子供の頃から4ドアのR31スカイラインに憧れていた理由
子供の頃に見た映画やドラマ、最近ではアニメの影響でクルマに興味を持ちはじめたという話は、もはやクルマ好きにとっては通過儀礼とも言えるほど。幼少の頃に目にしたクルマのカッコよさや刺激的なアクションは、大人になっても脳裏に色濃く焼き付き、自然と趣向にも影響を与えているケースは多い。そのため、免許を取得したら、子供の頃に目にしたモデルを手に入れたいと考える人も少なくない。
そんな、自分にとって『クルマ好きになったルーツ』とも言えるモデルを探し求め、念願のオーナーになり、さらには影響を受けた劇中車ソックリにカスタマイズしたのが日産・スカイライン (HR31)のオーナー『tatsu@港305』さんだ。
R31型スカイラインは1985年に誕生した7代目モデルで、現在では2ドアクーペのGTSを中心としたモデルが“ネオクラシックカー”として注目を集めている。
tatsu@港305さんの愛車は1988年式で、4ドアハードトップの上級グレードとしてラインアップされたGTパサージュツインカム24Vターボ。豪華装備に加えてRB20DETを搭載するパフォーマンスは、古くからのスカイラインファンも納得のグレードである。
tatsu@港305さんがこのR31を手に入れたのは今から7年ほど前。その時はセフィーロ(A31)に乗っていたものの、やはり子供の頃にTVドラマで目にした4ドアのR31が忘れられずに探し出したのだとか。
「実はセフィーロと同時にR31の2ドアハードトップも所有していたんですが、やっぱり4ドアハードトップのダークグレーメタリック(カラーコードは#463)ボディ、グレー内装のAT車はずっと憧れていたクルマだったので、どうしても欲しくて…。と言うのも、小学校3〜4年生の頃にTVで『もっともあぶない刑事』の再放送を見ていたら、当時、親戚の叔父さんが乗っていたのとまったくおなじR31がTVで活躍していて、それがすごく新鮮だったんです。それからクルマ好き、特にR31好きがはじまっちゃった感じですネ」
ちなみに『あぶない刑事シリーズ』と言えば、主人公が乗るF31型レパードが定番の人気車種である。しかしtatsu@港305さんの心を掴んだのは、仲村トオル演じる町田透刑事ほか、レギュラーメンバーが入れ替わりに乗る覆面パトカー『港305』として登場するR31だった。
比較的脇役的なキャラクターながらも、登場時には極端な尻下がりによる急発進や、盛大なロールを伴うスピンターンなど、激しいカーアクションも担当していた。そんなド派手なシーンと“叔父さんのクルマ”というギャップが、幼心に衝撃を与えたというわけだ。
クルマを探し始めたタイミングで、すでに車齢30年を優に超えていたR31。そのため、ボディや内装のカラーにこだわりながら、さらにコンディションの良い車体に限定すると中古車市場ではなかなか見つからない。
そんな時にインターネットオークションで見つけたのがこのR31だったという。希望通りのボディカラーと内装色なのだが、唯一の相違点はターボエンジンが搭載されているところだった。贅沢を言えば劇中車と同様のNAエンジンが理想だったのだが、これ以上時間が経過すると見つけられる可能性はさらに下がっていく。しかも8万kmという走行距離は魅力的で、これならば今後も長く楽しめると判断して購入を決断したそうだ。
こうしてようやく狙い通りのR31を手に入れたが、気になってしまうのが搭載エンジンやグレードの違いから起こる細かい部分の差異。劇中車と同様のクルマを手に入れたいと考えていただけに、可能な限り精密に再現していくことを決意したという。
足元には純正のスチールホイールにホイールキャップを装着。さらにメーターはNA用に設定されていたブースト計がないタイプを流用。またボンネットは雨滴センサーが備わるターボ仕様からNA用へとグレードダウン。そして、バンパーもインタークーラーダクトのないNA用に交換するなど、スタイリングはまるまるNA仕様へと変更している。
さらにドアミラーやドアハンドルは、オプションであった“カードエントリー装備”モデル用に交換するなど、細部まで劇中車に合わせるというこだわりっぷりだ。
「細かい部分などは映像をコマ送りや一時停止させて確認し、どんな仕様のパーツが付いているか研究しましたよ。その中でも意外だったのはドアモールについているツインカム24バルブ&ハイキャスのデカールなんですが、劇中車では運転席側しか付いていないんですよ。詳細はわからないんですが、助手席側は何も貼られていないので、自分のR31も同じように運転席側だけに貼っています」
劇中車に合わせたコーディネートはもちろん、見た目だけではなくそれぞれのパーツがしっかり機能することも重視。純正オプションとして用意されていたJBLオーディオのリヤスピーカーは、レストアによってしっかりと鳴るように修復。コストを考えれば社外品へ組み替えた方がリーズナブルだったとはいうものの、やはり『港305』を目指すとなれば、手を抜けない部分でもあるからだ。
時速80km/hで出現するGTオートスポイラーもしっかりと稼働。現存するR31では壊れてしまっているクルマも多く、さらに出しっぱなしにして傷だらけになっているものも少なくない。装備も不具合なく機能するのは、機関系だけでなく細かい部分までメンテナンスが行き届いている証拠だ。
とは言っても、劇中ではスポイラーが出ているシーンがないため、実はスポイラー出ていない状態がtatsu@港305さんの考える完成形なのだ。
というわけで、できる限りホンモノへと近づけてきたが、劇中車と唯一異なるのはターボを装着する『RB20DET』が搭載されていること。
ターボのエンブレムをはじめ、外装はNAのハードトップ仕様に変更しているが、ボンネットを開けるとインテークマニホールドにターボの文字書が刻まれている。tatsu@港305さんが考える理想からは唯一外れてしまう部分ではあるが、ターボの走りは爽快なため、NAエンジンの走りでは物足りなかったかも…と今ではお気に入りのポイントとなっている。
「やっぱり主役と言えるレパードは知り合いにも乗っている人がいるんですが、港305はあまりいないんですよ。だからタカラトミーさんがトミカリミテッド(ミニカー)を作る際に、このクルマをサンプルにしてくれたのは自慢ですね。タカラトミーさん的には公式レプリカ(笑)! って言ってもらえたのは本当に嬉しかったですね。もちろん自分のクルマがミニカーになったとも言えるので購入しちゃいました。あと、あぶない刑事のイベントで脚本家の方にサインを入れてもらったので、コレは本当に家宝って感じですよ」
スタイリングの作り込みに加え助手席部分には警察無線風のユニットも搭載。このユニットはMP3が再生できるように改造され、劇中の無線連絡の音声が流れるギミックも搭載。劇中の世界観を楽しませてくれるというわけだ。
また、後部座席には懐かしのカセットケースに加え、色違いではあるが仲村トオルさんが着用していたものと同じスタジャンも載せている。このスタジャンも映像をコマ送りにしてロゴの文字などをヒントに古着で探し出したという。ちなみに撮影当日に着ていた赤いスイングトップとジーンズのコーデも、町田刑事の衣装を完コピしている。
トランクにもあぶない刑事御用達グッズが満載。劇中では爆弾として改造されたレトロなうさぎのぬいぐるみやバズーカ、さらにパトランプや無線アンテナなど、定番の覆面パトカーアイテムも用意される。ミーティングやイベントで使用するナンバー隠しは、港305のナンバーを模したものだ。
「ちょっと偏ってしまっているかもしれませんが、あぶない刑事シリーズによってクルマの楽しさを教えてもらった気がします。だからこのR31で横浜まで聖地巡礼ドライブすることもありますし、今年もゴールデンウィークに新作公開を記念して横浜で行なわれたパレードにも行きましたよ。やっぱり主役の2人ともカッコよくて、R31が出ていた昔のシリーズも良いのですが、新作も期待しちゃいますね」
子供の頃にドラマで受けた衝撃から、完全レプリカを目指してコツコツ愛車をカスタマイズしたtatsu@港305さん。劇中の急発進による尻下がりの挙動はやはりインパクトがあったようで、そのイメージを作るためにリヤのみローダウンサスを組み合わせるアレンジも加えている。やはり今の時代では考えられないような派手なアクションは、あぶない刑事最大の魅力というだけあって、締めのスタイリング作りにも余念がないというわけだ。
現在30代前半のtatsu@港305さんにとって、あぶない刑事放映当時というのはまだ産まれてもいない頃のお話。そんな未知の時代の空気を伝えてくれるR31は、かけがえのない存在である。
38年もの長い間、多くのファンに愛され続けるあぶない刑事同様に、tatsu@港305さんとR31の物語もまだまだ続いていくのである。
(文: 渡辺大輔 / 撮影: 平野 陽)
許可を得て取材を行っています
取材場所:つつじが岡公園(群馬県館林市花山町3278)
[GAZOO編集部]
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