「シャイだった性格を変えてくれた」ハチロクとの出会い

  • GAZOO愛車取材会の会場である国営木曽三川公園 アクアワールド水郷パークセンターで取材したトヨタ・GR86(ZN8型)

    トヨタ・GR86(ZN8型)


「妻に『今日はオレンジの86を取材で使うから乗って行かないでね!』と言っておいたのに、これで会社に行っちゃったんですよ。本当はもっと早く到着する予定だったんですけど、いやいや…申し訳ない!」と、少し慌てた様子でアクアワールド水郷パークセンターに姿を見せた『たか』さん。
ご自身の愛車は後期型の86(ZN6型)だそうだが、今日は敢えて奥様の愛車であるGR86(ZN8型)で参加してくれたという。

ひと際目立つボディカラーは、フレイムオレンジという特別色。86の誕生から10周年を記念して期間限定で販売された特別仕様車『RZ“10th Anniversary Limited”』である。
ちなみに、インテリアにも専用のオレンジアクセントやキャストブラック加飾、10周年記念の刺繍などが散りばめられているのも特徴で、奥様のお気に入りポイントでもあるそうだ。

「このクルマが納車された時、どこかで見たことがある色だなぁと思ったんです。それを確認するべく、直ぐに思い当たる店までドライブをしました」
そのお店とは『やっぱりステーキ』という、沖縄発祥のステーキチェーン店。なんでも、沖縄ではお酒を呑んだ後にステーキを食べる習慣があり、県民の方には馴染みの店になっているのだとか。
このお店のコーポレートカラーとGR86のボディカラーが似ていたため、給油口の部分にワンポイントとして、やっぱりステーキのロゴを貼ったそうだ。
少し目の吊り上がった牛と目が合うたびに、このGR86は10th Anniversary Limitedではなく“やっぱり86”という呼び名がピッタリだと感じるらしい。

と、いきなり話が横道に逸れてしまったが、三重県出身のたかさんが、わざわざクルマにまでステッカーを貼ってしまうほど“やっぱりステーキ”に入れ込む理由は、大の沖縄好きであることはもちろん、その愛車ライフにも大きく関係しているようだ。

  • (写真提供:ご本人さま)

最初の転機となったのは、2016年に後期型のトヨタ・86(ZN6)を購入したことだった。
「昔から人見知りなんです…。そんな私がアクティブになったのは、86でのドライブが思いのほか楽しかったのがキッカケで、地元の友達やクルマ好きの方々とオフ会に参加するようになって、友人もたくさんできました。そしてその延長線で、当時から憧れていた沖縄の地を走ってみたいと感じるようになり、今では沖縄にいる86乗りの方々との交流も深まりました」

86のハンドルを握るようになってから人生がどんどん楽しくなっていったということだが、そのキッカケとなった86を愛車として迎え入れたのは、意外にもたかさんではなく奥様だったという。
奥様には、子供の頃から『いつかはスポーツカーに乗りたい』という憧れがあったそうで、何気なくトヨタのホームページを眺めている時に見た86に一目惚れしてしまったのだとか。

そんな86を手に入れてから数年後、奥様がGR86の10th Anniversary Limitedに乗り換えたのは、自分の好きなオレンジ色の限定車が発売されたから…というよりは、たかさんにサスペンションをはじめとした色々な箇所をカスタマイズされ、乗り心地が悪くなってしまった86に耐えられなくなってしまったからだという。
そして、その“いじり倒された86”が、今ではたかさんの愛車となり、夫婦でハチロクに乗っているというわけだ。

なぜ、奥様にそう言われるまでカスタムしてしまったのかと質問すると「オフ会に参加すると色々なパーツを付けた86がズラリと並んで、自分の86にも何かしなければという気になったから」と教えてくれた。

どこに手を加えるべきかを仲間に相談し、車高調整式サスペンションを2回ほど付け替え、スロットルコントローラーやサクションパイプ、ドアスタビライザーにフェンダーガーニッシュなどなど、両手では足りないほどの箇所にカスタマイズを加えていったという。

「その結果、少〜し乗り心地が悪い86に仕上がったというわけです。今は私が毎日乗っていますが、サスペンションはキット標準のスプリングのままだからそれほど硬くないし、私的にはそれなりに快適だと思うんですけどね…」

「カスタムした後に、乗り味が変わったのが分かるのが面白いんですよ。それで、次はもっとこうしてみよう、ああしてみようと実行してしまうんですよね。こんなにのめり込んでしまうなんて、自分でも驚いているんです」
今後は“あまりイジらない方向でいく”とのことだが、定期的にカスタムした様子をSNSにアップしているところを見ると、その可能性は低そうだ。

そう話すたかさんがスポーツカーに乗ったのは、実に20年振りだったという。
21歳の頃、世は空前のスポーツカーブームで180SXやMR2、シルビアやGTOといったクルマ達を街中で頻繁に見かけることができた。
たかさんも友達に負けじと、最初の愛車にはスカイラインGTS-tタイプM(HCR32型)を選び、その数年後にもう少しパワーのあるクルマを運転してみたいと、スカイラインGT-R(BNR32型)へと乗り換えた。ただ、今思い返してみると、その頃はスポーツカーを所有しているということに満足していただけだったという。

当時のたかさんの勤務先は埼玉で、行こうと思えば愛読していたイニシャルDの聖地にも行けたし、クルマ好きが集まるパーキングエリアなどにも行くことができる環境だった。なのに、なぜそれをしなかったのかというと、詰まるところ『スカイラインGT-Rの走りの良さが、当時の自分には分からなかったから』だと言う。

「それから数十年経って、86が我が家にやってきたことで、久しぶりにスポーツカーのハンドルを握ったわけですが、運転席に座っただけでワクワクしたんです。普通のクルマと比べたら狭いけど、そういったことに不快さは感じず、むしろ秘密基地感があって妙にしっくりきました。ハンドルを切ったと同時に、思い描いたように曲がっていく一体感や、軽く俊敏に動く安心感など、もっともっと走りたいと笑みが溢れましたよ」

そんな楽しい気持ちを抑えることができず、奥様の愛車だというのに暇さえあれば乗り回して86の走行距離を伸ばしてしまった1年後。86オーナーや86ファンが集まるSNS『86 SOCIETY』の存在を知ったことを転機にカーライフは180度変わり、シャイだった自分がどんどん変わっていくのを感じたと、嬉しそうに話してくれた。

  • (写真提供:ご本人さま)

冒頭でも記したが、もともと人見知りのたかさんは、86に乗っていたからこそ、ここまで仲間と楽しめているのだという。

まずは、クルマが好きという共通点があること。そして、ツーリングする時はそれぞれが自分のクルマに乗るので、気を使うこともなく良い距離感で同じ趣味を楽しめることもポイントになっているそうだ。
86は走行性能だけでなく、こういった様々な要素のすべてが自分にジャストフィットしているそうで、その結果、人生の豊かさが加速していったのだと満足そうに笑っていた。

ちなみに、沖縄でツーリングをすることになったのは『ヤンバルをツーリングしてみませんか?』という、SNSサイトの投稿が目に止まったからで、そのコメント欄に思い切って参加表明の書き込みをしたのだという。この頃には、既に多くの86仲間と繋がっていたこともあって“思い切れた”そうだ。

  • (写真提供:ご本人さま)

沖縄県北部の海沿いの道は、急な勾配がほとんどなく、クネクネした峠のような道が続いているそうだ。そして、なんといっても一番の見所は、沖縄の大自然。透明度が高い真っ青な海と、生い茂る緑のコントラストが最高とのこと。このロケーションは沖縄ならではのもので、気が付けば2018年に参加してから、延べ6回も参加していると腕を組んだ。

「最初の頃はレンタカーの日産・ノートe-powerやロードスターで参加したりしていましたが、最近は『沖縄86&BRZ +owners Club』の副リーダーさんのBRZをお借りしています。このBRZは『沖縄での愛車』と呼んでいるんですが、10数年ぶりにマニュアルミッション車を扱ったものだから、最初はツーリングというよりも“練習”といった感じになっていましたね(笑)」

ちなみに、その友人たちも沖縄で開催した取材会に参加していて、今回の取材会への応募を促してくれたのだという。

「家族との時間も増えたと思います。最近では伊勢志摩に家族3人で旅行に行ったんですけど、旅行の際の僕のポジションは後席と決まっているんです。リヤシートは少々窮屈なんですけど、これはこれでまた良いんですよね〜」
そう言いながら、実際に後席に乗った姿を見せてくれた。

こうして、86やGR86に関することを無邪気に話しているたかさんを見ていると、ライフスタイルの中心が86であることを強く感じさせてくれる。そして、それはこの先もずっと変わらないだろう。

(文:矢田部明子 / 撮影: 平野 陽)

※許可を得て取材を行っています。通常は園内へ車両を乗り入れることはできません。
取材場所:国営木曽三川公園 アクアワールド水郷パークセンター(岐阜県海津市海津町福江566)

[GAZOO編集部]