憧れていたコルベットC3を手に入れて広がったクルマ趣味ワールド
フォード・モデルTが誕生した1908年を境に、移送手段のメインが馬車から自動車へとシフトしていったアメリカ。その後も世界に先駆けてモータリゼーションを進展させ、時代ごとにデザインや機能など様々なチャレンジを加えながら、良くも悪くも他に類を見ないほど多種多様で個性的なモデルを送り出してきた。
そんなアメリカ車の代表格として高い知名度を誇る『コルベット』は、常に新しいコンセプトを掲げパフォーマンスに磨き続けたフラッグシップであり、今も世代ごとにコアなファンが存在するモデルだ。中でもアメリカンマッスルのキャラクター付けともなる“コークボトルシェイプ”を生み出したC3は、今見ても独特な魅力を携えている。
そんなシボレー・コルベット(C3)を、子供の頃から乗るべきクルマと心に決め、24年前にオーナーになったのが『コルビー君』だ。
コルベットの誕生は、まだマッスルカーという言葉が生まれるより前の1954年のこと。2シーターオープンのプレミアムスポーツというキャラクターを押し出し、欧州のライトウエイトスポーツにも対抗できるモデルを目指して開発されたC1が起源となる。
スチールフレームにFRPボディを組み合わせ、車両重量を抑える工夫を施したのは大きなトピックであり、その後もよりハイパワーを欲したユーザーニーズに従ってスモールブロックV8エンジンを組み合わせ、さらにレースにも積極的に参戦するようになっていった。
そんなコルベットの進化は多くのファンを取り込むことに成功し、現代まで続く人気モデルとして、その名が受け継がれているのである。
そんな歴代コルベットの中でもC3は1968年に誕生した3代目に数えられ、より大胆なフォルムによって日本でも人気を集めたモデル。すでにマッスルカーという言葉が生まれた後に登場したため、一般的にはコルベット=マッスルカーというのが共通認識と言えるだろう。
「子供の頃から父親がマスタングとかマッハ1とかに乗っていたので、アメリカ車は身近な存在でしたね。それに雑誌などもよく見ていたので、C3は自分が乗るべきクルマだって感覚は昔からあったんです。もちろん免許を取ってすぐに手に入れたのではなく、国産スポーツやクロカン四駆、ワンボックスなどいろんなジャンルを経験してはいます。それらも経験したうえで『やっぱりC3でなければ!』と、横浜にある専門店で見つけたこのクルマを購入したんです」
ちなみに彼がこのC3を購入した2000年には、コルベットはすでに5世代目となるC5が販売を開始していたため、C3を買おうと考えながらも、最新のC5も気になっていたのは正直な話。しかし、そんな揺らいでいた気持ちもC3の実車を目にした途端に吹き飛び、即購入となったという。
特徴的なリトラクタブルライトは、C2から受け継ぎ、その後C5まで続いたコルベットのアイデンティティとも言えるポイント。
また14年続いたC3世代では、登場した1968年から1973年までの『アイアンバンパー』と以降の『ウレタンバンパー』モデルに分かれていて、さらにウレタンバンパーでも1978年を境に大型の5マイルバンパーへとシフトしたことで、同じC3ながらもスタイリングの印象は異なっている。
一時期はアイアンバンパーの人気が高く、ウレタンバンパーの人気は低下していたが、並ぶもののない現在ではどちらも人気は上昇していて、そもそもC3自体を手に入れること自体が難しくなってきているのが現状だ。
エンジンはスタンダードな5.7LのV8スモールブロックを搭載した個体だが、キャブレターはホーリーのダブルポンパーへ、ディストリビューターも旧来のポイント式からHEIに変更することで、不安材料を払拭するアップデートが行なわれている。
特に古いアメリカ車の場合、気温や湿度などで調子を崩したり、配線の劣化によって不調を訴えるユーザーが多く、アメリカ車=壊れるというイメージも根付いてしまっているが、しっかりと不調原因を見分けて整備すれば、大きなトラブルもなく安心して乗ることができるのである。
「毎月、どこかしらに出かけてはいますので、コンディション的にも良好な状態を維持できているのかな。もちろん距離を走りますので2〜3回乗ったらオイル交換や目視での点検は欠かさないようにしています」
ヴィンテージモデルを所有するオーナーのなかには、コンディション維持のために最低限しか動かさず大切に保管しているという人も少なくないが、彼の場合は、走らせることも楽しみのひとつ。
大排気量エンジンを搭載しているため、今のクルマと比べると燃費は良くないと言うが、高速道路では8〜10km/ℓ程度走るという。
エンジンなど機関系は絶好調だったものの、ボディに関しては“それなり”のコンディションだったという。ファイバーボディなのでサビなどの心配こそなかったものの、塗装のツヤが引けてしまっていたため、購入後にペイントをリフレッシュ。さらに購入時についていたタイヤはボディからハミ出していたため、ペイントと同時にフェンダーを広げてタイヤを収めたそうだ。
フェンダーラインはノーマルっぽさを残した自然な形状に仕上げ、特徴的なコークボトルシェイプを崩さないようにしたのは、C3を愛するオーナーのこだわりポイントでもある。
ホイールはエンケイがラインアップしていた『ハリケーンレーシング・HR385』。1980年代から1990年代にかけて、マッスルカーオーナーに人気を博したアイテムは、購入時から装着されていたもので、C3定番のホイールでもあるだけに新たに交換する必要は感じられなかったという。
タイヤもド定番のBFグッドリッチ・ラジアルT/Aのホワイトレターをチョイスすることで、C3らしい普遍的なスタイリングをキープし続けているのだ。
いっぽうで、ボディサイドに描かれたフレイムスは、オーナー歴20周年を記念したイメチェンで施したもの。炎の形状から、赤からオレンジ、そして黄色、水色へのグラデーションまで自分で考え、コルベット仲間の看板屋さんに施工してもらったという力作だ。
もともとロングノーズ/ショートデッキのスタイリングで、さらにフロントフードも社外品が装着されていたため、さらに派手なアクセントを加えることで自分だけの1台というキャラクターを際立たせている。
2シーターというタイトな車内は第一世代のC1から受け継がれたパッケージ。C3世代では量産車初の試みとしてTバールーフが設定され、コルビー君が所有するC3もTバーが組み合わせられた個体で、普段はクローズドボディながら気分によってはオープンエアを楽しめる1台で2度オイシイ仕様だ。
ロングノーズ/ショートデッキのスタイリングは、デザイン的には魅力的ではあるものの、運転するとなるとデメリットも大きい。特にフロントの見切りが悪く、見通しの悪い路地などから合流する場合は左右の状況が判断できないこともある。そのためフロントは左右方向に向けてカメラをセット。コンソールに取り付けたモニターに映し出すことで、安全にドライブできるよう工夫が施されているのだ。もちろんバックカメラも搭載しているため、全方向フルカバーの安心感が得られるのは現代的なアップデート術と言えるだろう。
「今では週末のツーリングや、イベントへの出展などがメインになっていますね。そこで使うディスプレイ用のバナーやナンバー隠しなども、フレイムスを作ってもらった友人に製作してもらっています。走らせるのも楽しいんですが、やっぱりいろんな人とコミュニケーションが取れるイベントは楽しみのひとつです。そこでできたネットワークで仲間が広がって、メンテナンス情報なども収集できますしネ。だから長距離でも、興味のあるイベントならどこでも行っちゃいますよ」
リペイントされたボディなど、極上コンディションをキープしているものの、実は数年前にあった雹害によるダメージも少々残ってしまっている。ボディ自体はファイバー製のため凹みなどのダメージは皆無なのだが、ステンレス製のウインドウモールなどは多少凹んでしまっているのだとか。
「これまでカーポートとカバーが保管場所だったのですが、それだけでは雹害なども防げないんですよね。その対策としてというだけではないですが、コルベットを収めるためのガレージを建てちゃいました。ガレージライフっていうのも憧れはあるので、これからもコルベットを中心にいろんな楽しみが広がっていきますね」
これまで大きなトラブルに見舞われたことがなく、強いて言えばバッテリーあがりやGM車特有のパワステポンプ不良程度というから、大げさな整備環境は必要としていないのかもしれないが、新たにガレージを手にしたことでメンテナンス環境はさらに充実した。
「特に古いアメリカ車と言うと、すぐに壊れてしまうといった印象を持つ人が多いじゃないですか。その点でもしっかりと整備されていれば壊れることもないですし、ロングドライブだって不安なく楽しめちゃいます。実際にイベントなどでは1日に1000キロを走行することがありますが、クルマよりも先に自分の方が音をあげてしまうくらいです。一応は出先で何かトラブルがあるかもしれないと、2リットルの水とオイル缶は積んでいますが、これまで出番は1度もありませんよ」
ちなみに現在はこのC3以外にも、お父様が所有していた1971年式フォード・マスタングマッハ1も手元に残っているが、オーバーホール中だったエンジンなどは錆が回ってしまい、ボロボロの状態で保管されているため、こちらもなんとかしたいと考えているとのこと。
「マッハ1は429コブラジェットエンジンを搭載しているモデルなので、直す価値はあるんですよ。でもさすがにボロボロすぎて…。C3はずっと維持していきたいと思っているので、マッハ1はどうするかまだまだ悩んでおきます」
子供の頃から憧れの1台としてオーナーを楽しませてくれたC3は、同じ趣味を持つ仲間を増やす仲介役となり、自分好みのスタイリングへとカスタムする楽しさや、ガレージライフといった新たな趣味にも目覚めさせてくれたかけがえのない存在。これから先も豊かな人生を楽しむスパイスとして、多くの楽しみを運んで来てくれるに違いない。
(文: 渡辺大輔 / 撮影: 中村レオ)
許可を得て取材を行っています
取材場所:群馬大学 桐生キャンパス(群馬県桐生市天神町1-5-1)
[GAZOO編集部]
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