MT車の楽しさが忘れられず、手に入れたMTの86 目標であり励みでもあったカーライフを再び

  • GAZOO愛車取材会の会場である宮崎県林業技術センター/森の科学館で取材したトヨタ・86GTリミテッド(ZN6型)

    トヨタ・86GTリミテッド(ZN6型)


クルマ好きの中でも、特にスポーツカーに興味を持つ人の多くは『操る爽快感』を重視する傾向が強い。そのため、AT車が中心となっている現在も、よりアナログに運転が楽しめるMT車を中心としたクルマ選びを行なうことも少なくない。

その点で2012年に登場したトヨタ86は、MT車を欲する多くのスポーツカーファンに大歓迎されたことは間違いのない事実。そんなMT車にこだわり、2019年式トヨタ・86GTリミテッド(ZN6型)を、久しぶりのMT車として愛車に選んだのが『マサ』さんだ。

2012年にデビューし、最終モデルが2021年という長いモデルサイクルで販売されたZN6型の86。その仕様は大きく分けると前期と後期の2タイプになるが、限定車や細かい年次改良が加わることで、そのバリエーションは数多く存在している。また、ボディカラーに関しても同様に、追加や廃止を重ねることで86だけでも多くの純正色が存在し、多彩な印象を作り上げている。

マサさんの86は2015年に追加された『アズライトブルー』と呼ばれる濃紺メタリック。ブルー系と言えばスバル・BRZ(ZC6型)の印象が強いが、86にもこんなボディカラーが存在していたのである。

「この86を手に入れる前は、プリウスに乗っていたんですが、そのもう1台前はロードスター(ND5RC型)に乗っていました。このロードスターは自分で色々なカスタマイズを楽しんでいて、スタイリングも走りも理想のカタチに仕上がっていたんです。しかし、腕の手術をしたことでMTのロードスターではミッション操作ができなくなってしまい、手放さなければならなくなって…。乗り換えたプリウスはATだったので、手術後の移動には活躍してくれたんですが、やはりMTのスポーツカーに乗りたい。そう考えることがリハビリの励みになりましたね」

シフト操作に不可欠な腕を手術したことは、MT車を手放さなければならない十分な理由であった。しかし、MTスポーツに乗ることを目指してリハビリを終え、ようやくMT操作が可能な体に復帰したのはマサさんの努力の証。そこで再びスポーツカーを手に入れようと考えたところ、出会ったのがこの86というわけだ。

ちなみに、86に搭載されているエンジンは水平対向4気筒のFA20型。それまでのNDロードスターは1.5リッターエンジンだったので、カスタマイズをして楽しんではいたが、パワーの面で若干の物足りなさを感じていたという。
そこで次の愛車では2.0リッタークラスを考えたということで、必然的に86へと辿り着いたというわけだ。ちなみに、マサさんの後期モデルは最高出力が207psに高められ、132psのNDロードスターと比較すると70ps以上のパワーアップが果たされている。車両クラスやキャラクターが違うものの、よりハイパワーを楽しみたいと考えるのもスポーツカー好きの帰結点とも言えるだろう。

「新しい愛車を探し始めた当初は2.5リッター以下のMTで、4人乗りという条件を考えていたんですが、めぼしい選択肢が見つからなかったんですよ。そこから色々とネットを見てイメージを膨らませていき、最終的には86かBRZという2択で悩んでいました。中でも海外のウェブサイトで見かけたカスタマイズ車が濃いブルーの86でカッコ良く、そのクルマのイメージがあったので青系というところまで決まりました。けれど、青系というとBRZの印象が強いじゃないですか。だからBRZにしようかなって考えていた時に、このアズライトブルーの86を見つけたんですよ。この色が自分のイメージにピッタリ一致したので決めました」

ちなみに、標準車の86ではイメージカラーでもある赤や白、さらに黒といったスタンダードなボディカラーが人気を集めていた。後期から採用されたこのアズライトブルーは、スバル車に使われていたこともあり、あえて86で選択する人は少数派であったと言われている。それだけに、数ある中古車の中でレアカラーとの出会いは運命的とも言えるのだ。

前後に装着されるトヨタのコーポレートマークは、前オーナーの手によってボディ同色にペイントされている。購入当初は外してノーマルに戻そうと考えていたが、しばらく乗ってみると違和感も薄れ、今では自分の愛車のアイデンティティとして残しているという。

エンブレムと同様にテールランプも前オーナーの手によって交換されている。特に86/BRZではカスタマイズパーツも豊富に用意されていて、その中から自分好みのアイテムを取り入れて、スタイリングの変化を楽しむのもクルマ趣味の醍醐味だ。とはいっても、気に入ったパーツが装着されていたなら無理に交換する必要もない。
マサさん自身もこのリヤスタイルがお気に入りで、86を手に入れたら装着しようと考えていたというだけに、むしろラッキーだったと言えるだろう。

ロードスターに乗っていた時はコーナリング時のロールが大きかったため、ビルシュタイン製のサスペンションを装着していたという。この86も手を加えるならビルシュタイン製のサスペンションへの交換を考えていたが、走らせてみるとロール感は少なく乗り心地も上々。むしろ手を加える必要がないと考え直している。しかし、スタイリング面を考えると、ローダウンスプリングなどで車高は下げたいと感じているのは、現状での数少ない欲求なのだとか。

「ロードスターと86を比べると、86は意外と不満な部分が少ないのかな。手を加える必要がないって思えちゃうんですよね。その点、ロードスターはサスペンションをはじめ、色々と手を加えなきゃって感じていましたから。言っちゃえば、ロードスターは僕にとっては“もう一息”という感じだったのかもしれません。だからこそ愛情を注いで自分が納得するクルマに仕上げていったんだと思います。86は優等生すぎちゃって、まだ自分の愛車だって実感が湧いていないんですよね(笑)」

そうは言っても、細かい部分では自身のオリジナリティを高めるカスタマイズを行なっている。純正のリヤウイングはカーボンラッピングを自分の手で行ない、リヤスタイリングのワンポイントとして際立たせている。こう言ったDIYでのカスタマイズを楽しみながら、徐々に愛車としての実感を高めていっている模様だ。

また、納車時にはスタッドレスタイヤを履いていたこともあって、理想に近づけるためにホイールは新たに入手してインチアップ。アズライトブルーの86を手に入れるきっかけとなった海外の86と同様に、まずは友人から譲ってもらった18インチを組み合わせ、カスタマイズのファーストステップを踏んだ。
しかし、このホイールはまだ暫定の仕様。今後はさらに自分好みのデザインを見つけて、トータルバランスを考えながら愛車としての満足度をより高めていく予定だそうだ。

また、ホイール交換とともに行なったのはブレーキのブラッシュアップ。ブレーキメーカーとしてモータースポーツにも力を入れているプロジェクトμ製のローターとパッドを組み合わせ、制動性能のアップを図っている。しかし、選択したパーツは街乗りメインのマサさんにとってオーバースペックだったようで、ブレーキローターが適正温度に温まるまでは効きが今ひとつというのは想定外だったそうだ。

ノーマルで左右2本出しのマフラーは、見た目もサウンドも不満なし。前オーナーもノーマルマフラーのまま乗っていたようで、意外とクルマに対する好みやフィーリングは自分と近いのかも? と共感しているのだとか。

「手術をした時は、もうMTは無理かなって考えていたんです。でもやっぱりMTのスポーツカーに乗りたいという気持ちがあって、諦めきれなかったからこそリハビリも頑張れたんだと思います。こうして86に乗っている今を思えば、あそこで諦めていたらこの楽しみは体感できなかったのかもしれませんし、生活も大きく異なっていたかもしれません」

MTが操作できるように復活した現在は、通勤から休日のツーリングまでこの86をフル活用している。特にツーリングでは宮崎から3時間ほど走る阿蘇山の大観峰など、スポーツカーが集まるスポットにも積極的に訪れているという。購入から9ヵ月という短い期間ではあるものの、徐々に自分色に染め上げているマサさんの86。まだまだ濃密な時間を過ごしたNDロードスターとの思い出が脳裏に残っているが、そのロードスターを超える愛車として各地を巡り、さらに満足度を高めていくのは今の目標でもあるのだ。

クルマは移動手段であるだけでなく、趣味や人生の目標にもなり得る。だからこそ、様々な人の好みに合わせた多種多様なモデルが存在し、それぞれに違った形で愛情を注ぎ込んでいる。中でも走りを楽しむために特化したスポーツカーは、クルマ好きにとっては象徴的存在と言える。

だからこそ、マサさんも術後のリハビリを懸命に行い、再びMTスポーツオーナーへと返り咲いたのである。忘れられないMTスポーツの爽快感。この感覚をいつまでも楽しみたいという考えこそが、術後のマサさんの人生をプラスに変えた最大の要因であることは間違いないだろう。

(文: 渡辺大輔 / 撮影: 西野キヨシ)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:宮崎県林業技術センター/森の科学館(宮崎県東臼杵郡美郷町西郷田代1561-1)

[GAZOO編集部]