巡り巡ってついに手に入れた憧れの『キングオブ四駆』ランドクルーザーを楽しみ尽くす
『好きなクルマに乗ること』。これこそが、今回の取材対象者である佐藤さんの夢だったという。だからこそトヨタ・ランドクルーザーVX(VJA300W)に乗ることを決意し「日本ではオーバースペックだと思われるこのクルマを選んだ」と、一切迷いのない顔で答えてくれた。
「納車まで、2年3ヵ月も待ちました。待っている途中、それまで乗っていたプラドは売ってしまい、雨の日も風の日も単車で通勤すること6ヵ月…。注文したことを忘れた頃に、やっと納車されたんです(笑)」
こうして佐藤さんは、晴れてランドクルーザー300のオーナーとなった。
このクルマが発表された2021年8月2日、世界ではゼロエミッション化が大きく打ち出されており、特に熱心だったEUは、温室効果ガス大幅削減に向けた包括案の中で、ハイブリッド車を含むガソリン車などの内燃機関車の新車販売を2035年に終了すると掲げていた。
この世界的な取り組みを見て、ランドクルーザー乗りの間では『次のモデルチェンジでEVもラインアップされるのでは?』と、まことしやかに囁かれていたのだが、実際に蓋を開けてみるとEVはおろか、ハイブリッドの設定すらなかったのである。用意されていたのは、従来のガソリンとディーゼルエンジンのみ。実にシンプルで、ランクルらしいラインアップに、思わずニヤッとしたランクル乗りは多かったはずだ。
「燃費が良いわけでもないし、駐車場に停めるとハミ出てしまうくらい日本には合っていない車格。そんな、今の時代に逆行しているとも言えるクルマなのに、欲しいと思う人は僕を含めて沢山いるんです。そのくらい、このクルマには魅力があるということなんですよ」
そう話す佐藤さんがランクルに憧れを持つようになったのは、高校生の頃だった。世は空前の四駆ブームで、街中ではハイラックスサーフやジムニーなどをよく見かけたという。お父様の乗っていたパジェロに至っては、当時のテレビ番組『東京フレンドパーク』で景品にもなっていたくらい人気のクルマで、ショート、ロング、ナロー等と、オーナーの好みによってボディ形状も選ぶことができた。
また、5ナンバーや4ナンバーサイズのクルマにオーバーフェンダーを装着して、各3ナンバー、1ナンバーへと記載変更して登録するなど、オーナーが個性豊かな楽しみ方ができることも魅力的に映ったそうだ。大きなタイヤや角ばった四隅など、その男らしさが胸に響き「免許を取ったら自分も四駆に乗ってみたい」と、この頃から考えるようになっていたらしい。
四駆の中でもランクルが良いと思うようになったのは、ディーラーに並んでいた“ランクル80”を見てからだ。それまでのスクエアだったボディから、角を落として丸みをおびたソフトな印象へと変更されたボディラインに、乗り心地を向上させるために60系では見送られてきたコイルスプリング式の足まわを採用。エンジンはワゴンタイプにはガソリンの3F-E型、バンタイプには新開発されたターボディーゼルの1HD-T型、ディーゼルの1HZが用意された。また、4WDシステムは60系のセレクティブ方式から、センターデフを持つフルタイム4WD(ベースモデルを除く)へと進化したモデルというのもビビッときたポイントだった、と流暢に説明してくれた。
「とりあえず、タミヤのプラモデルを購入しました。もちろん、プラモデルで走りは体感できなかったけど、それでもガソリンエンジンは7人乗りで、ディーゼルエンジンは5人乗りなのか、ほほう…と。高校生なりに学べたことはあったんですよ(笑)」
そんな佐藤さんは、運転免許を取るとすぐにお父様のパジェロを運転させてもらったのだとか。初めて運転する憧れの四駆は、アイポイントが高くて遠くまで見渡せるため、見慣れた道を走っているはずなのに、冒険に行くかのようにワクワクさせてくれたと嬉しそうに教えてくれた。
「ハンドルを握って、こういう気持ちになれるということを今でもずっと大事にしているんです。RX-7、シルビア、RX-8、ムラーノと、いろいろなタイプのクルマに乗ってきたのは、単なる移動のためではなく、できる範囲で自分が楽しいと思えるクルマに乗りたいと思った結果なんです。プラドから300系のランドクルーザーに乗り換えたのもこれが理由で、子供の頃から憧れた、僕が思うトヨタ最強の四駆に乗るという夢が諦められなかったんですよ」
当時、プラドに乗っていた佐藤さんは、その走りに満足しつつもランドクルーザーに乗りたいという気持ちを捨て切れずにいたそうだ。そんな時、試乗車がカローラ宮城本社に1台だけ用意されていることを知り、居ても立っても居られずに予約を申し込んだという。
順番がくるまでカタログに載っているスペックを眺め、果たしてこのクルマの実力がどんなものかとアクセルを踏むと、思わず「すげー、何だこれ!!」と、年甲斐もなくはしゃいでしまったと照れくさそうに笑った。
「静かで滑らかな高級車のような乗り心地や、高速道路での車重を感じさせない加速、これで悪路走行も可能なわけだから、やっぱり最強だと感じてしまってつい声に出ちゃったんです(笑)。加えて7人乗れるときたもんだから、まさに僕が今まで乗ってきたクルマの集大成なわけですよ。ミニバンのように大人数乗れて、スポーツカーのように体がシートにギュッと押しつけられるような加速もして、四駆ならではのアイポイントの高さも兼ね備えている。もう、これは300系のランクルを買うしかないなって感じでした」
ちなみに“悪路走行をしてこそ”なクルマであることは十分理解しているが、車両価格のことを考えると…ボディに傷が付くたびに、精神的且つ経済的にダメージを受けることが予想されるため、なかなかこの先の一歩が踏み出せないのだという。そのため、基本的には通勤や休日の買い物がメインになっているそうだ。
「納車3日目に、思いがけず林道を走ることになってしまったことはありますけどね。栃木県に“四駆神社”というのがあって、そこにお祓いに行ったんです。ホームページに『参道が林道になっています』と記載してあったのですが、まさかそこまでではないだろうと行ってみると…まあまあ細くて険しい道でしてね。障害物センサーの“ピーピーピー”という警告音をずっと聞きながら、神社までの道のりを運転しました」
ここで横転してなるものかと必死に歩を進め到着すると、神主さんの「えっ! 新型のランクル!?」という第一声が聞こえたという。近くに駆け寄ってこられて、『この車幅でよくぞご無事で』と、労いの言葉をかけて下さったそうだ。聞くところによると、神主さんはジムニー乗りで、参道はジムニーならば通れる道幅にしていたのだとか。
「ここだけの話ですよ? 家族にも無理を言って買わせてもらったし、大事に乗ろうと思っているんですけど、一度林道を走っちゃったらもうダメですね〜。我慢できなくなってしまって、モトクロスコースを走るイベントなどがあれば、必ず参加するようにしているんです」
普段使いの際は高級車のような立ち振る舞いをするランクル300だが、やっぱり泥が似合うと佐藤さんは言う。前日の雨でぬかるんだ、スポーツランドSUGO内にある国際モトクロスコースを走った時、ビシャっと音を立てて泥水がかかったフロントは、いつもよりも輝いて見えたそうだ。リフトアップもせずタイヤもノーマルで、コンディション最悪の道を走ったそうだが、いつもと変わりなく、むしろいつもより生き生きとして走っているようにさえ感じたという。
「その時、このクルマに自分はいつまで乗れるだろうか? と思ったんです。金銭的や年齢的なもの、環境問題のことなど、いろいろな理由がこれから出てくると思うんです。だからこそ、僕は今この時を楽しもうと決めました。走行距離は1万2000kmだから、まだまだ慣らし運転にすらなっていません。そうと決まれば、もっともっと走らなくちゃ! やっぱり、乗ってよかったですよ。ランクルは間違いなくキングオブ四駆でしたから」
冒頭で触れた通り、2024年現在、自動車業界は世界レベルで進化への過渡期に入っている。そして、この過渡期の流れを無視できない時が、ランドクルーザーにもやってくるであろう。その時、ランドクルーザーはどうなっているのだろうか? EVやハイブリット、もしかすると水素エンジンがラインアップに加わるなんてことだってあるかもしれない。
ただ1つ変わらないのは、ランドクルーザーは先進性よりも信頼性を優先するクルマである。世界には、まだまだ交通インフラが整っていない地域があり“ランドクルーザーが無いと生活できない”という多くの人が存在している。ランドクルーザーはこれからも、そこに住む人たちの仕事や生活を守るという重責を担っているのだ。
そんなヘビーデューティーな『ランドクルーザー』という“ツール”に魅了される人は、佐藤さんも含めて、未来永劫必ず存在し続けるであろう。
(文: 矢田部明子 / 撮影: 中村レオ)
許可を得て取材を行っています
取材場所:未来学舎 KIBOTCHA(宮城県東松島市野蒜字亀岡80番)
[GAZOO編集部]
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