高校1年生の時から、気付けばホンダ・ビートと人生の半分以上を供に過ごしている
「住まいは東京なんですけど、母方の祖母の家が福島県で、昔からよく里帰りしていました。この『四季の里』もよく来ていた思い出の場所なんですよ(笑)。愛車のビート(PP1型)の走行距離がもう少しで20万kmになるので、その記念にと思って、取材に応募させてもらいました」
都内から約3時間半のドライブを、18年来の相棒であるビートで自走し、福島県での取材に来訪してくれた『わたぽん』さん。福島にはバイクでツーリングに訪れることも多く、土地勘もあることから『ちょっとそこまで』という感覚で出かけるのだそうだ。
わたぽんさんがクルマ好きとなり、ビートを初めての愛車として購入するキッカケとなったのがお父さん。クルマもバイクも大好きなお父さんは中古車販売も営んでおり、販売車両や下取りの入庫車など、子供の頃からとにかくクルマに囲まれた環境で暮らしてきたという。
「いろんなクルマの横に乗せてもらいましたから、クルマが好きになるのはごく自然なことでした。父もビートのほかにロードスターとかMR2とか、その手のクルマが特に好きでしたから、受けた影響は大きかったかなと思います」
わたぽんさんが、人生の半分以上を供に過ごすこととなるビートに出会ったのは、高校生の時。お父さんから『青のビートが入庫したからお前乗るか?』と聞かれ「やった、青ってことは500台限定のバージョンCだ、ラッキー!」と喜んだのも束の間、実車を見てみたら「何この色!?」とびっくり。実は『青』と言われたのは実際にはアズテックグリーンパールという色で、800台限定のバージョンFに与えられた純正色だった。
「環境が環境だったので欲しいクルマはたくさんあったんですけど、当時、高校生の小遣いでも買えそうなクルマがビートだったんですよね。まだ免許も取ってなかったんですけど、免許が取れるまでの間、そのバージョンFのシートに座ったり、なんとなく内装を剥がしてみたり、できる範囲で遊んでいましたね(笑)」
高校3年生の時に晴れて免許を取得し、車検もお父さんが前もって通しておいてくれたため、すぐさま公道へと繰り出したわたぽんさん。頬を撫でる風の気持ちよさに、すっかり気分が高揚した。
「でも周りの友人がインテR(インテグラ・タイプR)とかランエボ(ランサーエボリューション)に乗ってる時代でしたから、皆で走りに行くと軽自動車の自分だけそのペースについていけないんですよね(笑)。当時はビートを手放す選択肢も考えましたけど、結局は増車することにしました。まずトルネオ・ユーロRに4〜5カ月乗って、その後それをEK9型のシビック・タイプRに乗り換えました。なので、しばらく2台体制の時期があったんです」
ただ、シビック・タイプRの市場価値が高騰していく中、盗難のリスクを考えると怖くなってしまい、売却する決心をしたわたぽんさん。結局のところ『これだけはやっぱり手放せなかった』というビートを手元に残し、元の1台体制に戻ったのだという。
そこまで惚れ込んだビートというクルマの魅力を、わたぽんさんはどのように感じているのだろうか?
「やっぱり人馬一体というか、クルマとひとつになっていると実感できるところですね。ミッドシップなのでハンドルを切ると自分を中心にクルンと旋回するんですけど、その時は世界の方が回っているような気もして、なんというかビートと自分だけの世界に没入しているような感覚を味わえるんです。しかも、それを法定速度の範囲内で楽しめちゃう」
一時期はサーキットにも足繁く通ったそうだが「タイムばっかり気にしちゃうようになって、いつしか運転するのが楽しくなくなっていることに気がついたんです。自分は競うことに向いてないと思うようになってからは、サーキットへはあまり行かなくなっちゃいました」とのこと。最近は一眼レフカメラを片手に出かけては、気に入ったロケーションで写真を撮る気ままなドライブを楽しんでいるそうだ。
さらに“自分でできることは自分でやる”というメンテナンスや、自分の個性を表現するカスタマイズを継続。「一応まだ新品の部品が出るんですよ」という幌は、これまで2度自分で交換しているという。
ホイールはレイズ製のボルクレーシングCE28、サイドステップとリヤバンパーは無限製、フロントバンパーはRSマッハ製と、好みのアフターパーツも数々導入。ビートガレージ製のECUで、エンジンのトルクフィーリングも激変させた。
そのこだわりはMOMO製のステアリングや、エスケレート製のバケットシート、無限製のペダルなど、インテリアにも及んでいる。
「無限のマフラーはネットオークションで購入したものなんですけど、たまたまロットナンバーが“0001”で、そこがちょっとした自慢です(笑)。それとボディと同色のメータークラスターは友人がオリジナルで作ってくれたものです。フロントバンパーを交換する時についでに塗ってもらって、外装とコーディネートしました」
そして、愛車と同じバージョンFのプラモデルと一緒に見せてくれた思い出の品というのが、ビートオーナーが集まる『MEET THE BEAT!』というミーティングのTシャツと、ビートに付いていたサンバイザー。いずれも『Y. ISHIBASHI』と書かれているサインは、ビートのエクステリア担当PLを務められた石橋 豊さんのもの。さらにサンバイザーの方には『飯塚政雄』とも書いてあるが、そちらはビートの開発責任者であるLPLを務められた飯塚政雄さんのサインだ。
「石橋さんは『ミート・ザ・ビート』というイベントなどでお見かけするんですけど、飯塚さんはイベントに参加されることは稀なんだそうです。震災復興の目的で開催された福島ABCCミーティングという、ビートのほかにAZ-1、カプチーノ、コペンが集まるイベントの会場でお会いすることができました。サインを書いて頂こうと手近なものを探したんですけど何もなくて、慌ててクルマに付いていたサンバイザーを外して書いてもらいました(笑)」
バブル景気の後押しもあって、ホンダが『遊び心のあるクルマを』と、世に送り出したビート。オープン2シーター・ミッドシップの軽自動車という個性の塊のようなクルマを、わたぽんさんは高校生の時から所有して18年、20万kmも目前だが、もはや手放す気はかけらもないと話す。
「お金をかければもう少しキレイにできるとは思うんですけど、自分は傷や汚れもクルマの味だと思って、そのまま愛していきたいと思っています。自分にとっては初めて買ったクルマがこのビートなので、これがすべての基準。他に欲しいと思うクルマもないことはないですけど、じゃあ、それがこのビートを上回るかというと、それはそうじゃないんですよね」
傷もまた勲章、と笑って許せるわたぽんさんとビートとの関係は、見ているだけでも実に羨ましくなる相思相愛ぶりであった。
(文: 小林秀雄 / 撮影: 中村レオ)
許可を得て取材を行っています
取材場所:四季の里(福島市荒井字上鷺西1-1)
[GAZOO編集部]
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