいわく、クルマが曲がる時に軸となる“回転軸"が、できるだけクルマの中心に近くて運転席のヒップポイントの延長線上にあるのが理想的な設計で、曲がる時にクルマとドライバーの一体感が高くなるから、そこが大事なのだと。カプチーノはエンジンがフロントストラットよりも後方に搭載された『フロントミッドシップ』のFR車で、前輪タイヤと後輪タイヤの重量比は51対49とほぼド真ん中にあるんです。しかもこれ以上ないくらい着座位置が低くて低重心な設計です。だから操作していて本当に違和感がないんですよね」
superheroさんの熱い解説は、まだまだ続く。
「なぜそう言ったのかは僕もよくわからないんだけど、多田さんは『リヤタイヤは扉を開けて、触れる位置にあるのが正しいんだよ』とも仰っていて、それもカプチーノと一緒だなと。『後輪駆動のタイヤの上に体が乗っかっていると、ガっと加速していく瞬間のモーションにすごく敏感になれるんだよね』という言葉も、まさにその通りだと思いました」
また、マクラーレンの開発責任者からもまったくおなじ趣旨のコメントを聞く機会があり驚いたという。
「僕はクルマの試乗記やイベントの情報発信などクルマ関連のインフルエンサーもしているのですが、マクラーレン720Sを運転する機会に恵まれたことがあって、その際にフィーリングがカプチーノとまったく一緒だと感じたんです」
720Sといえば全長は約4.5m、幅は2mオーバーで720psを発揮するエンジンをミッドシップに搭載した超高級スーパーカーだ。そんな大きくてハイパワーなクルマとカプチーノに共通点を感じたというのも、回転軸や前後重量配分、低重心化といった設計思想が同じだと考えれば納得だ。
そして、数多くのスポーツカーを体験してきたsuperheroさんがカプチーノを愛して止まないポイントはほかにもたくさんある。
「めちゃくちゃ気に入っているのが、手首のスナップだけで素早く入るシフトフィールです。ショートストロークで小気味良く動かせるんですよ。それと、やっぱり車高の低いクルマという点です。クルマのよれからくる揺れが極端に少なくて、重心を下げるメリットはすごくでかいんだなと感じますね」
また、彼はカプチーノのデザインについても「パーフェクトです」と大絶賛だ。
「気に入ったクルマって100点~120点満点だと思って買っても、長く乗るうちに粗が見えてくるって言うじゃないですか。『ああ、やっぱりね…』って。このクルマも当然いろいろと思うところはあるんですが、それを全部飲み込んで納得できたのは、このカプチーノだけだったんです」
もちろん、サスペンションのストローク量が少なくて乗り心地が悪いことやピーキーな特性、安全装備がないことなど、強いて挙げれば“残念な点"はあるものの、その短所に目を瞑ることができるくらい圧倒的に長所の比重が高かったというわけだ。
ちなみにカプチーノが愛車候補に挙がったのはオープンカーというのも理由のひとつで、Tバールーフやタルガトップなど3つのオープン状態を楽しめるのも良いところだが、現在はほとんどオープンで走ることはないのだという。
「買ってすぐの頃は若かったしオープンにして走るのも楽しかったです。でも4、5年を超えた時点からは、屋根を開けて走ることは滅多になくなりましたね。というのも、構造上オープンにするのがちょっと面倒で時間がかかるんです。それに屋根を開けるとボディがよれて結構リアが粘る感じのフィーリングになるんですよね」
「1992年に新車購入して以降、外装で唯一変えたのがマフラーです。ある時にマフラーの出口部分が錆びてポロンともげてしまったのでスズキのディーラーで見てもらったら新品は8万円すると言われて、もっと安く手に入ってステンレス製になるということでFUJITSUBO製マフラーに交換しました」
内装についてもステアリングとシフトノブを大好きなMOMO製に交換している以外は、壊れたところの修理や消耗品の交換くらいでオリジナルの状態を保っているという。
「結婚してファミリーカーが必要になったとき、どうしてもカプチーノを手放したくなくてセダンのベンツを増車したんです。ただ、そうなると駐車場をもう1台借りる必要があって、駐車場代4万円を25年間払い続けていました(笑)。買った当初からボディーカバーをかけて保護してきて、5年ほど前にやっとカーポートを増設して屋根付き保管できるようになりました」
こまめに洗車やワックスがけなども行うことで美しい状態を保ち、走行距離は8万3000kmと大事に乗っていたことが窺える。
そんなsuperheroさんに、カプチーノとの今後についても伺った。
「やっぱり細かい部分のレストアですね。実は昨年の10月くらいにクラッチやギア周りのオーバーホールを行ったんです。見えないところですけど、全部キレイにしてもらいました。これからもお金や手間がかかっても長く大事に乗っていきたいと思っています。なにせ、私にとって30年も毎週のように洗車してメンテや修理をしながら一緒に過ごしてきたカプチーノは息子のようなものです。これまで過ごした時間は何物にも代えがたいですね」
前述したように、クルマのインフルエンサーとしても活動するsuperheroさんは、これまでメルセデスベンツやBMW、ラウンドローバーやジャガー、レクサスなどたくさんのスポーツカーに試乗してきたという。にも関わらず、彼にとって20才の時に購入したカプチーノほどピッタリくるクルマは存在しないというから、きっとカプチーノに出会ったのは運命だったのだろう。
そんな愛車と出会えたsuperheroさんはとても幸せだなと思う。
取材協力:トヨタ東京自動車大学校(東京都八王子市館町2193)
(⽂: 西本尚恵 撮影: 中村レオ)
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