大事に眠らせていたソアラを復活させてファミリーカーとして愉しむ

  • GAZOO愛車取材会東京の会場であるトヨタ東京自動車大学校で取材したトヨタ・ソアラ (JZZ30)

ライフステージの変化とともに、所有するクルマに求める要素も大きく変わる。特に結婚や出産といった節目では、自分ひとりの希望だけでなくパートナーや家族の意見も重要になるのは間違いない。
本音ではスポーツカーに乗り続けたい、しかし家族のことを考えると安心快適なファミリーカーは必須…この究極とも言える懊悩煩悶は、古今東西多くのクルマ好きを悩ませ続けているのである。
1996年トヨタソアラ 2.5GT-T Lパッケージ(JZZ30)のオーナーである花塚さんも、まさにおなじ理由で一時期は愛車を休眠させたオーナーのひとり。しかし現在は、愛車を復活させて家族とともにスポーツカーライフを楽しんでいるという。

スペシャリティカーのパイオニアとして、1981年にデビューしたトヨタ・ソアラ。好景気に向かう時代背景もあり、ハイエンドなパーソナルクーペというキャラクターに支持が集まったことで、爆発的なヒットを記録したのはご存知の通りだ。
そんなソアラの3代目として1991年に投入されたZ30系は、ハイスペックな直6ツインターボ(1JZ-GTE)を搭載するグレードを用意したことで、従来のパーソナルクーペとしてだけでなくスポーツカーとしての人気も高まっていった。同時にレクサスブランドとして海外展開されたことで、今も広く世界中で人気を集めている。

もともとトヨタ車が好きで、20才から30ソアラに乗っていたという花塚さん。現在のソアラは2台目で、すでに20年近く所有しているという。
若い頃に乗っていたのは前期モデルでシルバーグリーンメタリックの30ソアラだったんです。そのソアラに4年くらい乗って、走行距離が伸びすぎちゃったのでそろそろ手放そうと思った時に、ちょうどこのフルノーマルの後期モデルに出会ったんですよ。ボディカラーがトヨタ純正のブルーマイカメタリック(8L5)っていう超レアカラーで、当時の中古車情報でも2〜3台しか出てこなかったんです。それまでのツートンカラーとは違う鮮やかな発色のボディカラーにひと目惚れしちゃって乗り換えを決意しました。タイミングよく所有していた過走行のソアラを買ってくれるっていう人もいたので、もうこれは乗り換える運命なんだって思っちゃいましたね」

「結婚する前からこのソアラに乗っていたので、妻とのデートでも活躍してくれていました。旅行に行ったときにエアコンが壊れちゃってふたりで熱中症になったり、プロポーズしたときもこのソアラがあったんです。いろんな思い出が詰まったクルマだったので、家族が増えてファミリーカーが必要になったときも手放せなくて、結局このソアラはナンバーを切って残しながら、三菱・アウトランダー(GF8W)を購入して一時期は落ち着いていたんですけどね…」

しかし乗っていないとクルマは劣化が進んでしまうもの。花塚さんのソアラも同様に、みるみるうちに土に還っていく様に心が痛んでいたという。そんな時に目にしたのが “Child in Car”のステッカーを貼った現行モデルのスープラだった。
「スープラで子供を乗せている人がいるなら、ソアラでもなんとかなるんじゃ…」と考えた花塚さんは、奥さんからの許可も得てソアラ復活計画を進め、今年の3月にナンバーを取得して念願の路上復帰を果たしたというわけだ。

そんな花塚さんのソアラは、レアなボディカラーというだけでなく、純正オプションのサンルーフが装着されているのもお気に入りのポイント。
また、自分の手でギアを選択して走らせる“操っている感覚"を楽しめる希少な純正5MT搭載車であることも花塚さんが長年このソアラを所有し続けている理由のひとつだという。
同じ条件のクルマを見つけるのは難しいことがわかっているので手放すことができなかったし、過去には飛び出してきた鹿とぶつかって60万円を超える修理費がかかってしまった際にも躊躇うことはなかったという。

また、独身時代から休眠期間までの14年ほどメインカーとして活躍していたこともあり、内外装には様々なカスタマイズが施されている。
オーディオは仲間のオーディオ専門店でバッフルを製作してスピーカーを交換。コンソールはマルチディスプレイモニターやスケールモデルで飾り付けられていた。
レクサスブランドで北米仕様が販売されていたことを活かしてエアバッグやサンバイザーなどは北米純正パーツに交換するなど、スポーツカーとしてだけではなくカーショーなどのイベントも満喫できるカスタムを楽しんでいるそうだ。

重量級かつハイパフォーマンスなソアラをより安心して走らせるために、ブレーキは当時からのスタンダード手法であるJZA80型スープラ純正キャリパーを流用。
またホイールは結婚する前から新品でストックしていたというシンプルな5本スポークデザインのOZ・クロノを、車両の復活に合わせて装着したという。
「ホイールに関してはスタイリングの変化が楽しめるので、家族が許してくれるなら何セットかあっても良いなって思っています。でも今後を考えると補修パーツもストックしておいた方がいいと思い、海外のサイトで探して購入し始めているので、あんまり多くのホイールを所有するのは難しいかもしれませんね」

適度にローダウンされた車高や時代考証にあったホイールに加え、マフラーの変更も愛車カスタムのハイライトと言える。というのも花塚さんは、大手マフラーメーカーである藤壺技研工業に勤務しているのだ。
ソアラらしいスタイリングとジェントルなサウンド、そして1JZ-GTEのパフォーマンスを引き出す最適なマフラーを求め、これまで複数回交換しているという。そんなマフラーのプロが選んだアイテムは、スポーツカーらしいサウンドを楽しめるうえに、車内への篭り音もなくファミリーユースでも安心できる性能を併せ持っている。

ちなみに歴代ソアラといえば、ハイエンドパーソナルクーペらしく先進の装備を満載しているのも特徴のひとつ。その代名詞とも言える『デジタルメーター』は初代Z10系から受け継ぐアイテムながら、30ソアラの世代になるとデザインも洗練され、視認性も高まっているのがわかる。
いっぽうで、すでにヤングクラシック世代にカテゴライズされる車種だけに、現存するソアラでも不具合が出てアナログメーターへ交換している人も少なくないという。
花塚さんのソアラも一時期はオドメーターの表示が壊れてしまったのだが、アナログメーターへの変更ではなく、九州の専門店に直接問い合わせ修理して復活させているそうだ。

「現在の走行距離は22万7000キロですが、さすが1JZ-GTEですね。丁寧に乗っていたことも幸いして、復帰させるときもそれほど手がかかりませんでしたよ。純正ラジエターが壊れてしまったため新たに銅2層タイプに交換したのと、熱対策のためにパワステクーラーを追加していますが、その他はしばらく眠らせていたとは思えないほど快調ですよ」

静岡県在住ながら、学生の頃から栃木県のモビリティリゾートもてぎなどにも頻繁に通ってレースオフィシャルをしていたという花塚さん。その移動距離のほとんどが高速道路だったということも、エンジンのコンディションを良好に保っている要因のひとつかもしれない。

ちなみにサーキット走行やドリフトなど競技志向のユーザーに愛用される1JZ-GTEの中でも、このソアラに搭載されているのは可変バルブタイミング機構とシングルターボの組み合わせによってトルクバンドを引き下げられた第2世代のエンジン。最大出力280psは変わらないものの、耐久性が高く低回転域の扱いやすさも向上した強心臓は、長く乗り続けたいと考える花塚さんにとって大きなメリットと言えるだろう。
しかも昨今のガソリン価格高騰もあって、最近は別に所有している軽バンやバイクで通勤していて、ソアラの出番は週末ドライブがメイン。使い倒すのではなく適度に走らせながら動態保存する理想の環境を維持しているというわけだ。

思い返せば幼少期からミニカーで遊び、学生時代から現在進行形でサーキットオフィシャルとして活動、さらに就職先もマフラーメーカーというクルマ漬け人生を送っている花塚さん。

長く乗り続けているソアラにはひと際思い入れも深く、このまま死ぬまで乗り続けていくつもりだというから愛情も半端ない。いっぽうで自身のソアラ愛を暴走させるのではなく、ファミリーカーとして子供たちと楽しい思い出を作り続けていくことも考えているという。

  • GAZOO愛車取材会東京の会場であるトヨタ東京自動車大学校で取材したトヨタ・ソアラ (JZZ30)

「このソアラで楽しい思い出を作ることができれば、将来的に息子が欲しがる可能性もあるんですが、正直言って維持しようと思うと大変なのでオススメはしないですね。どうしてもと言うなら譲ってもいいんですけど(笑)」
古いクルマを維持していく大変さを知っているからこそ、子供に受け継いでもらいたいという考え方ではなく、負担を負わせたくないという気持ちが強いという花塚さん。
あくまでもソアラはファミリーカーであって、家宝のように代々受け継ぐものではない。そんな花塚さんの考え方や愛車との付き合い方も、家族でスポーツカーを楽しめる環境を作り上げることができた理由のひとつのかもしれない。

取材協力:トヨタ東京自動車大学校(東京都八王子市館町2193)

(⽂: 渡辺大輔 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]