新車から35年乗り続けた “家族の一員” であるマツダ・サバンナRX-7は息子へと受け継がれる
1台のクルマに長く乗り続けていると、愛車との付き合いは家族以上に長いなんて話もよく耳にする。確かに結婚する以前から所有していたクルマなら、一緒に過ごしてきた期間は奥さんや子供よりも長く、もはや家族の一員と言っても過言ではない特別な存在にもなり得るだろう。
そんな大切な家族として35年間1台のクルマと付き合い続けているのが、この1988年式マツダ・サバンナRX-7 GT-X(FC3S)のオーナーである芝﨑さんだ。
1985年のフルモデルチェンジによって2代目RX-7としてデビューしたのがFC3S。初代SA3Sに引き続き北米市場では『プアマンズポルシェ』と揶揄されながらも、ピュアスポーツというキャラクターが爆発的なヒットを記録。特にパワーユニットはターボ仕様のロータリーエンジン13B-Tを搭載し、30年以上経過した現在もその存在は色褪せることなく、世界的なブームとなっている国産スポーツカーの一角として根強い人気を誇っている。
芝﨑さんのFC3Sは35年前に新車で購入した、今や希少な前期モデル。購入した当時は世の中がスポーツカー全盛期を迎えるタイミングだったこともあり“パフォーマンスを楽しめるスポーツカー"は若かりし芝﨑さんのハートを鷲掴みしたという。
「FC3Sに乗る以前は、3A-Uエンジンを搭載したスプリンター(E70)に家族と共用で乗っていたんですよ。でもファミリーセダンなのであんまり速くなくて『ターボをつけたい!』と両親に相談してみたんですよ。そしたら『新しいクルマを買え』って言われちゃいまして…ちょうど自分専用のクルマが欲しかったということもあり、24才の時に念願のターボ車でもあるこのFC3Sを手に入れたんです」
『今乗っているクルマを速くしたい』という当初の欲求から一転、自分だけのクルマを購入するという思わぬ方向転換で、今まで考えてもみなかった愛車を手に入れるという状況に心踊り、片っ端からカタログを手に入れてクルマ選びに明け暮れていたという。
このクルマ選びの段階では、乗っていたスプリンターの直系でもあるAE86も候補に上がっていた。しかし、AE86は既に新車販売が終了となっていたので断念し、次に目をつけていたFC3Sをはじめての愛車として迎え入れたのだ。
「スプリンターが80psそこそこだったのに対して、FC3Sは185psなので一気に100psもアップしちゃったんです。当然走る楽しさは格段に向上したんですが、何より初めて自分だけの愛車を手に入れたという感動と満足感は今でも鮮明に覚えていますね。だからムチャな走りやチューニングは行わず、大事にメンテナンスしながら乗ろうって考えるようになりました。当初は“10年くらい乗れれば”というくらいの予定だったのに、大きなトラブルもなく気がついたら35年も所有し続けちゃったんですよ」
その言葉通り、エンジンルーム内は見てのとおりクリーンな状態をキープ。劣化しやすい樹脂パーツなども欠損することなく保持し続けているのは、手入れを怠らなかった芝﨑さんの愛情の現れだろう。
結婚して家族が増えると実用性の高いクルマへの買い替えなどが検討されるのも当然の話だが、芝﨑さんの場合はFC3Sをすでに家族の一員として捉えていたため、愛車に対する気持ちには大きな変化はなかったという。
「家族が増えると今ならミニバンって選択肢に落ち着くと思うんですよ。でも結婚してもFC3Sを手放すことはできず、考えてみればリアシートもある4人乗りなら子供ができても乗り続けられるって考えるようになったんです。それだけ自分にとってFC3Sの存在が大き過ぎたため、長男が生まれて名前を考えた時には思わず世文(セブン)と名付けちゃいました(笑)」
愛車を息子さんの名前の由来にするのは少々行き過ぎに思えるが、24才になった世文さんもこの名前には誇りを持っている。むしろFC3Sをお兄さんと捉えて、週末には父と世文さんとFC3Sの兄弟でドライブを楽しむまでに成長。ゆくゆくはこのFC3Sを受け継ぐことも考えているというから、親子2代に渡ってFC3S愛に溢れているというわけだ。
ちなみにロータリーエンジンはその構造上、レシプロエンジンよりも寿命が短いと言われ、エンジンは消耗品と考えているオーナーも少なくないほどだ。
しかし芝﨑さんのFC3Sはメンテナンス履歴など自身がすべて把握しきっているノーマルのワンオーナー車ということもあり、35年20万キロ超でもオーバーホールなどをすることなく走り続けているという。
最近でこそ圧縮が下がってきてしまい、エンジンのかかりが悪くなりはじめ、同時にオイルシールの劣化によってオイル漏れも気になってきているというが、経年を考えればむしろ長持ちしているとさえ言えるだろう。
そして、こういったエンジンの寿命をうかがわせる不調は20万キロが分岐点だと他のオーナーからも聞いていたため、この取材会の後にはリビルトエンジンへの載せ換えを行う準備が整っているという。
35年の付き合いで深まった愛車は、エンジンの不調くらいでは手放す理由にはならない。むしろ今後、世文さんに譲りわたすことを考えると、このタイミングで新たなエンジンへとリフレッシュするのは最善のメンテナンスと言えるだろう。
「子供のころから父と一緒にFC3Sに乗って出かけた記憶もたくさんあります。冬はスキーに連れていってもらったりしましたから、家族の思い出にはいつもFC3Sが一緒ですね。ちなみに父にはじめて買ってもらったFC3Sのミニカーは、今も宝物として大切に持っていますよ」と語るのは世文さん。
幼少期からFC3Sに触れていたことで、今ではすっかりクルマ好きとなったという。しかし免許取得後すぐにこのFC3Sを乗ろうとしたものの、ダブルクラッチがうまくできずに2kmほどで運転を断念。現在はインプレッサワゴンを所有し、ドライビングスキルの向上を目指しつつ、FC3Sを譲り受ける準備を着々と進めているのだとか。
そんなFC3Sの室内を覗かせていただくと、純正MOMOステアリングや革張りのシフトノブなどはオリジナルを維持。希少な純正カセットデッキなども残されている。
いっぽうで、コンディションチェックのための追加メーターなどを装着し、レカロのセミバケットシートに交換して経年劣化を隠すリフレッシュなども行われている。
メタリックの粒が見えるくらいのツヤが残り色褪せがほとんどないボディは、右フロントフェンダー以外純正のペイントのままというから驚き。その保管方法は自宅の軒下に駐車し、さらにボディカバーを7枚重ねることで紫外線対策を徹底しているという。もちろん新車当時から洗車やワックスを欠かすことなく継続しているのは、ここの美しいボディを維持する秘訣と言えるだろう。
ホイールは若い頃から使い続けているマツダスピード。タイヤは現代のハイグリップラジアルでは性能が良すぎて足まわりや駆動系に負担をかけてしまうと考えセカンドグレードをチョイスしているという。それでも当時のハイグリップラジアルよりもグリップ力が高く、クルマの動きもアップデートされたかのような感覚を楽しめるそうだ。
はじめて手に入れた感動から35年。今も色褪せることなく存在し続けるFC3Sは、芝﨑さんにとって唯一無二のクルマであることは間違いない。独身時代からの思い出、そして結婚、長男の誕生など人生の分岐点をいくつも共有しているだけに、もう他のクルマに乗り換えることは考えられないという。
「今のクルマにはないデザインは、FC3Sを知らない人にとっても目を引く存在だと思います。だから出先でエンジンがかからなくなった時、その場でプラグを磨いて復活したら周りの人が拍手してくれたりもするんです。そんな物語を作ってくれるクルマはこのFC3S以外はありえないんじゃないかな。だからこそ乗れるうちは世文と一緒にFC3Sを楽しみ尽くしたいですね」
もはやFC3Sは家族の一員。その思いは芝﨑さんだけの独りよがりではなく、奥さんや息子さんを含む芝﨑家の総意でもある。これだけ愛され続けるFC3Sは、もしかすると世界一幸せなクルマなのかもしれない。その思いに応えて、これからも芝﨑さんファミリーの一員として、家族全員の思い出の1ページにその姿を刻み続けていってほしい。
取材協力:トヨタ東京自動車大学校(東京都八王子市館町2193)
(⽂: 渡辺大輔 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]
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