【素敵なカーライフレシピ #13】子どもたちに思い出を届ける、圧倒的収納力のエクスプレス
「たっぷりと荷物が積めて、かつ多くの人員を運ぶことができる」。クルマを道具と割り切るなら、欠かすことのできない要件です。
ただ快適性や安全性を求めていくと、すべてのスペックをまんべんなく満たすのは難しくなるのが現代車の大きな悩みでもあります。
かたや、少し前の世代には、優れた使い勝手のクルマがありました。今回登場いただく半澤 透さんの乗るマツダ・ボンゴワゴンもそんな1台です。
半澤さんは、健康的な肌色から漂うイメージ通りのお人柄。活発にアウトドアを楽しんでいます。なかでも自身の所有するヨットで楽しむクルージングは至福の時です。
そんな半澤さんは、長らく親しんでいる海での経験から得た知見を、次の世代を担う子どもたちに伝えるボランティア活動をしています。
空前のアウトドアブームの昨今ですが、楽しさの反面に潜む危険性はあまりクローズアップされていません。半澤さんは、実地体験によって子どもたちに楽しさと危険性、その両方を課外授業で教えているのです。そんな活動を支えているのがボンゴです。
座学ではなく実際に体験しないと身につかないとはいえ、いきなり子どもたちを実際に洋上へ連れ出し教えるのはとてもリスクが高いことです。
そこで自然の環境に出るステップアップの場として選んだのが、なんと学校のプールでした。半澤さんは実際にカヌーやディンギー(動力の要らないヨット)をプールへと持ち込み、体験授業を行っているのです。
「18年ほど前からこうした活動を始めました。実際に溺れるケースが多い着衣の状態でプールに入り、自分の身を守る術を学び、万が一の場合にも落ち着いて適切な行動がとれるように、実際に起こりそうなリアルな状況を想定したレッスン内容にしています」
万が一、溺れかけてしまった際に身近な物を使って身体を浮かせる体験も教えています。
ペットボトルやレジ袋、ランドセルやサッカーボールなど、ごく身近にある物を利用し浮力を上手に使えば、自分の身体を浮かせる手助けになってくれるという、子どもたちにとってはとても得がたい体験ができます。
それらを慣れ親しんだ学校のプールでできることも新鮮です。
カヌーやディンギーの体験では、最初はおっかなびっくりだった子どもたちも、波風のないプールは初めて操るのにとても好都合なこともあり、飲み込みのいい子はめきめきと上達していきます。
ディンギーが堂々と幌を上げ学校のプールを漂う姿はそれこそ非日常で、児童生徒にかぎらず、保護者、先生までも興味深いようで、子どもの時間が終了すると、大人のための時間が始まるのだそうです。
そんな長さ2メートルもあるカヌーやディンギーをまとめて何艇も一度に運ぶことができるのがボンゴです。クルマの積載物を表現するのに「長尺物」というワードがありますが、まさにそれです。
2列目シート、3列目シートを完全にフラットにできるボンゴの利点を最大限に発揮させれば室内に4艇、ルーフには耐荷重の高いバン用のキャリアを装備しているのでそこに2艇以上を積め、小型のカヌーなら最大で6艇以上を積むことができる驚きの収納力です。
さらにフラットにしたシート下の空間も使える構造になっており、ここはカヌーを漕ぐためのパドルを収めるのにぴったりのスペースになります。
東京都内・都下を含めあちこちの小学校へ出掛け課外授業を行う半澤さんにとって、これら膨大な道具一式を一度に搬入できることは絶対条件なのです。
そしてキャブオーバー(エンジンの上に乗員が座る)のボンゴならではの小回り性能。見通しもよく住宅街の入りくんだ道でもすいすいと走ることができます。
半澤さんの水難救助の授業を受けたお子さんの中には、実際に危険に遭った際にそれが役立ち、一命を取りとめることができた方もいらっしゃるそうです。これまでおよそ40回以上も地道な活動を続けてきたからこその成果。もちろん、裏方として活動を支えてきたボンゴの存在も忘れてはなりません。
また、マリンレジャーに関する授業だけでなく小学校の体育館を使ったサマーキャンプも企画・運営している半澤さん。親子あわせて200名という大所帯が参加するキャンプでは、校庭で豚の丸焼きも供される楽しいアクティビティもあり、ひと夏の思い出作りとして充実のコンテンツが揃っています。
喫茶店やケーキ屋さんなど生徒たちが模擬店を出店し報酬を稼げる仕組みを作るなど、大人の世界をちょっぴり体験できる仕掛けも大人気。実際、現役のプロのアナウンサーに、キャンプの実況中継を体験し発声をほめられたことをきっかけとしてアナウンサーの道を目指すことを決めた生徒さんもいたそうです。
何でもネットで疑似体験ができるこの時代。心の底からわくわくする体験を子どもに伝えている半澤さん。
「ボンゴが傍らにいたから、これまで続けてくることができました」と、長年連れ添った相棒を讃えます。
「買ったのはもう27年前になります。当時のクルマ選びの必須条件は、8人乗りで5速マニュアル、排気量は2リッター、燃料はガソリン、駆動は4WD、という5つは外せませんでした。思えばそんなミニバン、今では皆無ですね」
買った当初はオートキャンプがおもな遊び場でした。半澤さんのお子さんが幼少の頃は、キャンプ道具をたくさん積んで出掛けることも多かったようですが、今ではもっぱらヨットクルージングをするため、機材や食材、燃料やクルーを乗せマリーナへ向かう足として活躍しています。
オドメーターは現在15万4000km。7万km時にサスペンション一式を新品へ交換しているのでシャキッとした乗り心地をキープしています。「生涯現役」を保つためにこまめなオイル交換を含めメンテナンスに気遣っています。後席のエアコンもしっかりと効いてくれます。
2WDから4WDへの駆動の切り換え時はちょっとバックする必要があります。新車の頃は感じた煩わしさも、今となっては個性です。
実は東日本大震災の際には、このボンゴを被災地へ寄贈することも考え寄贈先の事務局に問い合わせると「とてもありがたい計らいなのですが、マニュアル車は希望する人がいないのです」との返答が。残念ながら諦めた経緯も今となっては思い出です。
半澤さんのご自宅へお邪魔すると、ガレージの天井を上手に活かした収納術に驚かされます。上からはロープでしっかり固定されたカヌーやディンギーが整然と吊り下げられており、壁面にはサイズ違いのライフジャケットが並んでいます。イベントの規模や参加者の学年によってその都度、適した艇・道具を選んでボンゴに積み込むそうです。
とはいえその作業は簡単ではありません。しっかりと強度が確保されているカヌーは、なかなかの重量だからです。半澤さんはそれを器用なロープワークでひょいとルーフに積み下ろしをしていきます。
「歳とともに辛くなってきましたね」と謙遜しつつもてきぱきした動作は流石シーマン。とことん使い倒してもらってボンゴもうれしそうです。若さを保つエナジーもボンゴから注入されているようです。
そんな半澤さんの活動の一環は、ホームページ「杉並海洋クラブ」( https://suginami-marine.localinfo.jp/ )で見ることができます。
「子どもと接することで学びも多く、毎回たくさんのパワーをもらっています」という半澤さん。それがボランティア活動を続けるモチベーションとなっています。
そして半澤さんに愚直に寄り添っているボンゴ。使い込まれた佇まいからは「ご主人様、朽ちるまで添い遂げますよ」というメッセージを発しているようでした。
(文=畑澤清志/写真=井上 誠、小林和久)
[ガズー編集部]
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