世界で一台の『“謎グルマ』MR2に心を打たれ、出会ったその日に衝動買い!!

  • 宮城県石巻市のオシカーズのミーティングで取材したトヨタ・MR2

    トヨタ・MR2



2011年3月11日に発生した東日本大震災からまもなく14年。美しいリアス式海岸で知られる宮城県の牡鹿半島も津波による甚大な被害に遭った地域だが、地元のクルマ好きによって復興支援イベントとして開催されているカーイベントがある。観光と物産支援を目的としたフリーミーティングで、毎月開催される例会のほか、1年を締め括るスペシャルミーティングとして毎年11月に開催されるのが『オシカーズ鮎川自動車大博覧会』だ。

参加車両は国産、外車、新車、旧車を一切問わず…とは言うものの、これは一体ナニモノなのだ? というのが、ここで紹介するクルマである。
鮮やかなイタリアンレッドのボディカラーに丸目2灯のヘッドランプ、丸形テールランプなどエクステリアのディテールは1960年代にフェラーリが製造した名車ディーノ風。

しかし見たことのない個性的なマシンの正体は、ドアとピラーの形状ですぐに判明。そう、ベースになっているのはトヨタのミッドシップスポーツモデル、MR2(AW11型)だ。

「そうなんです。このAW11だけでななく、2代目のSW20型も含め、MR2ベースのオリジナルキットカーはいろいろ存在しますが、このクルマはそれらとは異なり、世界で1台しかない完全オリジナルのボディなんです。製作したのは前オーナーで、約20年前に1989年式の後期モデルの中古車を、プレジャーボートなど製造するFRP加工業者に持ち込んで作り上げたものと聞いています」

なんと世界に1台! そんな世にも珍しいクルマとなれば、どこで探し、どうやって手に入れたのかも気になるところだ。

「購入したのは7年前です。私は住宅の内装業をやっているのですが、そのお客さんから『高齢になった父親が、好きで集めていたクルマを譲渡したいと言っている…』と、相談を受けたのがキッカケでした」

聞けばコレクションは国内外の名車がたくさん。そこで興味があるという友人を探して、その付き添いでご実家を尋ねたのですが、そこにあったのがこのMR2だったのです。私はすでに趣味のクルマとしてフェアレディZ(Z31型)に乗っていたので、クルマを増やすつもりは毛頭なかったのですが、もう一目惚れでした。

「これも譲ってくれるんですか?」と聞くと『いいよ!』とおっしゃるので、急いで自宅に戻って、資材置き場となっていたスペースにこのクルマが収まるかどうかを確認。そうして、新たな愛車として迎え入れることにしました」

単なる付き添いとしてお宅に伺っただけなのに、まさかそこで自身がクルマを購入することになるとは、それこそ運命的な出会いだったという他ない。

こうしてフェアレディZに加え、MR2を増車したオーナーさん。過去には様々なクルマを乗り継いできているそうで、クルマ好きになったキッカケも気になるところだ。

「私は青森県の津軽地方出身なのですが、子供の頃は野球に明け暮れ、高校は県内でも屈指の強豪校に進みました。その頃に興味を持ったオートバイがキッカケで、クルマも好きになりました。卒業後は師匠のもとで内装職人の修行をはじめまして、18歳で免許を取得してからは給料の殆どをクルマにつぎ込む生活。初代チェイサーの2ドアSGSを夜な夜なカスタマイズするなどして楽しんでいました」

「当時はオーディオや無線なども、かなりこだわっていましたね。元々はスピードが好きなので、その後もレパードやBMW 3シリーズ、フェアレディZ(S30型)などを乗り継ぎました。仕事用のクルマでも、ステージアの走りが気に入り、今乗っているので4台目になるんです」

さてここからはさらに詳しくMR2の細部をチェックだ。聞けばオリジナルのモデル名などは特になく、車名はあくまでもMR2。車幅変更により3ナンバーとして公認車検を取得している。前オーナーが細部に至るまでこだわって実現したスタイルは、フロントが一体型のチルトカウル、リヤはトランク部分を延長してフロントとのバランスのとれたものとしているのが特徴だ。

「製作にあたっては、とくに特定の車種のレプリカを目指したのではなく、あくまでも前オーナーが考える理想のスポーツカースタイルを追求したもの。自動車専門の職人さんが作ったものではないので、リヤのトランクの延長部やフタだけの給油口カバーなど、苦労の跡が見受けられる部分も多いですよね。灯火類も手に入れやすいものを選んだようで、ヘッドライトはフォルクスワーゲン・ビートル、フロントバンパーに埋め込まれているウインカーはトヨタ・マークⅡ、サイドマーカーは三菱・ミニカ、テールランプはバス用なんです」と、手作り感にあふれているのもこのクルマの特徴だ。

世界に1台限りのワンオフボディとなれば、万が一の際には簡単に修復できるものではないはず。その辺りも含めて維持していく上での注意やご苦労も気になるところだ。

「基本的にはドライブやイベント参加がメインで、近年の走行距離は1年間で約3000kmといったところで、もう1台所有しているZ31と半々くらいで乗り分けています。このMR2の魅力は、なんといっても他にはないスタイルなのに乗りやすいといった点です。中身はMR2ですから信頼性も十分ですし、定期的なメンテナンスで快調を維持できるのも良いですね」

ただ、購入直後には自身の不注意から、エンジン載せ替えが必要になる大きなトラブルも経験しているという。

「このMR2を購入してすぐでしたが、一度思い切り走らせてみたいと思っている時に、仲間から誘われてスポーツランドSUGOでサーキット走行をしたんです。しかし、走りに夢中になりすぎてタコメーターを確認する余裕もなく、オーバーレブでエンジンをブローさせてしまいました。そこで中古の同じエンジン(4A-GE)を探してもらい、載せ替えたのがこれまでで最大のトラブルですね。その反省を踏まえ、もうエンジンを壊さないようにと大型のタコメーターを追加しました。その他、スポーツタイプのシートとステアリングも好みのものに交換しています。車高調整式のサスペンションやワーク製の特注ホイールは前オーナーが装着したものですが、最近手を加えたのが、3ヵ月前に装着したばかりのリヤウイングです」

「もちろん手放すことはなく、今後も大切に乗っていくつもりです。機会があれば、またサーキット走行もしてみたいですね。ただ私も今年で61歳になりましたので、いずれはこのクルマを誰かに託すことになりますが、5歳の孫が『ボクが乗る!』と言っていますので安心です(笑)」

そのバトンリレーまで、最短であと13年。現在の走行ペースでいくと、今から地球一周を回ってくると同時に、お孫さんにバトンタッチできるという算段である。

(文: 川崎英俊 / 撮影: 堤 晋一)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:鮎川浜山鳥渡し駐車場 (宮城県石巻市鮎川浜)

[GAZOO編集部]