娘さんの笑顔を乗せて走る、お父さんの“カッコええ”インプレッサ

  • GAZOO愛車取材会の会場である呉ポートピアパークで取材したスバル・インプレッサWRX STi(GDB)

    スバル・インプレッサWRX STi(GDB)

「お父さんが小学校の参観日に来たら、すぐに分かるんよ。だって、スポーツカーがおる! って誰かが絶対に言うし。そしたら私は、『あれ、私のお父さんのクルマなんよ』って教えてあげるんよ♪」
服の袖をギュッと掴み、誰かに話したいのを隠してウズウズしていたといった顔で筆者に教えてくれた。その少女はというと、今回の取材対象者であるオーナーの娘さんだ。

「それと、保育園の時のお迎えもそうだったんよ。あれ誰のクルマなん? カッコええクルマが来とるよ! ってなるんよ」

彼女は父親の乗るインプレッサWRX STi(GDB)が大好きなのだ。『カッコいいもんね』と相槌すると、自分が褒められたかの様にくすぐったそうに笑う。その表情の愛らしさと、このクルマに対する純粋な“好き”が伝わってきて、こっちまで気持ちが連鎖する。

そんなインプレッサを愛車として迎え入れたのは14年前で、弟さんが譲ってくれたのが始まりだという。実のところ、最初は派手すぎるのでは? と懸念していたのだそうだ。しかし、最愛の娘さんがこう言ってくれるなら、今となっては感無量といった所か。

2代目インプレッサの特徴としてあげられるのが、マイナーチェンジされる毎に変わっていったフロントフェイスだ。その特徴ともなるヘッドライトの愛称から“丸目”、“涙目”、“鷹目”といったスタイルに変貌していった。
このインプレッサは2002年11月以降に発売された中期型にあたる“涙目”となる。そんな、凛々しいながらも優しい顔つきは今でも人気のモデルで、娘さんのお気に入りポイントでもある。

「目は可愛いんじゃけど、よお見ると戦闘機みたいにゴツゴツしとって、空を飛ぶんじゃないかってくらい強そうなんよねぇ〜」
なるほど…。ギャップ萌えというやつは、どうやら小学生にも有効らしい。

テインのサスペンション、FLEX Zで車高を落とし、機能美溢れる純正エアロパーツで固められたクールな仕様となっている。
WRブルーにゴールドのホイールというのが、またスバル車らしい組み合わせだ。オーナー曰く、『いかにも速く走りそうな雰囲気のリヤウイングの存在感、筋肉隆々の程よく引き締まったボディは、まさにWRC参戦マシンのベース車両ならでは』と、感じているそうだ。

「僕が14年間インプレッサに乗り続けとるのは、こんなにも走りとデザインがリンクしとるクルマが、ほかに見つからんからなんですよ」

シートに体がギュッとめり込む、ハイパワーターボの加速力も魅力だという。雨の日はラリードライバーのように横滑りしながらの加速を味わうために、フラッと日本海側へと走らせに行ってしまうらしい。
「いや、横滑りって言うたんじゃけど…スバルの4WDは流石で、タイヤが地面をがっちり掴んで進んでくれるけぇ、横滑りどころか、かなり安定して走ってくれとるので『横滑りしとるような気持ちで』というのが本当のところじゃね(笑)」

家族のクルマとして使っているので、そういった頼り甲斐のある走りをしてくれるところも、手放せない理由のひとつだろう。特に、雪の降るシーズンは大活躍で、友人とスキーに行くこともしばしばあるという。そんなオーナーさんだが、インプレッサに乗るまでは、ターボに対してあまり良いイメージがなかったのだとか。
実際、それまで乗ってきたCR-X SiR(EF8)やシビックTypeR(EK9)などでエンジンを目一杯使い切って走るという方が、自分の性に合っていると感じていたそうだ。

「当時“モンテカルロ”というカー用品店があって、そのお店の人に誘われてサーキットを走るようになったんです。タカタサーキットはコンパクトでコーナーが多いコースじゃけん、3000ccのスープラに直線では抜かれるんじゃけど、コーナーでは追いついていくんですよ。それが面白しろうてねぇ。自分の手の内でコントロールできるNAの方がええわって思っとったんです」

ちなみに、今でもセカンドカーとしてホンダ・ビートを所有するほどのNAエンジン好きだそうだが、圧倒的な加速力と中速域から高速域までスムーズに吹け上がる、この水平対向エンジンを体感してしまうと、このインプサッサからは一生離れられないと感じてしまうらしい。
娘さんが産まれ、サーキットを走る機会こそ減ってしまったもののパワーアップや補強パーツ装着など走行面を重視したカスタムマイズを行なっているのは“走りを楽しむ”というカーライフに重きを置いているから。毎日ハンドルを握っても飽きないとのことで、距離を気にせずにあちこち移動していたら、走行距離は22万kmをオーバーしてしまったそうだ。

「そうなってくると出てくるんが、いろんな故障や不具合です…。修理代が嵩んで苦難の連続ですが、不思議なことにそれはそれでまた愛おしいんですよ」

約8年間製造され続け2019年に販売終了となったため、エンジン周りの部品の入手にはそこまで困らないそうだが、ドアの防水用シール類などは徐々に欠品が出始めてきたという。長年お世話になっているディーラーから情報を聞き、手に入りにくくなりそうなパーツは、欲張らずに、とりあえずの目標の30万kmに必要な分だけストックしているそう。

「もちろん、好きなクルマに長く乗りたいというのもあるんじゃけど、修理する度に調子が良くなるんが楽しいというのもあるんですよ。この感じ…多分ここが悪いんじゃろうか? って触ってみて、それが当たっとったら、やっぱりのぉって満足できるというか(笑)」

ついこの間、突如として鳴りはじめたガラガラ音は『リヤハブベアリングの劣化が原因だった』と、刑事や探偵が使うような目をしながら話した。
ちなみに、修理箇所探しで当たって中で1番嬉しかったのは、ターボの効きが弱くなって疑った“デューティーソレノイドバルブ”だったという。
「エンジンの回転が途端に変わったんですよ。タービンが回る音を聞いて、あぁ! これじゃこれじゃって。特別な知識があるわけではないんじゃけど、ディーラーの方よりも勘が当たることがあるんです」

毎日通勤で乗っているため状態が手に取るように分かるようになり、また、知識が蓄積されていくため、このクルマに関しては愛車歴に比例して答えられることが増えているとのこと。同じインプレッサ乗りの仲間もそうで、何が原因なのかを当てるのが面白いという人が多いそうだ。色々なところが故障していくのが、ある意味イベント(!?)になりつつあるという。

そんな話をしていると、オーナーがカメラマンに呼ばれた。どうやら、フロントとリヤの向きを変えてほしいようだ。それを見計らったように、娘さんが筆者の元にきてくれた。

「福岡県にある、マリンワールドとアンパンマンミュージアムに行ったんが一番の想い出じゃね。高速道路の真っすぐの道を走ると、ギューンって加速するのが楽しかったし、そういう道を走っとるお父さんはカッコええね」

おそらく、照れ臭くてあまり父親には聞かれたくないのだろう。他にも、家族でスキーに行ったことなど、いろいろな想い出を話してくれるのだが、お父さんが筆者の元に戻ってくるたびに、都度、娘さんとの話は中断してしまう(笑)。

「お父さんはね、これで大きい公園やらいろんな所に連れて行ってくれるけん、私はこのクルマが大好きなんよ」

それを聞いていると思うのだ。速いこと、快適に移動できること、希少価値が高いこと…etc。クルマにはいろいろな良さがあるが、一番重要なのは『どんなカーライフが送れているか』なのだろうと。

「娘はインプレッサが大好きじゃから、乗りたいと言うんじゃないかなと思うとるんですよ。じゃから、その時まで大切に乗りたいと思います」

実際、娘さんは筆者にもこのクルマに乗りたいと言っていた。マフラーの音、加速感、見た目が好きなのだと。
けれど、お父さんは気付いているだろうか? 乗りたいのは、このインプレッサが“お父さんのクルマ”だからだ。忙しい仕事の合間を縫って遊んでくれる、そんなお父さんのクルマだから好きなのだということを。

十数年後、インプレッサはきっと娘さんが運転席に乗って街を走っている。そう思うと、自然と笑顔が込み上げてきた。

(文: 矢田部明子 / 撮影: 平野 陽)

許可を得て取材を行っています
取材場所:呉ポートピアパーク(広島県呉市天応大浜3丁目2-3)

[GAZOO編集部]

MORIZO on the Road