【素敵なカーライフレシピ #22】自由を求めて、旅に暮らすツリーハウス・クリエーターの日常
ツリーハウスとは、その名のとおり「木の上につくられた家」。小林崇さんは、このツリーハウスの日本における第一人者です。
2000年頃からツリーハウスづくりを始め、これまでに手がけてきたツリーハウスは230以上。個人の別荘、リゾート施設、公園、幼稚園/保育園などさまざま。CMや音楽フェスなどでご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。
「僕らのツリーハウスはイメージ図をもとに、現場で木を見ながらつくっていくので、設計図はないんです。素材はその土地にあるものを使い、現地で加工します。できる限り工業製品は使いません」
ツリーハウスはその木や環境に合わせて作られるもので、一つひとつが異なる作品のようなもの。サイズも用途もさまざまで、中には内装をしつらえてエアコンを完備した別荘のようなものまであるというから驚きます。
建てる木の状態や現地の環境、手に入る素材などによって、仕様も工程も柔軟に変わっていきます。プロジェクトごとにチームメンバーが集まるスタイルで、樹木医や建築家などの専門家が入ることもあります。
ひとつのツリーハウスをつくりあげるまでには、子供向けのシンプルなものでも1カ月半くらい、大掛かりなものでは3~4カ月の時間がかかるそう。2020年には4つのツリーハウスを手がけたので、ほぼ1年中旅に出ていたそうです。
「自宅にいるのは年間で45日くらい」という小林さんの日常を支えているクルマは、ランドローバー・ディスカバリー。小林さんにとって、積載量が多く、4輪駆動でタフな車両が求められることはもちろんなのですが、狭い山道を走ることもあり、サイズが大きすぎないことも重要なポイントだそうです。
チェンソーやロープ、工具などの仕事道具が雑然と積まれたディスカバリーのラゲッジスペースには寝袋もあり、車中泊も可能です。冬の厳しい寒さの中でも作業をすることもあるので、防寒アイテムは必須。そしてウエットスーツも積まれています。
「現場によってはサーフボードも積んでいきます。もともとサーフィンが好きで、住まいを鎌倉にしたのもそのためなんですよ」
ツリーハウスとサーフィン。仕事でも遊びでも自由な時間を求める、小林さんらしいカーライフです。
小林さんはこれまで、トヨタ・ハイエースからジープ・グランドワゴニア、トヨタ・ランドクルーザー(70系)から現在のディスカバリーへと乗り継いできました。
「以前はクルマを道具として割り切っていたんですが、ツリーハウスを暮らしの中心にしていこうと思えた頃に、クルマもグランドワゴニアにしたんです」
その後は、ランドクルーザーをとても気に入り長く乗っていたのですが、大きい修理が必要になったのを機に乗り換えたとのこと。さまざまな選択肢の中からディスカバリーを選んだのは、そのバランスにあるようです。
「こういう仕事をしているので自然だけの中で暮らしたい人のように思われがちですが、僕は街も好きなんですよ。移動中は音楽も聴きたいので、ディーゼルでも静粛性の高いこのクルマが気に入っています。リアから見た時の左右非対称なデザインも好きですね」
「ただ、現場に行くと周囲には軽トラとかが多いので、ちょっと気恥しい気もするんですが…」
小林さんがツリーハウス・クリエーターという活動をスタートしたのは2000年代初頭のこと。クルマでアメリカを旅していた時の、ある本との出会いがきっかけでした。
「僕はもともと世の中に馴染めないほうで、ルールや約束事に縛られるのが苦手。古着の買い付けを手伝ううちに、これなら自分でもできるかなと思って古着のショップを始めました。商品は段ボールのまま置いて、お客さんに選んでもらうという変わった店でしたが、これが結構評判になって、ファッション雑誌にも取り上げられるようになったんです」
古着の買い付けでアメリカを旅する時は当然クルマ。大きいバンで各地を巡りながら、古着やデッドストックを探したそう。
「泊まるのはモーテルや、パーキングでそのまま車中泊。国立公園でキャンプみたいなこともしましたね」
そんなアメリカでの買い付けの旅の途中。ボストンのブックカフェでツリーハウスの写真集を見つけた小林さんは「こんなに楽しそうなものがあったんだ!」と感動。日本に戻った後、原宿の店舗を使って、独学でツリーハウスづくりへの挑戦を始めました。
「写真集で見た中でも、ピーター・ネルソンのツリーハウスが一番でした」
ピーター・ネルソンはツリーハウス建築の世界的な第一人者。アウトドア雑誌の招きでピーターが来日した際、通訳として一緒に仕事をしたことをきっかけに、彼との交流が始まりました。
「原宿でつくった小屋を見せたら、ファッションの街にツリーハウスをつくっている僕のことを面白がってくれて、毎年オレゴン州で開催されているツリーハウスの国際イベント「WTC(World Treehouse Conference)」に招待されたんです」
日本代表としてWTCに参加した小林さんはそのまま数カ月、アメリカからハワイへとツリーハウスの現場に滞在を続けた後に帰国。そこからツリーハウス・クリエーターとしての活動を本格的に行うようになりました。
テレビのCMにも起用されるようになり、順調にスタートした小林さんのツリーハウスづくり。2005年には会社組織としてツリーハウスクリエーションを設立し、世界中のツリーハウスビルダーとも連絡を取り合いながら、ツリーハウスの魅力を発信しています。
「飽きたら辞めようと思って始めたんです。ビジネスとしてやっていくのは嫌だったので、『好きだ』という気持ちだけに正直でいようと。結局それが20数年続いています」
フィジカルディスタンスを保ちながら楽しめることで人気を集めたグランピングの先にあるものとして、いままたツリーハウスへの関心が高まってきています。
ツリーハウスは生きた木の上に建てられる上に、風雨にさらされることで劣化が進みやすいため、クルマと同じようにメンテナンスがとても重要です。ツリーハウスを安全に楽しんでもらえるために、後進の育成などまだまだ取り組むべき課題があるそう。
「ツリーハウスづくりに正解はありません。僕のチーム以外にも、それぞれのスタンスでツリーハウスづくりに携われる人たちがいてもいいと思うんです。ツリーハウスビルダーの養成講座もやっていきたいですし、もっと手軽にツリーハウスをつくれるキットのようなものがあってもいいですよね」
コロナ禍で延期が続いていますが、例年は友人のいるロサンゼルスのほか年に数回、リサーチや休暇で海外に滞在するという小林さん。中国や台湾、オーストラリアなど海外からもツリーハウスづくりの依頼が寄せられているそうです。
「世界に知らないところはまだまだたくさんある。いま行ってみたいのは南米。日本とは木も森も全く違いますし、挑戦するのが楽しみです」
と語る小林さん。自由を求める小林さんの旅は、これからも続いていくことになりそうです。
これまで小林さんが手がけてきた国内のツリーハウスは森の中だけではなく、公園やカフェなど気軽に訪れることができるものもあります。気になる方は訪れてみて、部屋の中から光や風を感じてみるといいかもしれません。
木の上に流れる、日常と違った時間を過ごすことができるはずです。
協力:株式会社ツリーハウスクリエーション
http://www.treehouse.jp/news_koba/
(文:本橋康治 写真:湯村和哉)
[ガズー編集部]
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