2度のエンジンブローを乗り越え、30年以上を経た今もますます高まるジェミニ イルムシャーRへの情熱
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いすゞ・ジェミニ イルムシャーR(JT191S型)
人生で初めて新車購入する愛車として、いすゞ・ジェミニ イルムシャーR(JT191S型)を選んだという『Ziiima』さん。1991年に手に入れて以降、たっぷりと愛情を注ぎながら“新車ワンオーナー”の状態を維持し続けている。
その愛車遍歴からお伺いすると「初めての愛車は117クーペでした。昔からいすゞ車が好きなんです。他にはないクルマを作るところ、特にデザインが一番好きですね」とおっしゃる。
そんなZiiimaさんだが、117クーペの次に手に入れたのはトヨタ車だったという。
「ターボ車に乗ってみたくて、コロナのGT-TR、ツインカムターボに乗り換えました」
コロナのパワーはZiiimaさんを十分に満足させてくれたそうだが「トラブルが出始めていたのと、ちょうど10年目で次から毎年車検になるというタイミングだったので、乗り換えることにしたんです」
1995年に法改正された現在の車検制度では、自家用乗用車は初年度登録から10年以上が経過した以降も2年毎の車検となる。しかし、それ以前はZiiimaさんがおっしゃっているように、10年目以降は1年ごとの“毎年車検”だったのである。
Ziiimaさんにとって3回目となる愛車選び。その条件は『ターボでMTのいすゞ車』というものだったそう。
2代目ジェミニにもターボのMTがあるので候補として挙がっていたそうだが「なんと言っても180psというパワフルさが気に入ったのと、新車なら10年乗れるので、このイルムシャーRを新車で買うことにしたんです」
念の為補足させていただくと、Ziiimaさんが言う「新車なら10年乗れる」というのは、耐久性の話ではなく、前述の車検制度で『毎年車検となる10年後まで』という意味である。
ジェミニは、1974年にデビューして以降2000年まで販売されたモデルだが、1993年登場の4代目と1997年登場の5代目はホンダからのOEM供給車両だったので、真のいすゞ製ジェミニは、1990年登場の3代目モデルまでということになる。
そんな3代目ジェミニは、大人気となった先代が3ドアハッチと4ドアセダンのボディバリエーションを有していたのに対し、4ドアセダンのみの設定でデビュー(後にクーペ、ハッチバックが追加される)。サイズもやや大型化され、スタイリングは曲面を多用するデザインに変更された。
先代同様に『ZZハンドリングbyロータス』や『イルムシャー』というスポーティグレードも設定されていて、なかでもモータースポーツ参戦を意識したホットモデルとなるイルムシャーRは、1.6リッターツインカムターボエンジン4XE1-WTとフルタイム4WDを組み合わせることで当時のクラス最高となる最高出力180psを誇っていた。
当然、Ziiimaさんもその『パワフルさ』を期待して手に入れたイルムシャーRであったが、購入して間もなく、その期待を裏切られたこともあったそうだ。
「ゼロヨン競技に参加したんですが、先代ジェミニと走って、負けたんですよ。相手はパワーが低い上にFFだから、楽勝で勝てると思っていたのに…」と、当時を悔しそうに振り返る。
そして「すぐにブーストアップして、パワーアップしました」と、この頃からZiiimaさんはエンジンにも手を加えるようになり、現在でも特注品だというエキゾーストマニホールドと大容量タービンを組み合わせるなど、パワーアップ志向のカスタマイズを楽しんでいらっしゃる。
そんなパワーアップが原因というわけではないそうだが、これまでの33年間で2回のエンジンブローも経験しているという。
「1回目は10万kmを超えたぐらいの頃に、ウォーターポンプが壊れて、それに気づくのが遅れてブローさせてしまったんです。2回目は、純正オイルクーラーのホースが破裂しちゃって、その時も気づくのが遅れてブローさせてしまいました」
エンジンが壊れてしまう=乗り換えのタイミングと考えるのが一般的だと思うが、Ziiimaさんにはそんな一般論が当てはまらず「乗り換えるっていう選択肢はまったく頭になかったですね」と言い切る。
たとえご自分がそうしたくても、家族に反対されても不思議ではない案件なのでは?とも思うが、今回の取材会にいっしょに参加してくださった奥様は『壊れたのなら直せば』と、2回とも当たり前のようにおっしゃったそうだ。
さて、ブローしたエンジンの修理だが、1度目の時は仲間がストックしていた中古エンジンを譲り受け、載せ換えたという。
そのお仲間というのは、イルムシャーRに乗り始めて3年目ぐらいから参加しているというジェミニのオーナーズクラブで仲良くなったジェミニオーナーさん。
「整備工場を営まれていて、当時N1耐久に参戦していたジェミニを譲り受けて動体保存しているような方なんですよ」
エンジン載せ換えの際には、同時にエンジンのオーバーホールも行ったそうだが「その仲間にいろいろ教えもらったり、手伝ってもらったりしながらですけど、ひと通り自分でやりました」と、自らの手でエンジンを組み上げ、イルムシャーRに搭載したという。
整備士のお仲間がいろいろ教えてくれるとはいえ、なかなか素人には難しい作業のように思えるが「当時は、オプションやカーボーイといった自動車雑誌を毎号欠かさず読んでいたので、基礎知識はあったと思います」と胸を張る。
そして、その他の日常的なメンテナンスや整備も、お仲間の整備士さんからアドバイスをもらって、大概のことは自分でこなしてしまうそうだ。
「もちろん、リフトのような設備とか特殊な工具が必要な場合や、時間が掛るような作業の時はプロというか仲間に任せますけどね」
2回目のエンジンブローの時も、同じように自分で作業をして復活させたそうだが「載せ換えるエンジンがなかなか見つからなくて…」と、部品探しにかなりご苦労されたという。
しかし、最終的に手に入れたエンジンは、なんと新車から下ろされたほぼ未使用の極上品。「兵庫にあるいすゞを得意とするショップさんがストックされていて、それを譲ってもらって復活できました」と笑顔が漏れる。
その時に積み替えたエンジンが、現在搭載されているエンジンであり、前述のとおり大きなタービンに交換され、ノーマルよりもパワフルな仕様としているが、載せ換えてから軽く10万km以上を走っていながら、まだまだ好調を保っているという。
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(写真提供:ご本人さま)
美しい状態を保つボディも、これまでに2回オールペイントを施しているという。1回目は15年目ぐらいの時に、そして2回目は2年ほど前に塗り直したそうだ。
「1回目は純正同色の赤ですが、今回は、同じイルムシャーR純正色でも後期型のレッドで塗っています。後期型の方が朱色っぽい赤なんですよ」
お色直しをするのは、当然の事ながら、まだまだ乗り続けるという気持ちの現れとなる。「何か、よっぽどのことが無ければ、もう乗り換えることはないと思います」
1台のクルマにずっと乗り続けるというのは簡単ではない。不意のアクシデントや、高額修理代が掛かるメカニカルトラブルといったこと以外にも、オーナー自身の熱が冷めてしまうというのも少なくはない。一生乗り続けると言っていても、それを貫けるひとは、本当にごく僅かな方々といえるだろう。
33年乗り続けていても、イルムシャーRへの情熱にまったく翳りがないのは何故かと伺うと「まずは、家族の理解があるからだと思います。エンジンブローの時もそうですが、理解が無かったら、ここまで維持できませんでしたね。それからオーナーズクラブの仲間達との繋がりもあると思います。彼らとの繋がりがあるから、他のクルマに乗り換えるという気にはまったくなりませんね」
このクルマに乗ってたくさんの思い出を共にしてきた家族、そしてジェミニというモデルが好きな者同士の長年にわたる繋がりがあるからこそ、ZiiimaさんにとってイルムシャーRは、これまでも、そしてこれからも、無くてはならない存在なのであろう。
(文: 坪内英樹 / 撮影: 清水良太郎)
※許可を得て取材を行っています。通常は園内へ車両を乗り入れることはできません。
取材場所:国営木曽三川公園 アクアワールド水郷パークセンター(岐阜県海津市海津町福江566)
[GAZOO編集部]
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