息子の誕生とともに乗りはじめて早19年。受け継がれるアルテッツァ
「自分の大切な愛車を、できれば子供に引き継いで乗ってもらえたら嬉しいです」
愛車取材をしていると、そんなお父さんの願望を耳にすることは少なくない。しかし現実には息子がクルマにまったく興味がなかったり、興味があったとしても系統が違っていてその願望が叶えられなかったりすることの方が多いように思う。
しかし今回ご紹介する川崎市在住のKeiさん&Toshiさん親子は、ファミリーカーとして長く活躍していたKeiさんの愛車トヨタ・アルテッツァを、息子のToshiさんが乗り継ぐことが決まっているという。
「この子が生まれるのを機に買ったこのクルマを、この子にちょっと運転させたいなというのは僕の勝手な夢だったんですよね」
そう話しはじめた父親のKeiさん。このアルテッツァは息子のToshiさんが生まれる3週間前にファミリーカーとして購入したのだという。
「僕が免許をとって1番最初に乗ったのはハッチバックのAE86でした。それに3年乗ったあとは当時流行っていたアベニールにフルエアロを組んだりウーファーを積んだりして楽しんでいました。で、トヨタ・日産と乗ったので今度はホンダ車のアコードインスパイアに乗り換えたのですが、これがすこぶる調子が悪くて。ちょうどこの子が生まれるタイミングだったこともあり、もし急に赤ん坊が病気をしたりしたらクルマは欠かせないということで乗り換えることにしたんです。本当はスポーツカーが欲しかったんですけど女房の退職金で買うというのもあって『お父さんになるんだから、父親としての自覚を持ってマニュアル&ツードア車はダメよ』って言われてしまいまして…(苦笑)」
そして悩んだ末にトヨタディーラー中古車店で購入したのが、4ドアセダンのAT車、1999年式のアルテッツァだったという。
「やっぱりAE86が忘れられず、できればスポーツカーのFR車に乗りたかったので、アルテッツァを選びました。女房は普通のおじさんグルマだと思っているので、そう錯覚してくれるところが良いんですよね。でも、だからこそエアロやホイールを変えたりすると気づかれてしまうので、大きなカスタムはせずに乗り続けてきた感じです」
そんなアルテッツァは、手に入れてから19年間という年月を感じさせないほど純正に近い状態で綺麗に保たれている。
「購入時は5万km弱でしたが現在は7万kmです。基本的に日曜日しか乗っていないのと、マンションの立体駐車場で地下保管なので、24年経っている塗装も維持できているのかなと思います。正直、最初の頃は駐車場を上げ下げするのが面倒だったんですけど、今は本当に地下でよかったなと思っていますよ」
そして、奥様に配慮してカスタムを最小限にとどめていたというKeiさんだが、実はマフラーとグリルだけは交換しているのだとか。
「車検に通るマフラーに変えたのはよかったのですが、砲弾マフラーで昔はサイレンサーも入れていなかったので、地下駐車場でエンジンを掛けると近所の人からの視線を感じたり、帰ってくると家族のみんなには音ですぐバレたりしていましたね(苦笑)。グリルは純正のデザインがあまり好みじゃなかったのでメッシュグリルを買ってきて交換しました。もとの色はグレーだったんですが自分で缶スプレーを使って黒に塗って、上からクリアも吹いてみました」
つまりこのメッシュグリルはKeiさんのカスタム欲を凝縮した密かな力作なのだ。
「息子はずっと野球をやっていたんですが、少年野球や中学のクラブチームにこれで送り迎えしていると浮いてしまうんですよ。エンジンをかけると子供たちが群がってくるんです。幼稚園児なんかには特に人気でしたね(笑)」
そう懐かしそうに話すKeiさん。軽快なマフラーサウンドを響かせながらのお迎えはさぞかし注目を集めたことだろう。しかしToshiさんはそれについて疑問に感じたことはまったく無いのだという。
そしてToshiさんも、生まれてからファミリーカーとして慣れ親しんだこのアルテッツァをとても気に入っているそうだ。
「どうしてうちのクルマだけ違うのかと疑問に思ったことはないし、いいクルマだなと思います。お父さんの運転が上手いのかどうかはわからないけど、乗り心地もよかったですね。小6くらいの頃にちょっとミニバンとかに憧れた時はありましたけど(笑)」
「息子が小さいころからミニカーを買い与えたりしていましたね」
「そうそう、あとはゲームとか色々やらせてもらって結構それでクルマを覚えたり」
「さりげなく漫画の『湾岸ミッドナイト』を置いておいたら勝手に読み出したりしていたなぁ(笑)」
どうやらToshiさんがクルマに興味を持ったのは、Keiさんの“刷り込み”効果が大きかった様子。
ちなみにアルテッツァの見た目のお気に入りポイントは、親子揃ってリア周りのフォルムだという。
「お尻がプリッとした後ろからのフォルムですね」
「自分もお尻はいいなって」
「だからもしこれからやっぱり買い換えるなら後ろのシルエットが似ているレクサスのISですね。まあ先立つものがないんですけど(笑)」
こうしてこれまでファミリーカーとしての役目を果たしてきたアルテッツァだが、これからはToshiさんの愛車としての役目も担っていくことになる。そして、そんな彼はトヨタディーラーでの整備士を目指して今年からトヨタ東京自動車大学校に通うメカニックの卵でもある。
「自分で整備していくことはもちろんですが、まず1番最初にやりたいのは足まわりですね。車高を下げたいです。そして、マニュアル免許を取ったので先々はマニュアルミッションに載せ換えたいんです。あとはマフラーを変えたりエアロやホイールも付けて車検に通る範囲ギリギリでバチバチに仕上げていきたいですね。今が純正なので“やれることしかない”状態ですし、本当に楽しみですよ」
「でもね、車高下げても行けるところが少なくなるっていうのがね、歳をとってくるとよくわかる。僕もそういうのを経験して今の状態に辿り着いたので(笑)。でもたしかに最初は硬いサスペンションでクルマがはねる姿がいいんだよね」
Toshiさんが語る目標に対して、Keiさんがそう楽しそうに応える様子が印象的だ。
さらに、Toshiさんが乗ってみたい憧れのクルマはMR2やマークⅡという90年代のスポーツカーだそうで、Keiさんと好みは一緒だというからやっぱりとても仲が良い。
「まだあんまり詳しく無いんですけど、多分僕がかっこいいと思っているのは90系のツアラーなのかなと」
「お父さんは100系がいいな。もしツアラー買うなら乗っていない時に乗っちゃおうかな。どうせガソリン入れるのはこっちなんだし、少しくらい楽しんでもいいでしょ、みたいな(笑)」
ちなみに、Keiさんによるとまだ保険の関係でToshiさんはアルテッツァを運転することができないのだとか。
「今度、1日保険に入る日を作って、ふたりでドライブに行けたらいいなと考えています。そうしてクルマを息子にバトンタッチしていくことで、息子に引き継いで乗ってもらうという僕の夢もひとつ完結するので」
そう遠く無い未来、Toshiさんが運転するアルテッツァの助手席にKeiさんが乗ってアドバイスしながらドライブしている姿が目に浮かぶ。そして今後についてKeiさんはこう話す。
「いまはディーラーに整備に出しているこのクルマを、彼がディーラーに就職して整備してもらいながら大切に長く乗ってもらえたらなと思っていますよ」
この19年間、ファミリーカーでありながらもスポーツカーを所有するという密かな満足感も得ることができる大切な存在としてアルテッツァに乗り続けてきたKeiさん。そして、そんなKeiさんの愛車やクルマに対する情熱は、父の背中をずっと見てきたToshiさんにもしっかりと伝わっていたに違いない。
アルテッツァはそんな親子を繋ぐ絆となり、大切に受け継がれていくのだ。
取材協力:トヨタ東京自動車大学校(東京都八王子市館町2193)
(⽂: 西本尚恵 撮影: 中村レオ)
[GAZOO編集部]
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