こだわりが詰まったアガリの1台。ツアラーSらしさを最大限に楽しむ工夫を重ねていくチェイサー(JZX90)
昭和40年(1965年)生まれというエーピーさんがクルマに興味を持ち出したのは、中学生に差し掛かったころ。そのタイミングで日本の自動車業界に起こったとある大きな環境変化が要因のひとつになったという。
「昭和53年(1978年)の排ガス規制をキッカケに、そのあとに出たクルマは全然パワーがなく走らないという論調を自動車雑誌でよく見るようになったんです。
『よく走るクルマは排ガス規制未対策のエンジンを積んだクルマだぞ!』と。
初代ハコスカの2000GT-Rのようなクルマを持て囃す記事を読んで、免許を取ったらそういうクルマが欲しいなと影響を受けたのを覚えています」
そして18才になったエーピーさんが最初に選んだ愛車は、TA22型のトヨタ・セリカ GT-V、いわゆるダルマセリカと呼ばれる初代セリカだった。
「もとは知り合いが乗っていたクルマで、乗り飽きてボロボロになったからそのまま廃車にしようというような状態だったんです。だけど自分にとっては規制前のクルマでキャブ車にも憧れがあり『自動車税を払ってくれるならタダでいいよ』と言われて喜んで譲り受けました」
セリカはそこからおよそ10年間、20代の青春時代のほとんどを共に過ごし愛着が生まれたクルマだったというエーピーさん。
「昔から乗り始めたらその1台のクルマにこだわってずっと乗りたくなるような性格なんです」というように、途中エンジンブローという大きなトラブルにも見舞われながらも、それをきっかけにNA1600ccの2T-Gエンジンを1750ccへ排気量アップして乗せ換えるといったカスタムもおこないつつ所有を続けたという。
「外装はなるべくイジらず、中身だけをイジっていって周りから『いつの間にかオマエのクルマ速くなったな』と言われるのが楽しかったんです。エアコンもついていないしエンジンもうるさくてカーステも付けないような快適仕様とは程遠い中身で(笑)。FRだったのでドリフトブームのころは自分もセリカでドリフトにチャレンジしたりもしていました」
しかし、30才を手前にとある事情でセリカを手放すこととなり、そこからしばらくは日常の足クルマだけに乗るカーライフがしばらく続くことになったとエーピーさん。
「セリカをイジりすぎて、色々とやりすぎたなと感じるようになってクルマの趣味からはパッと離れました。途中DR30型のスカイラインも乗ったりもしましたが、特にイジったりはしていませんでしたね」
再びクルマへの情熱が蘇ったのは2007年のころ、セリカを手放して13年ほどが経過し、エーピーさんが42才になったときだった。
「そのときに乗っていた足クルマが壊れちゃって、付き合いのあった遊び仲間からGX90型のマークII(1992年式)を紹介されて乗ったら、予想以上のクルマでとても感動したんです」
「足はしなやかで、セダンなのに軽快感もあって、まるでベンツのW124みたいじゃないか、当時のトヨタはこんなに良いクルマを作っていたのかと感動しました」
そうして、20代でセリカに乗っていたころのようにクルマへの愛着が湧いてきたというエーピーさん。とはいえ当時のような過激なカスタムはせず、ダウンサスを入れる程度で楽しく乗れることを心がけた愛車ライフを過ごしていたという。
「それで当分マークIIに乗り続けたいと思うようになったんですが、元々ちょっと出どころがあやふやだった車体というのもあり、ボディも大きく修復された跡とかもあって、そういう部分を見ると『そこまで予算をかけて長く乗るほどでもないのかな』としばらく悩んでいたんです」
「そんな時期に、コンビニで若い子が乗ってるツアラーVのJZX90を見かけたんです。『おっ』と眺めていたらドアを開けて降りたところで見た室内のカッコよさに衝撃を受けました」
自身の乗るGX90型マークIIにはないレバー式のサイドブレーキ、そして黒く引き締まったインテリアがドア越しに目に入ったのだという。
「おなじガワのクルマなのに、GX90とJZX90のツアラーとではこうも違うのかと思って、これからずっと長く乗るクルマにするなら、GX90ではなく改めてJZX90のツアラーを探そうと思い始めたのが2009年くらいでした」
そうした経緯で2010年に手に入れたというのがこちらのJZX90型チェイサーのツアラーSだ。
「もちろんツアラーVのターボも候補でした。ただ、探し始めた時期は値上がりも始まっていて、安い車体は酷使されるような乗り方をされている場合も多いと思って、ターボにはこだわらず探していたときに出てきた程度のいい下取り車がこのツアラーSでした」
そこから12年間に渡って愛車として乗っているエーピーさんのチェイサーは、ノーマル然を維持しつつ中身に自分のこだわりを反映させるというセリカ時代からの方針を引き継ぐカスタムが施されている。
エクステリアの変更点は最小限で、一見すると分かるのはBBSに交換されているのホイールくらい。
そんななかでもリム幅は前後8Jに統一されていて、これは前後異なるリム幅のホイールが純正採用されていたツアラーVに対し、同サイズだったツアラーSらしさをわずかながらも残すというツアラーSオーナーとしてのこだわりを貫いた部分だという。
いっぽうで、トランクルームには貴重なスペアの純正ホイールが残されている。
マフラーはフィニッシュ部分のみをマフラーカッターでアレンジ。純正マフラーでテールとバンパーにズレが生じるのを防ぐために仕方なく追加した部分で、「見た目だけで効果のないパーツを付けるのは人生でこれが初めてだった」とのこと。
グレードのエンブレムを剥がしているのは、エクステリアは余分に見えるところを引き算で構築していくというエーピーさんのこだわり。ドアバイザーやフェンダーマーカーを撤去しているのも同様の理由だ。
購入から10万キロ以上の走行距離を重ね、19万5000キロを走行したボディだが、車内を見ると日焼けもなく大事に乗られていることが伝わってくる。
「やっぱりマニュアルのシフトを楽しみたい世代なので、ATからMTへの載せ換えも考えたんですが、フロアを切ってしまうことを考えるとこのボディでやるのはもったいないと思ってとどまりました」とエーピーさん。
その代わりに後継車のJZX100のゲートシフトにパネルを変更し、シフトブーツを加えることでATのままだが、一見するとMTらしい見た目となっている。
2.5L、直6自然吸気の1JZ-GEエンジンは「ターボじゃなくても滑らかな吹け上がりがあって気持ちが良いんです。それにVVT-i(可変バルブタイミング機構)がない前期型のほうがノビを感じられるので気に入っています」とエーピーさん。
スロットルバルブ径を2mm拡大し、JZX100用のエキマニを流用するといった吸気系のライトチューンを施していることも、そのフィーリングの良さに寄与しているのだろう。
サスペンションはサスタワーの剛性をアップする強化ブレースのほか、リアメンバーを強化ブッシュに変更。
駆動系ではデフのサイズが同じというアルテッツァからトルセンデフを流用することで脱オープンデフ化を実現している。
レスポンスの良いNAエンジンらしさを思う存分楽しむために、最大限の工夫が様々な箇所に加えられているのだ。
20代のころに経験した尖った走り屋時代を卒業し、成熟した大人らしさを感じるこれらのカスタムは、酸いも甘いも噛み分けるといった表現がぴったりといえよう。
「よく『アガリの1台』という言い方がありますが、自分にとってこのチェイサーがそうなるように、メンテナンスのためのパーツは自分で集めるようにしています」と語るエーピーさん。
このチェイサーからは、そんなオーナーのこだわりと深い愛情がひしひしと感じられる。
取材協力:長谷川屋
(⽂:長谷川実路 / 撮影:岩島浩樹)
[GAZOO編集部]
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