弟の愛車だったMR2を受け継ぎ、その魅力を満喫する日々

  • 宮城県石巻市のオシカーズのミーティングで取材したトヨタ・MR2 G-Limited (AW11)

    トヨタ・MR2 G-Limited (AW11)



日本の市販車として初めてミッドシップレイアウトを採用し、生産終了から35年が過ぎた今も根強い人気を誇るトヨタMR2(AW11)。まずはそんな名車を、数奇とも言える縁で手にすることとなり、愛車となったAW11で『オシカーズ鮎川自動車大博覧会』に参加することに。そんなオーナーと愛車が紡いできたエピソードを紹介しよう。

「元々は弟がSW20型のMR2に乗っていました。それが台風で水没してしまい、新たに購入したのがAW11だったんです」

同じSW20ではなく、ひとつ前のAW11になった理由は、昔からクルマやバイクが好きだったという父親の一助があったという。子供の頃からドライブやツーリング、時にはレース観戦に連れて行ってもらい、今もクルマのゲームでよく対戦する仲だ。
そんな父親が高校生の時に鮮烈なデビューを飾ったというAW11は、自分自身が乗りたかったスポーツカーの1台であると同時に、前例のないクルマがゆえに未完成な荒削りさも魅力だったという。

紆余曲折を経て弟さんの元へやって来たのは、前期型NAエンジン搭載モデルの最上級グレード、G-Limitedである。
AW11の入手以降は、新たな相棒としてカーライフを満喫していた弟だが、子供が産まれたことでファミリーカーが必要となった。とは言っても愛情も愛着もたっぷりなAW11が、まったく見も知らぬ他人の手に渡るのは忍びない。そこで名乗りを挙げたのがここに登場する兄であった。

「本当は三菱のFTOを買うつもりで貯金していたんです。でもAW11も間違いなく面白いクルマだし、家族の一員としての思い入れもありました」

AE86など、当時の軽量なスポーツカーの中で、決してメジャーな存在ではなかったAW11。愛車の初年度登録が1984年7月という、最初期(AW11の販売は1984年6月から)に相当するモデルだ。

それを証明するのが、なんと“木製”の純正リヤスポイラー。当時の技術ではFRPによる成型が困難だったようで云わば苦肉の策だったのだろうが、その希少性が所有欲を刺激する。

もうひとつのレアな装備が“ムーンルーフ”である。AW11でよく見かける“Tバールーフ”はマイナーチェンジ以降で、天窓が跳ね上がるムーンルーフは前期モデルにしか存在しない装備。
また当時はオプションとなることが多かったパワーウインドウもG-Limitedならば標準装備となる。
さらに、クルマや装備がレアなことだけじゃなく、オーナーはその独特の乗り味もお気に入りだ。

エンジンが座席の真後ろにマウントされるミッドシップは、ドライバーを軸にしたような操縦性で手強さを感じる反面、人馬一体ならぬ人車一体の鋭いコーナリングを味わえる。さらにダッシュボードとセンタートンネルに囲まれるようなコクピットや、車高がノーマルにもかかわらず地を這うような低いアイポイントも魅力と語る。

とは言え、古いクルマだけにトラブルも少なくはない。手に入れてすぐにヘッドライトのスイッチが壊れ、純正パーツが製廃となっていたため、自分で分解し原因と思われる部分の配線をハンダ付けで修理。今年の2月にはプラグコードからのリークでエンジンが不調となった他、ディストリビューターからのオイル漏れも発覚し対応に追われた。

また搭載されている4A-GEエンジンはレギュラー仕様にも関わらず、ハイオクを使わないとノッキングのような症状が出るなど、何かしらのチューニングが施されていた痕跡が散見される。そこで滑り始めたクラッチを交換する際に検証すると、クラッチはメタルで、機械式LSDが入っていることも判明した。

MR2と言えば、ミッドシップならではの回頭性と高いトラクション性能を武器に、長年に渡ってジムカーナで活躍した名車である。

「弟が手に入れる前は1年ほど放置されていたと聞きましたが、おそらくは何らかの競技に使われていた個体だと思います。もっとも、機械式LSDの状態はだいぶ効きが弱っているようで、ハイグリップタイヤを履くと効きが分からないレベルですね」

メンテナンスと併せて愛車のルーツを辿っていくオーナー。知れば知るほどAW11の特異で尖ったキャラクターに惚れ込み、可能な限りノーマルの状態を維持したいと思うようになった。

しかしながら純正パーツは前述したヘッドライトのスイッチと同様、すでに中古を見つけるのも簡単ではない。さらに様々なクルマで使われた4A-GEエンジンは別として、特殊なクルマだけに他車の純正パーツを流用するのも難しいとか。

頑なに何もかも純正パーツを使わなければダメ、となれば費用も含めハードルが跳ね上がるものの、FTOを断念してAW11に乗り換えたときと同様、純正が無ければ社外品と柔軟に思考を切り替える。一例を挙げれば経年劣化が発覚したイグナイターは、当然ながら純正パーツは国内外のどこでも見つからず、中古品もコンディションは似たり寄ったりの物しかない。

「不安を抱えながら状態の分からない中古を使うくらいならと、新品で購入できるTMワークス製のイグナイターに交換しました。エクステリアやインテリアは極力ノーマルにこだわりたいですが、機能パーツに関しては性能やコストパフォーマンスも考慮します」

ノーマルにこだわらないもうひとつのパーツはタイヤ。今の時代ならばミッドシップやFR車に前後異径のタイヤを履くのも珍しくないが、当時の新車には四輪が同一のサイズを使わなければいけないという制約があり、アンバランスさやナーバスな挙動と引き換えに4本ともに185/60R14サイズを装着していた。
そこで理想を追求するべく、フロントタイヤのサイズは変更せず、リヤのみ195/60R14へと、ワンサイズだけ太いものへと変更したという。

メンテナンスやレストアの情報に関しては、オーナー同士のネットワークも重宝している。例えば前述したパワーウインドウの機構部。年式を考えれば致し方ないが、ギヤが壊れるとウワサされており、G-Limitedのオーナーにとっては死活問題だった。しかし代替品を求める声に誰かが応え、なんと3Dプリンターで強化品を製作。今後も同様のケースは徐々に増えていくと思われる。

ちなみに古いクルマを維持する際、オーナーを悩ませるボディの致命的な錆びは幸いなことにほとんど存在していないそうだ。それよりも、今後は同世代となる“ネオクラシックカー”の盗難が増えているということから「カーセキュリティの導入も検討していかなくては…」とオーナーは話す。

父のアドバイスによって弟さんが迎え入れ、次いで兄が受け継いだAW11。決して本命ではなかったはずのクルマだったが、今や同じカラーリングの模型を車内に置くほどのハマりようである。

車齢は既に40年に達し、走行距離は20万㎞を突破したが、これからもファミリーの一員として共に歴史を積み重ねていくことであろう。

(文: 佐藤 圭 / 撮影: 中村レオ)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:鮎川浜山鳥渡し駐車場 (宮城県石巻市鮎川浜)

[GAZOO編集部]

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