トヨタ クレスタが人との縁を繋ぎ、クルマの楽しさを教えてくれた
『マークII 3兄弟』といえば、マークII、チェイサー、クレスタというトヨタを代表するハイソカーの姉妹車だ。
そんな3兄弟の中でも高級志向の『クレスタ』をこれまでに90台近く所有してきたという奥山さんは、その中でもとびきりの2台に乗って取材会場に駆けつけてくれた。
1台は、少年の頃から無垢な憧れを抱いていた GX51。もう1台は、カーライフにおいて自分を成長させてくれたというGX81だ。
「どちらのクレスタについて話しましょう? 51? それとも81?」
ネタは十分だと言わんばかりに満面の笑みを見せる。急かされるように取材を始めると、なるほど確かに。この2台には、奥山さんの職人のようなこだわりと強烈な執念が込められていた。
「幼稚園から小学5年生になるまでの間、父が51に乗っていたんです。灰色のボディーと、斜めにスパッとカットしたようなリアデザインがカッコよくて、僕の自慢のクルマでした。ところがある時、大好きだった51を手放して、新車で81を買うとディーラーに連れて行かれたんですよ。『お気に入りの51が81のせいでいなくなってしまう! 大人になったら絶対に乗ってやる!』と、そこからクレスタ51に執着したのが始まりですね」
当時の作文にも書き記すほど、それは強く心に残る出来事だったという。
そのため当時、GX81は奥山さんにとって恋敵のような存在だったという。『乗り換えなければGX51はまだ家にいたはずなのに』と好きにはなれず、せめてもの抵抗ということで1年くらい洗車を手伝わなかったそうだ。
ところが「気づけば新しく我が家にやってきた81のことも好きになってしまって、それからは寝ても覚めてもクレスタって感じです(笑)」と、恋敵だったGX81はこれまでに購入した台数もずば抜けて多く、いつの間にか1番好きなクレスタに変わったと話してくれた。
そのキッカケはお兄様だという。
「ソアラ2000ツインターボに乗っていた兄が、なかなか面白い奴でね〜。ゲームばっかりやっていてクルマに無頓着だったからなのか、購入後にGTリミテッドの存在を知り、それには“マルチ”が付いていることに気付いたみたいなんです。すると兄は、それならばと解体屋から部品取りのリミテッドを買ってきて、配線図片手にマルチを移植したんです(笑)。僕はそれを側で見ていて『こんなことができるんだ』と、ドキドキというか…ワクワクしたのを覚えています」
当時の電子テクノロジーを集約したソアラの象徴とも言える『エレクトロ・マルチビジョン』をDIYで取り付けた兄。そして、それを見てすぐに「自分もやってみたい!」と思った高校2年生の奥山青年は、行きつけの解体屋から純正のCDオートチェンジャーを購入してきてお父様のGX81に取り付けたのだという。お父様からは勝手にいじるなと苦言を呈されたそうだが、そんなことよりも自分でできたということの方が嬉しかったと誇らしげに笑った。
「そこから自分のカーライフが化学反応を起こして、憧れのクルマに乗るだけではなくて、イジることも楽しさだと気付きました。時を重ねる毎にどんどんこだわりは強くなって、なんというか…マニアというか、変態というか…そんな感じになってしまいました。でも、不思議と自分の納得のいく個体を完成させると手放しちゃう癖があるんですよ」
これまでの所有台数がケタ外れなのはそういうことか…と納得するのと同時に、奥山さんの次の一言がさらに興味を抱かせる。
「だから、81は最後のパズルの1ピースをはめていないんですよ」
奥山さんが現在所有しているGX81は、スーパールーセントだった個体を GTツインターボというスポーティーグレードに仕様変更しているという。その理由は、お父様に連れられてGX81をディーラーへ下見に行った際に、ショールームに展示してあったツインターボグレードだけは唯一カッコいいと思ったからだそうだ。
「あれがいいんじゃない?」と伝えたそうだが、予算の関係から選ばれたのは普及グレードで、希望したオプションも採用されなかったため、大人になった今それを実行しているというわけだ。
そのこだわりは“やりすぎ”と引かれることもあるそうで、ドアミラーにサイドウインドウワイパーを装着するだけではなく、しっかりとそれが稼働するようにしたり、ホイールも当時ものの新品を履かせているのがこだわりポイントなのだとか。
「このホイールなんですけど、実は4台のクレスタが生贄になっているんです(笑)。というのは、4輪ともスペアタイヤなんですよ」
純正アルミホイールとおなじものがスペアとして搭載されているというバブル期らしい特徴を活かし、未使用で綺麗なスペアタイヤを4台から集めたというわけか。
「ちなみに全部含めると10台くらいが生贄になっていますよ、ははは!」とカラッと笑いながら話してくれたが、とてつもなくコスパの悪い錬金術である。聞くなり、すぐさまホイールについた砂埃を払ってあげた。
「あと、スーパールーセントは後ろのスピーカーの所にカバーがポコって付いているだけなんですけど、それがひとつ上のグレードから一体式のカッコいいやつに変わっているので、そこを変えたりとかかな。こだわること、自分でやること、1つのクルマについて調べ尽くすことの面白さは、こうやって81が教えてくれたんです」
これこそが、奥山さんが クレスタGX81 を好きな理由なのだという。
そして、ツインターボ専用のシート、バンパーのクリアランスソナーなどを付けたら満足できる仕様が完成するが、そこはまだ、あえて残したままにしているのだと教えてくれた。
「じゃあ、そろそろ51の話をしましょう。このクレスタも、僕にとってはかけがえのないクルマですから。最初に51を手に入れたのは、免許も持っていない高校1年生の時でした」
お母様のご実家がある山形県を訪れた帰り道、クルマの中から何気なく外を眺めていると、中古屋さんの奥の方にリア部分がチラリ見えたのだという。ほんの数秒のことだったが、灰色のその個体は、まさしく自分が探し求めていたボディーカラーだったという。
すぐさま親戚に連絡して『その個体を抑えてくれ』と頼んだというから、その行動力と決断力に驚かされる。そして「本当に買うんだね?」と何度も確認されながら、高校1年生の夏にお小遣い貯金を切り崩して12万円で購入し、不動車だった状態から何とか動くようにしてもらって仮ナンバーを付けてお父様とお兄様の運転で自走で帰ってきたのはいい思い出だと笑っていた。
「まだ運転はできませんでしたが、家にやってきてからはシートに座ってカセットで音楽を聴くのが日課になっていました。外装がボロボロだったのでボンネットを解体屋さんから買ってきて付け替えたりとか、免許を取ったら…とワクワクしていました」
そして、石川県にある大学に入学し、運転できるようになった愛車と夢のような日々を過ごしていた奥山さんが、下宿先で洗車をしているときに灰色のボディーを輝かせながら目の前を走り去っていったのが、取材会場に乗って来たGX51だったという。
そのときは追いかけたものの見失ってしまったそうだが、その後間も無くして、偶然そのクルマが停まっている家の前を通りかかったのだとか。
「その時は声をかけることなく、大学を卒業して山形県で就職したんですけど、何年後かに富山県に転勤が決まった時になんとなくオーナーさんを訪ねてみたんです。人の良さそうなお爺ちゃんで『なんとなく覚えてるよ〜』とかお話をして、一緒にクルマに乗って近所をドライブしました。それからまたしばらく連絡は途絶えていたんですけど、ある時連絡すると亡くなられたことを知らされました」
それからことあることに立ち寄り続けること3年、そのGX51は奥山さんが引き取ることになったそうだ。
引き取りに行った月は偶然にもオーナーさんが病院に行く際に最後に乗ったのと同じ月だったそうで『機械好きだったオーナーさんは奥山さんに乗ってもらえることになって喜んでいると思う』という内容の手紙をご家族からいただいたという。
「つい先日も電話をしました。スイカを送ったんですけど、お礼をもらいすぎたのでブドウを送ったんです。そのお礼の電話でした」と、今も元オーナーのご家族と交流を続けている様子は、まるで親戚や親友のような距離感だ。
この縁は偶然のようだが、クレスタが繋いでくれた必然の出会いだったのではないかと奥山さんは語る。
「クレスタに出会わなければ、こういう人生はなかったと思うんです。ほかにも、いろいろな縁を繋いでくれました。特別ですよ、クレスタは」
100%例外なしの頷きが、すべての答えだろう。2台並んだクレスタがジリジリと暑い太陽の光を受けてキラキラと目を射る。人1人の人生を変えたこのクルマたちは、間違いなく名車だ。
取材協力:やまぎん県民ホール(山形県山形市双葉町1丁目2-38)
(⽂: 矢田部明子 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]
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