さまざまな苦難を乗り越え30年以上を共にしてきたフェアレディZとの日々
1980年式のGS130型フェアレディZ 2by2(以下、フェアレディZ)を所有するHiro.Fさん。そのカーライフ、というか人生そのものは、まさに波瀾万丈だ。
話はHiro.Fさんが学生の頃、フェアレディZを購入するところからスタートする。当時乗っていた三菱・コルディアの車検が切れるのをキッカケに、新しいクルマを探していたHiro.Fさん。バイト先の店長から中古車店を営む知人を紹介してもらい、現地に見に行ったそうだ。
その時に試乗して購入する決意をしたのは、実はトヨタの初代ソアラ。そして、ついでにあまり状態良くないけど、こんなのもあるよ、といって見せてもらったのが、現在の愛車であるフェアレディZだった。
当時の姿はワインカラーとシルバーの2トーンで、直管4本出しのいわゆるヤンキー仕様。しかも中身はL20型の2.0L直6に3速ATを組み合わせた2by2と、正直フェアレディZとしてスポーティとは言い難い内容であり、いくら安くても食指が動かなかったという。
ところが、購⼊の意思を⽰し、ローンの申し込みも済ませたものの、ソアラは待てど暮らせど来ることはなく…お店に問い合わせるとローンが通らないとの返事。それでローン会社に問い合わせると、そもそも申請されていないという。驚いてバイト先の店長にも連絡を取ってみたところ、なんとソアラを既に売却してしまっていたことが発覚! その後、バイト先の店⻑も間に⼊ってくれ、代わりに先述のフェアレディZをHiro.F さんの要求通りの状態にして購⼊するという条件で折り合いをつけたそうだ。
「ところが、フェアレディZを引き取りに⾏ってみると、約束した状態に仕上がっていないうえに、あちこち不具合だらけ、錆にパテだらけで本当に⼤変でした。もうそのお店と関わりたくなかったので、全部受け⼊れて⾃分でコツコツ直していくことにしたんです」
その後も様々な⾞両トラブルに⾒舞われたHiro.F さんだが、その度に⾃分の⼿と頭を使って修理を繰り返してきた。解体屋さんから安く部品を買ったり、馴染みのディーラーで整備書のコピーを売ってもらったり、DIY専⾨誌を参考にしたりと、“できることは⾃分でやる"の精神でS130Zと付き合ってきたのである。そして遂には解体屋に通いやすい場所に自宅も購入。車庫にフェアレディZは入るものの、幅が狭くてドアが開けられないことが後でわかり、毎度毎度サイドウィンドウから乗り降りする暮らしをスタートさせた。ちなみにその模様がテレビに取材され、バラエティー番組に二度出演したのもHiro.Fさんの誇りだ。
徐々にインターネットが普及し始め、1998年頃にはフェアレディZのコミュニティに参加し、情報収集もするようになったHiro.F さん。仲間が増え、全国ミーティングに出かけるなど、Zライフもそれなりに充実してきた。だが、⼀緒に出かける仲間の中には、L28型直6エンジンを3.1リッターに排気量アップした快速仕様などもいて「さすがにL20の3速ATで後を追っかけることに無理を感じていましたね(笑)」と振り返る。
そんな折に、再びHiro.Fさんにとって転機となるトラブルが発生した。Hiro.Fさんはストリートミュージシャンとしても活動を行っており、その日も鳥取県でライブを行う予定だった。中国自動車道を走っているとエンジンルームから音が出始めたので、スピードを緩めた。だが、音と振動は小さくなるどころか、どんどん大きくなり、ついにはガラガラ! という音とともに何かが外れて落ちた感触を覚えたという。
クルマを路側帯に停めてボンネットを開けてみると、マフラーの下辺りから⽕が出ているのを発⾒! クランクケースには⽳が開き、中が⾒える状態になっていたそうだ。幸い⽕がそれ以上広がることはなかったため、⾮常電話に向かおうと歩いていると、今度は路上に落下物を発⾒。なんと捻じ曲がったコンロッドが油まみれの状態で落ちていたという。
今回の撮影に、その時のコンロッドを持って来てくれたHiro.Fさん。「今ではオブジェだと思って、部屋に飾ってあります(笑)」と教えてくれた。
この後も何かとネガティブな現象に巻き込まれる事となったそうだが、話をうかがっているとマインドは極めてポジティブだ。むしろ、⾃分の⾝に起きた不幸話を他⼈に聞いてもらうことを、少し楽しんでいる節すら感じられる。ミュージシャンとしてのレパートリーも尾崎 豊や泉谷しげる、河島英五など、ブルージーな感情をエネルギーとして心の底から叫ぶ歌が得意だ。
ということで、コンロッドがクランクケースを突き破るという⼤惨事に⾒舞われた訳なのだが、捨てる神あれば、拾う神あり。クラブ仲間から、降ろしたばかりのL28 型エンジンと5 速MT を譲ってもらえることになったのだ。しかもソレックスのキャブレター、タコ足、亀有のマフラーも付いていたため、⼀気に“Zらしい仕様"へとアップグレードされたのである。
その後もマイナートラブルと付き合いながら、Zライフを楽しんでいたHiro.Fさん。『S130Z Owner's Network S130.net』というオーナーズクラブを主催したり、フェアレディ専門のミニカー&おもちゃコレクターが集うクラブも創設するなど、多⽅⾯で活躍。
ミニカーのクラブでは、フェアレディZの⽣みの親として知られる、元北⽶⽇産社⻑の『ミスターK』こと、⽚⼭ 豊さんから直接貰ったサインを⼊れた限定トミカを製作したりと、思い出深い経験もたくさんしてきたそうだ。そんなHiro.Fさんの面倒見の良さは、おそらく天性のもの。そういったクラブ活動を主催することも性格的に向いているのだと思われる。なぜそう思ったかという根拠は、Hiro.Fさんから聞いた弟さんとのエピソードだ。
⻑年ディーラーやショップでメカニックとして勤めていたHiro.Fさんの弟さんは、2011年に仲間と共同で独⽴開業し、⾃⾝のカーショップを開いたという。『当座の運転資⾦も必要だろう』と思ったHiro.F さんは、はなむけも込めて弟さんのショップにフェアレディZの全塗装を依頼し、多額のローンを組んでまで料⾦を⽀払ったそうだ。だが、これまた諸事情が発⽣し、結果的に弟さんのショップは閉めることに。そしてHiro.FさんのフェアレディZも全塗装が完了することなくマイナスになった状態で戻って来たそうだ。
「この時ばかりは私も⼼労が絶えなかったんですけど、最後は三重県にある専⾨店に、弟も私のフェアレディZもセットでお世話になる形に落ち着きました。クルマはキャブレターもダメになって、クランキングもしない状態だったんですけど、そこからまた弟が違った形で暴⾛を始めまして(笑)。いっそのことフルコン制御のインジェクションにしよう、トランスミッションは71C(R32 型スカイラインなどに使われていた⽇産純正MT)に換装しようと、⾃分が頼んでいないことも含め、あれやこれやと勝⼿に進めてしまったんです。おかげで最新機能満載で復活しましたが、それもすべてローン。昨年の春にようやく返し終わりました(笑)」
その結果、友人から受け継いだL28型直6エンジンには、新たにOERのスポーツインジェクションや、トヨタの4GR型エンジンに純正採用されているデンソー製の12穴インジェクターなども装着。さらにPCソフトを使って幅広いセッティングを行なえるハルテックのエリート750というフルコンECUの制御も導入。BNR34型スカイラインGT-R純正のクランク角センサーやイグニッションコイルを流用するなど、現代的なモディファイが加えられたという。
オリジナルの車高調整式サスペンションで車高を落としたほか、ホイールは往年のモデルであるWork E-WINGの15インチを装着。75φのマフラーはヴィンテージのオリジナルだ。ある意味、Hiro.Fさんの意思とは関係なく、旧車のチューニングカー専門誌に取り上げられてもいいくらい、モダンな快適・快速仕様のフェアレディZに生まれ変わった。
シートはレカロのSR-ZとLXというモデルをベースに、表皮を張り替える形で新調。タコメーターはBNR34型の純正を流用し、三連メーターに加えてフルコンのフィードバック制御に活用するための空燃費計も装着されている。
そして、懐かしいカロッツェリアのリヤスピーカー(片方は現行品に交換)がマウントされているのは、ワンオフで作られたスピーカーボード。なんとクルマを購入した当時、現役の左官職⼈だったHiro.F さんのお⽗さんと、縫製工場で働いていたお⺟さんが共同で作ったものだそうだ。年月とともに日に焼けてしまったそうだが、こんなところにも、家族の絆を感じさせるアイテムが備わっているのである。
「エアコンもオーバーホールしたんで、夏は涼しいですし、71Cのミッションはスコスコ入りますし、自分が望んでそうなった訳じゃないんですけど、結果的にすごく快適なクルマになりました。買おうと思って買った訳じゃないL20で3速ATのZに、ここまでお金をかけて乗ることになるとは想像もしていませんでしたね。けれど、全国に仲間も増えましたし、こうして多くの人に知ってもらえるきっかけにもなったので、ヨシとしましょうか (笑)」
なんやかんやとありながら、フェアレディZを通して家族との結びつきも強めることとなったHiro.Fさん。今日も相棒にギターを積んで、歌を届けに行く。
(文: 小林秀雄 / 撮影: 平野 陽)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:平城京朱雀門ひろば(奈良県奈良市二条大路南4-6-1)
[GAZOO編集部]
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