NAからNDへ。ロードスターとの再会が紡ぐ“アツアツ“な夫婦の絆

  • GAZOO愛車取材会の会場である世界遺産の万田坑で取材したマツダ・ロードスター(ND5RE)

    マツダ・ロードスター(ND5RE)



オーナーの『ママるー』さんは、幼い頃からいつもクルマが身近な存在としてあったという。クルマ好きのお父様が、毎週日曜日にドライブに連れて行ってくれるのが嬉しくてたまらなかったし、西部警察で見たド派手なカーチェイスも好奇心いっぱいだった子供の頃の自分をワクワクさせてくれたと、あどけなく笑った。

そうして運転免許を取得すると、その数ヵ月後には就職先への通勤で使うためのクルマを『とにかく即納できる』という条件で探して購入。入社してからは、瞬く間に時間が過ぎていき、なんとか社会人1年を乗り越えた頃、会社の駐車場にミラXXやアルトワークスなど、走りを楽しめそうなクルマが停められていることに気付く。

「そうだ、カッコいいクルマに乗ろう! って、入社1年後にしてやっと思えたんです。そして、タイミング良くロードスター(NA6CE)と出会えたんです」

そう話すママるーさんが、当時ロードスターに乗ろうと思ったのは、中古車屋さんの前を通りかかった時に、自分が想像するスポーツカーの造形とは少し違う、丸っこくて愛嬌のある顔をしたロードスターと目が合ったからだという。

視線を離せなくなってしまい、近くに寄ってみると意外にもシルバーのボディがカッコ良く引き締まった印象を受けた。また、リトラクタブルライトを開けた際に、ガシャッという音でも感じられるメカメカしさと、可愛い顔とのギャップにも見惚れてしまったのだとか。さらには、オープンになることや、マニュアル車という部分にも心を揺さぶられたそうだ。

  • (写真提供:ご本人さま)

納車当日は、中古車屋さんが職場までロードスターを持ってきてくれるとのことで、朝から仕事が手に付かなかったのはここだけの話だと、イタズラっぽく笑っていた。
仕事が終わったのは雨の日の夜。ドアを開けると駐車場にはシルバーのロードスターが見え、心がカラッと晴れ上がっていくのを感じたそうだ。

「教習所ぶりのマニュアル車でしたから、嬉しいと言う気持ちと、運転大丈夫かな? といった少々の不安もありました。ヒールを脱いで、クラッチとブレーキペダルをギュッと踏んで、キーを回してエンジンをかけて…。家に帰るまで、数十分のことでしたが、私にとっては長いようで短く、ドキドキと不安が入り混じったような、う〜ん、何て言えばいいのかな…とにかく、すごく特別な時間でしたね」

  • (写真提供:ご本人さま)

納車翌日には、お父様にハードトップを外してもらい、幌を開けてオープンにして走ったそうだ。ギヤを入れるタイミングを掴むと、踏んだら踏んだ分だけ素直に加速する爽快さと、優しく頬を撫でていく風の心地良さに感動を覚えた。そうして、走って走って走りまくって、走行距離はどんどん伸びていったのだと微笑んだ。

当時、ママるーさんのドライブコースの定番は、岱明町(現:玉名市)のとある場所に軽バンで売りに来ていた塩たこ焼き屋さんと、ミスタードーナツやサーティワンアイスなどのデザートや、お買い物も楽しめるショッピングモールだった。同僚にローバーミニに乗ったクルマ好き女子がいたそうで、会社終わりは毎晩のように一緒にドライブに行くというのがルーティンであったという。
ロードスターをオープンにして走ると、例え嫌なことがあった日だったとしても、風と共にスカッと飛んでいってしまう気すらしたそうだ。

「そのショッピングモールには、クルマ好きが沢山集まっていましたね。スカイラインGT-Rやシビック、AE86にスカイラインなど、みんな自慢の愛車で乗り付けるんです。同じように、私もロードスターが自慢でした」

さらに、走るだけでは物足らず、カスタマイズをするようになった頃。今から26年前にご主人と出会い結婚と相成った。しかしその後は、今後の人生設計を考えて、涙ながらにロードスターを手放すことにしたのだという。

「26年ぶりに乗ったロードスターは、やっぱりロードスターでした。エンジンかけた瞬間のヴォンという音。ギヤチェンジをした時の感覚。『これや、これこれ! これがロードスターよ!』と、鍵を受け取って、沸き立つ気持ちを抑えて、ディーラーから家までドッキドキで走らせましたよ」

10代の頃に乗っていた、ロードスター(NA6CE型)を降りてから暫く経っていたため、ちゃんと運転出来るか不安はあったそうだ。しかし、自然吸気で排気量が101ccしか違わないエンジン、マニュアルミッション、そしてほぼ同サイズのボディという、新型ロードスター(ND5RE型)のフィーリングは、寧ろ懐かしく感じ、全ての操作がやけに身体にフィットしたという。

『あぁ…、このシフトを変える時の重さ、クラッチペダルを踏んだ時の跳ねっ返り、ステアリングを切った時の感覚…』。それらは、パズルのピースを1つ1つ嵌めていくようにジワジワと、初めてロードスターに乗った時のことを思い出させてくれると話してくださった。

ロードスターが納車される日は、ディーラーまでママるーさんを乗せていったというご主人。曰く『家までの帰り道は、まるで水を得た魚のように颯爽と走っていったので、その姿は久しぶりにマニュアルミッション車を運転した人とは思えないほどでしたよ』と感心するほど、スマートに乗りこなしていたのだとか。

なぜ、再びロードスターに乗ることになったのかと言うと、そもそもの始まりは1年前。ご主人の実家にタケノコを掘りに行き、切り口が瑞々しく、しゃっくりシャクシャクな歯触りの“贅沢な旬の味わい”を求めて山に入った時に、5速マニュアルの軽トラに乗ったのが発端となった。
奥様は、狭くて竹の障害物がある細い畦道を、ギヤを巧みに操りながら進んでいくのが面白くて、いつの間にか“タケノコを掘りにいく”ではなく“軽トラに乗りに行く”という目的に変わっていたというほど、夢中になっていたそうだ。

「家のクルマがオートマチック車なので、久しぶりにマニュアルを運転すると楽しくてね。後半はタケノコ堀りはそっちのけで、この道行けるかな? なんて運転を楽しんでいましたね(笑)」

その姿を見た旦那さんが、『そこまで好きならば』と、購入してくれたとママるーさんは話していたが…。

ご主人は照れくさそうに「子供の手が離れたら、これからも夫婦で楽しく歩んでいけるように、もう一度、一緒にロードスターに乗りたいという強い思いがあったんですよね」と、こっそりと教えてくれた。

「NAロードスターとのお別れは、人生において最初で最後のマニュアル車になってしまったなと思っていました。まぁ、主人とは『おばあちゃんになる前にまた乗りたいね』なんて、与太話をしたことはあったんですけどね。でもまさか、それが現実のものになるなんて!」

そんな、切なくも素敵なストーリーを聞いていると、胸が高鳴り飛び跳ねたくなったのは筆者の方であった。

ご主人は、軽トラを楽しそうに運転するママるーさんを見て直ぐに、ディーラーに1人で足を運んだのだという。1人で訪ねた理由は、男気(!?)のあるママるーさんなら「買っちゃおう!」と即決すると思ったからだそうだ。

ディーラーの方に経緯を話し、これが良いのではないかと目星を付けたのは“Sスペシャルパッケージ”、ボディーカラーはマシングレーメタリックだった。この色は、2人が出会った時に乗っていた、ママるーさんのグレーのロードスター(NA6CE)と、ご主人が乗っていた黒のRX-7(FD3S)を足して2で割ったような色で、想い出とリンクする気がしたとのことからだ。

試乗してみると、排気量や馬力、サイズ感や軽さのどれを取っても運転しやすく、シフトノブ、サイドブレーキ、各ボタンの配置が身体を動かさなくても触れる位置にあり、35年もの間、マツダが正常進化させ続けた実力を見せつけられた気がしたのだという。そんな感動を奥様と共有したくなり、ついロードスターを見に行った話をしてしまうと…。

「とりあえず、今乗っているクルマの査定に行きました。そしたら、1週間後に納車してくれるなら、今乗っているクルマを高値で引き取ってくれるということだったので、すぐに売却してロードスターの契約をしたんです。善は急げですからね」

やれやれといった表情をしていたご主人だが、子育てやご両親の介護など、いつも笑顔で頑張っていたママるーさんへの感謝の気持ちもあったという。

「あぁ見えて、運転は上手いんですよ」と、腕を組みながら自慢気に筆者に教えてくれるところを見ると、ご主人がどれだけママるーさんを大切にしているのかが伝わってくる。

運転席の取り合いをしながら、糸島方面へとドライブをしたり、佐賀空港で開催されるオフ会に参加したりするのが、週末の日課になっていると嬉しそうに話してくれた。夫婦で寒空の下、カーフィルムを貼ったり、エンブレムを取り付けたりと、時には子供達が嫉妬するほど夫婦水入らずで過ごしているのだとか。

「『やっぱり、お前にはロードスターが似合う!』と主人が言ってくれたんです。それが嬉しかったし、ドライブに行く時は横に主人が座っていないと寂しかったりするんですよ。ロードスターをプレゼントしてくれたことに感謝して、これからも大切に、大切に乗っていきたいと思います」

そう言いながら最高の笑顔をみせ、土埃を巻き上げて走り去っていった。こうしてまた、ママるーさんの幸せの1ページは愛車と共に刻まれていくのだ。

(文: 矢田部明子 / 撮影:平野 陽)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:三池炭鉱 万田坑(熊本県荒尾市原万田200-2)

[GAZOO編集部]

MORIZO on the Road