ミラージュから始まったカーライフは再びミラージュへと回帰し、充実した時を刻む

  • GAZOO愛車取材会の会場である山梨県庁噴水広場で取材した三菱・ミラージュ(C52A)

    三菱・ミラージュアスティRXバージョンR(CJ4A)



スポーツカー黄金期と呼ばれた2000年代初頭まで、各自動車メーカーには必ずと言っていいほどスポーツタイプのクルマがラインアップされていた。そのキャラクターも幅広く、ハイパワーが楽しめる大排気量ターボ車から、軽快なテンロクNA車、軽自動車にもスポーツグレードが用意されていたほどだ。
そんな時代にコアなファン層から絶大な支持を集めていたのが三菱・ミラージュ。1980〜90年代にはワンメイクレースも開催され、モータースポーツの入門車としても注目されていたモデルである。

そんなミラージュに24年間愛情を注ぎ続けているのが、2000年式三菱・ミラージュアスティRXバージョンR(CJ4A)のオーナー『ほー』さん。

1978年に三菱初のFFモデルとして誕生したミラージュは、ハッチバックを皮切りに、マイナーチェンジによって4ドアセダンを追加。組み合わせるエンジンは、普及グレードの1.2リッターだけでなく、1.4リッターターボや1.6リッターを投入するなどホットハッチの先駆け的存在でもあった。続く2世代目からはステーションワゴンも追加され、4代目になると2ドアクーペモデルも誕生するなど、時代に合わせてボディバエリエーションの増強が図られていった。
ほーさんが乗るCJ4Aは国産ミラージュとしては最終モデルとなる5代目。アスティのサブネームがつけられた2ドアクーペモデルだ。中でもRXはスポーツグレードにカテゴライズされ、さらにバージョンRパッケージではエアロパーツやアルミホイールなどの加飾が施されているのが特徴だ。

そんなミラージュアスティとほーさんの出会いは、排ガス規制直前の2000年にまで遡る。

「自分が免許を取った頃は、実家には1989年式のミラージュ(C52A)があったんです。学生時代はそのミラージュを譲り受けて乗っていたので、徐々にミラージュに対する愛着が深まっていきましたね。その後、社会人1年目で自分のクルマを買うことになったとき、ミラージュの販売が終了するという話を聞いて、すぐにこのアスティをオーダーしたんですよ」

はじめて乗ったクルマがミラージュだったことから、車両購入を考えた時にはそのままミラージュを選択。しかし今度はハッチバックではなく2ドアクーペを選択したあたりは、様々なスポーツカーを見て育った世代らしいと言えるかもしれない。

ミラージュのスポーティバージョンと言えば、3代目に登場した“サイボーグ”が頭をよぎる人も少なくないだろう。DOHC 1.6リッターインタークーラーターボ(4G61)を搭載し、最高出力は145ps。過激さを増す当時のホットハッチの中でも抜きに出る存在でもあった。ほーさんが乗る5代目は、そんなサイボーグと同じ1.6リッターながら可変バルブタイミング機構を組み合わせたNAエンジンの4G92を搭載。最高出力はターボ時代よりも増強した175psを発揮し、高回転まで気持ちよく伸びる特性に変化している。

「MIVECエンジンはカムが切り替わる高回転がすごく気持ち良いんです。しかし、あまり無理をさせたくないので、基本的には3000rpmでシフトし、優しく乗るように心がけています。大切に乗っていることが幸いして、これまで大きなトラブルもなく、先日走行距離が30万キロを超えたんですよ」

所有歴は24年を超えているが、一時期は休眠状態でガレージに保管されていたこともあったという。

「7年くらい前になりますが、子供が生まれて2ドアクーペでは手狭になってしまったんです。でも手放すことは考えず、そのままガレージで保管するようになりました。いつかは復活させたいと考えていたので、保管中は定期的にエンジンをかけてコンディションの維持も習慣になっていましたよ。その甲斐もあって、路上復帰させる段階でも大きな問題はなく、ドレーンからのオイル漏れや足回りのリフレッシュ、油脂類交換程度の作業で済みました」

休眠中には定期的にエンジンをかけていたと言うが、ここで思わぬ問題も発生していたという。そのひとつが、まだ幼かった娘さんが排気音を怖がってしまったということ。エンジンをかける度に泣き出してしまったというから、コンディション維持には苦心もあったようだ。

「所有歴25年を前に、今年に入って復活させるためにミラージュをクルマ屋さんに預けたのです。期間は2ヵ月くらいなのですが、その時に娘が『ミラージュがなくて寂しい』と言うようになったのです。あれだけ怖がっていたミラージュなのにと思ったのですが、ガレージにあることが日常になっていたみたいですね。復帰してからは嘘のようにミラージュが好きになり、一緒にドライブを楽しむようになってくれましたよ」

購入当初は毎日往復100キロの道のりを通勤していたというほーさん。そのため新車から8年経過した段階での走行距離は19万キロにも達していた。その後、職場が移動したことで通勤での走行距離は縮んだが、それでも趣味のドライブを楽しんだことで15年の間に29万キロも走り込んでしまったのだ。

「休眠前の29万キロだった時は、30万キロを超えたいと考えていたのですが、今年復帰させてすぐに30万キロを超えてしまいました。やっぱり乗るのが楽しいクルマなので、まだまだ乗り続けていくのは当然なのですが、次の目標値を設定するか悩んでいます。今では距離での目標ではなく、できるだけ長く乗り続けたいというのが正直な思いですね」

アスティの最強バージョンとして投入されたRXバージョンRには、数々の専用装備が備わっているのも特徴。当時はエアロブームが高まっていたこともあり、フロント、サイド、リヤには専用のエアロパーツが装着されている。スタンダードグレードとは明らかに異なるスタイリングも、若き日のほーさんが心を鷲掴みされた一因でもあるわけだ。

足元にはOZレーシング製、クロノの15インチが装着される。こちらもエアロパーツとともに、バージョンR専用パーツのひとつ。ランサーでWRCを戦った三菱と縁の深いOZレーシングを純正採用するあたりも、RXバージョンRがスポーツモデルであることを証明している。

そして、ほーさんが特に気に入っているのがこのリヤウイング。ランサーエボリューションを彷彿とさせる強烈なデザインはノーマルでも存在感があり、新車カタログのキャッチフレーズ『レーシングテクノロジーをダイレクトに継承した』と言う言葉を裏付けているかのよう。購入の決め手にもなったお気に入りのポイントは、24年が経過した今も色あせていないのだ。

基本的にはノーマル状態をキープしているが、マフラーや足回りなど補修を兼ねてアフターパーツに変更されている。特にマフラーは純正の2本出しからシングルタイプに交換しているが、娘さんが怖がらないようにインナーサイレンサーもしっかりとセットされている。

インテリアもオーディオやシートを除いてノーマルを維持。ステアリングは当時のスポーツパッケージとして採用率が高かったモモ製だ。さらにホワイトの文字盤のメーターパネルなど、あの頃の記憶が蘇ってくる装飾が施されている。ちなみにシートは純正ではなく、レカロ製のSR4を左右でセット。しかしこの日の出掛けにシートベルトホールの樹脂が割れてしまい、助手席のみシートカバーが装着されているのはご愛嬌。

オーディオはケンウッド製の2DINモデル。当時物のため使用するメディアは2000年代初頭を思い出させてくれるCD/MDで、もちろん現役稼働中だという。
最新の装備にアップグレードすれば実用性や快適性も向上するが、こういった当時の雰囲気を残すことで、想い出深い愛車に仕上がっていくとも言える。

新車で購入して24年の歴史は、奥さんと過ごしてきた時間よりも長いと言う。そのため、奥さんもこのミラージュに対する思い入れを知っていて、さらにご自身も気に入ってくれているそうだ。
それを証拠に結婚式のウェルカムボードやウエディングケーキにもミラージュがデザインされていたほど。まさにミラージュはほーさんファミリーの一員というわけだ。

「ミラージュが戻ってきてから、休日はドライブに出かけることが多くなりましたね。特に娘と2人で出かけることが増え、サッカー観戦など、時間を見つけては一緒にミラージュで出かけていますよ」

幼い頃は怖がっていたミラージュも、今では助手席が娘さんの指定席。周囲の景色も見られて足元も広々。助手席はファミリーカーではお母さんの指定席になってしまうだけに、お父さんとミラージュで出かけるのが楽しみなのだとか。

経年車ということもあり、パーツ供給が心配というのはこの種のクルマのオーナーにとって切り離せない問題だ。そういった面は、今も繋がりのあるミラージュのオーナーズクラブ『ミラージュフォーラム』でサポートしてもらっていることもあって、今後も長く乗り続けることに不安はないという。

「維持には不安がないのですが、このRXバージョンRはクロスミッションなのは良いのですが、ファイナルギヤがローギヤードなので、燃費がどうにも…。これまでは14km/リッターが最高燃費だっただけに、ガソリン代が今以上に値上がりしたら、ドライブの回数も減っちゃいますよね(笑)」

若い頃の思い出、そして家族との想い出が詰まったミラージュは所有24年、走行30万キロという節目を迎えてもなお、家族みんなから愛され続けている。

(文: 渡辺大輔 / 撮影: 中村レオ)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:山梨県庁 噴水広場(山梨県甲府市丸の内1丁目6-1)

[GAZOO編集部]

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