ホンダ・ビートがカーライフだけでなく人生も変えてくれた



今年で55歳になるという今中さんは、今では10台以上の愛車を持つ根っからのクルマ好き。
無論、全てのマイカーに愛着があるが、中でも91年式のホンダビート(PP1)は17年間を共に過ごした、特別な存在だという。

そんなビートをきっかけに、スバル・360 やダイハツ・フェローマックス、BMW・ミニ、ダイハツ・ハイゼットなど、みるみるうちに愛車が増えていったと言うが、一体どんな経緯だったのでしょう。

今回は、今中さん×ビート+10台以上の愛車たちとのお話です。

――ビートに出会ったのは、どのくらい前なんですか?

17年ほど前ですね。
当時、離婚や父の具合が悪くなったりなど、色々と辛いことが重なった時期だったんです。その時、自分にとって楽しいことが無くなってしまっていたんです。
暗闇の中にいた私はふと、子供の頃から大好きだったクルマのことを思い出し、手を伸ばしてみようと思ったんです。

――なぜビートを選んだんでしょうか。

当時、自営業とアルバイトでやりくりしていて、余裕の無い状況だったんですが、たまたま道路を走っていたら、中古車センターにホンダのビートがあるのを見つけたんです。

元々ホンダが好きだったこともあり、軽自動車だったら、当時の経済状況でも維持できるかなと思って、お店に行ってみたんですよ。
その時は商談中だったので買えなかったんですが、お店の人が「キャンセルになった場合はお声がけします」って言ってくださって。その後、連絡をいただけて購入出来たんです。

  • ホンダ・ビート

――ビートを購入して、今中さんの心境に変化はありましたか?

当時はちょっとうつ気味になっていて、人と話すことに恐怖を感じていたのですが、ビートの購入をきっかけに、どんどん薄皮を剥ぐように変わっていくのが自分でも分かるくらい、快方に向かっていきました。

ビートをきっかけに気心知れる人たちと出会えて、自分を取り戻していったんです。
仕事も安定していって、あの時ビートに出会えていなかったら、今頃どうなっていたのかな?って、たまに思います。
本当にビートに出会えてよかったと、感謝しています。

――ビートをきっかけに、良い出会いがたくさんあったんですね。

精神的に参っていた部分も徐々に吹っ切れてきた頃、ビートを通じて、人と交流できないかなって思い始めていたんです。
それで色々と調べていたら、たまたま近くにビートの専門店があって、そこでビートのことを相談したり、遊びに行くようになったんですよね。
お店の人に、ビートの走行会やツーリングに誘っていただけたりして、とにかくすごく楽しかったのを覚えています。

――素敵なお店に出会えたんですね!10台以上の愛車というのも、ビートが関係しているんでしょうか。

今もその専門店とはお付き合いがあるんですけど、そこに360cc乗りの人たちもいたんですよ。
ホンダのZやライフをはじめとするオーナーさんたちと出会ったんですけど、自分にはまだ敷居が高いなと思って、最初は全然興味が無かったんですよね。

その頃は、精神的にも安定してきていたので、ホンダ・インテグラのタイプRに乗ったり、ホンダ・NSXを友達から買ったりしていたんですけど、歳のせいか、だんだんと速いクルマ自体に興味が湧かなくなってきていたんです。

――クルマの好みが変化し始めていたんですか?

当時、すでに旧車が注目されている風潮があって、車両価格の高騰は進んでいたんですけど、360ccのクルマって安い値段で買えたんですよね。

ある時、スバル360を手放したいという人がいらっしゃって、持ってきていただいたことがあったんです。
見ると状態がめちゃくちゃ綺麗で、金額的にも問題がなかったので、購入を決めて、スバル360にも乗り始めることになったんです。
今思えばそれが、増車のきっかけでしたね笑。

  • スバル360

――じゃあ今の愛車たちは、全て今中さんが欲しいと思って購入したクルマなんですね。

実は、年配の人が断捨離で360を手放したいと、お声がかかる機会が増えていったというのもあるんですよ。そのお声に応えていたら、こんな数になっちゃったんです笑。

あと、360ccのイベントに行くようになったりして、また新たなクルマに出会ってしまうんですよ。

  • ダイハツ・フェローマックス

――次はどんなクルマに出会ったんですか?

360ccのクルマが集まるイベントがあった時、ダイハツのフェローマックスっていうクルマが売られていたんです。
当時360ccの中で1番馬力があると言われていたクルマなんですけど、その時はごく普通のグレードのセダンが売られていて、それも気に入って購入したんです。

このクルマが思いの外また面白くて、めちゃくちゃ音も良いし、乗っていて楽しいクルマだったので、ダイハツの360ccって面白いなって思うようになったんです。
それでその後もハイゼットを買ったりして、そういう感じでどんどん、愛車が増えていったという感じですね。

――360ccのクルマは、どういうところに魅力を感じたんですか?

シンプルな構造で、ビートよりもパワーは無く、決して速くはないんだけど、目一杯アクセルを踏んだとしても、スピードが出過ぎないで走れるし、そもそも2ストロークのクルマに乗ったことがなかったんですよね。
それで乗ってみると、その特性がまた面白くてね。

あと、私がまだ小さい時、街中で普通に走っていたんですよ。
亡くなった親父が360ccに乗っていたのもあって、どこか懐かしくて、惹かれていったという感じですね。

――ビートは360ccにハマるきっかけにもなったんですね…。今中さんが感じるビートの楽しさとってどういうところなんですか?

まず、街中で本当に気持ちよく走れるというのと、一般道のカーブをクイックに曲がれる感覚。これが新鮮ですごく楽しくかったんです。

あとは、乗っていてワクワクする感覚とか、オープンにした時の気持ち良さも最高ですね。
スズキのカプチーノもオープンになるんですけど、カプチーノは乗っているとタイトな感じがするんですよね。
ビートだと、運転席が助手席よりも大きいので、運転していても狭さを感じないんです。
視界もすごく良いし、バイクみたいなメーターとか、そういうのもビートならではで面白いですよね。

――黄色いボディの色は、どういう印象でしたか?

発売された当時も思っていたんですけど、ビートって黄色が1番似合うと思っていて、乗るなら絶対黄色しかないって思っていたんですよ。
他にも色はありますけど、自分の中では黄色が1番似合うなって思っています。

――今までで1番印象的なビートとの思い出は何ですか?

やっぱりビートで行ったツーリングですかね。
1番最初に誘ってくれたツーリングが1番の思い出になっています。
房総半島を1周するようなツーリングだったんですけど、あの時は20台以上のビートが集まっていろんなところに行って、食事をしたり写真を撮ったりしたのが1番の思い出です。

はたから見たら他愛のないことかもしれないけれど、同じクルマで一緒に走るというのが、とにかく楽しかったんですよね。
本当にそのひと言に尽きます。

――今後はどのようなカーライフを送りたいですか?

ビートだけの集まりとかそういうのを近場でやりたいなって思ってます。
ミニラリーみたいな感じで決められたポイントを通過して、最終的にはみんなでご飯を食べて帰るみたいな。
そういうミーティングが出来たら良いなってよく話をしています。

――17年間ビートに乗られてきた今、振り返ってみてどうですか?

自分を取り戻したい思いでビートを選んだのは大正解だったというのと、今繋がっている人たちって、ビートに出会ってなかったら、一生縁が無かったかもしれないって思うことがあるんですよ。
ビートが架け橋になってくれたおかげで、自分の中の引き出しも友達も増やすことが出来たんだなって実感します。

私がクルマをいっぱい持っているせいか「今持っているクルマの中で、1台残すならどれ?」っていう質問をよくされるんですけど、私は必ずビートって答えるんですよ。

何でかっていうと、ビートは今の自分の原点だからです。

「ビートに乗るならこの色しかない」と断言した黄色。
その色には、明るさや元気、幸せや輝きといった意味が込められているが、正に、太陽のように、明るくて温かい光で今中さんを照らしたのではないだろうか。

そして、暗闇の中でも諦めなかった今中さんの“強さ”と相まったことにより、素敵な未来に出会えたのだなと、筆者は確信したのであった。

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今中さん

(文:秦 悠陽)