【素敵なカーライフレシピ #28】完璧じゃないからこそ愛おしい。いすゞ車との暮らしを楽しむファミリー

寒川町(神奈川県)にある亀ケ谷隆行さんの自宅を訪れると、最初に目に飛び込んできたのが鮮やかな「トーチレッド」のジェミニ・イルムシャー・タイプコンペティション。
日本車の歴史に残る数々な名車を生み出してきたいすゞですが、その「最後のオリジナル乗用車」となったのがジェミニです。

亀ケ谷さんの愛車イルムシャー・タイプコンペティションは、その中でもひときわ希少なモデル。生産台数は50台、亀ケ谷さんの乗る4WDはそのうちの30台です。
「免許を取得してすぐ手に入れたのがジェミニで、それ以来、愛車はずっといすゞです。ベレットにも25年間乗っていますが、全く飽きないどころかベレット愛は深まるばかりです。コンペティションは3年前に仲間に加わりました」

現在はこのタイプコンペティションと、ベレット1600GTRとジェミニ・イルムシャーという3台を所有。他にも日常の足としてスズキ・ワゴンRなどを使っている亀ケ谷家。
近所の方たちからクルマに関するアドバイスはもちろんのこと、簡単なパーツ交換などの作業を依頼されることもあるそうです。

祖父の代から始まり、父、母から隆行さんへと受け継がれてきた亀ケ谷家のクルマたち。
「父がいすゞに勤めていた関係で、常にいすゞ車が周りにありました。私が実家にいた頃は、父がアスカ、母が117クーペ、私がジェミニに乗っていた時もありました。“簡単な修理は自分でするのが当然”という環境で育ったので、消耗品やパーツは常にガレージにストックしています。難しいことはプロにお任せしていますが、整備士もしていた父にも指導を受けながら、メンテナンスも楽しんでいます」

ベレット1600GT-Rが収まるガレージには、亀ケ谷さんがネットオークションなどを通して長年集めてきたベレットやジェミニなどの貴重なパーツ類が分類されています。ご自分のクルマだけでなく、いすゞ車オーナー仲間の愛車のピンチを亀ケ谷さんのパーツが何度となく助けてきたそうです。

「『うちのクルマは普通の家とずいぶん違うんだな』と自覚したのは小学校の頃でしたね」と語るのは亀ケ谷さんの長女・帆南さん。
幼いころから、家族4人でドライブに行こうという時にも迷わず「ベレットで行きたい!」という子供で、お父さんの隣に乗っているうちに刷り込まれてしまったようです。

「お父さんの運転するクルマでは常に浜田省吾の曲が流れているので、私もいつの間にかすっかり覚えてしまいました」
家のクルマを運転するため、当然のようにMT免許を取得し。周囲の友人からは驚かれたという帆南さん。本人は特別にクルマ好きという自覚はないとのことですが、ポテンシャルは高そうです。

帆南さんもジェミニが大好きで、現在は家のジェミニ・イルムシャー・タイプコンペティションでマニュアル車の運転を練習中です。
タイプコンペティションは開発者の名前が冠された「ニシボリック・サスペンション」を搭載した独特の足回りが特長のクルマ。まだまだ一人でドライブに行ける状態ではないので、父の隆行さんを隣に乗せて練習中。亀ケ谷家の近くに流れる相模川の河川敷など、練習コースには困らないそうです。

長男の拓也さんもいすゞ車や旧車のイベントに連れられて参加しているうち、順調にクルマ好きに成長しました。免許を取得した後は、身近にあったジェミニでカーライフをスタートしました。

「長男は私とカスタムの方向性が全く違うんですが、クルマの楽しみ方はそれぞれなので、自分の考えを押しつけるようなことはしたくないですね」という亀ケ谷さん。これもクルマ好き同士が上手くやっていける秘訣と言えそうです。

現在は自動車メーカーに勤めているという拓也さん。ジェミニ・イルムシャーとA111型トヨタ・カローラ・レビンの2台を所有していますが、さらに仕事用の足グルマとして別のクルマにも乗っています。

子供たちと同様に、亀ケ谷さん自身のいすゞ好きも父親譲りです。物心ついた頃にはすでにいすゞファンになっていたそうです。今も残る家族のアルバムの写真には、いつもいすゞのクルマが写っています。

「小学生の頃、父が乗っていたベレットに心酔してしまい、それ以来特別なクルマになっています。スーパーカーブームのときもフェラーリやランボルギーニよりベレットでした」

70年代の頃に起きたスーパーカーブームでは、子供たちはカメラを手にスーパーカーの写真を撮ってまわったものですが、亀ケ谷さんの記録の対象はやっぱりベレットでした。自転車で走り回ってベレットを撮影して回り、撮った写真や中古車店のチラシをスクラップ。さらに記録地点の地図まで記録したノートがいまも残っています。自室には、いすゞ車のミニカーをコレクションしているそうです。

かつて父親が勤めていたいすゞの藤沢工場の隣接地に設立されたミュージアム「いすゞプラザ」は、亀ケ谷さんにとっては大切な場所。いすゞの歴史を彩ってきた名車が多数展示されているだけでなく、希少な車両の特別展示など、さまざまな企画が開催されています。

現在の亀ケ谷さんは、特定のグループに所属せず、オープンなスタンスで愛車との生活を楽しんでいます。

「パーツ類も年々希少かつ高価になってきていますし、すでにメーカーが乗用車を生産していないので、維持をしていくにはオーナー同士のつながりは貴重です。今はネット経由でいろいろな出会いが生まれています。タイプコンペティションの開発に携われていた技術者の西堀稔さんとも、ソーシャルメディアを通してお付き合いいただくようになったんです。ファンとして嬉しいですね」

その西堀さんが開発した「ニシボリック・サスペンション」など、他に例を見ない斬新な試みにチャレンジしてきたのがいすゞの魅力。その完璧ではない面白さに、今もファンは魅かれているのかもしれません。

亀ケ谷さんが習慣にしているのは、毎週日曜日の宮ケ瀬渓谷へのドライブです。宮ケ瀬渓谷はパーキングも広く、首都圏のクルマ好きたちが集まるスポットの一つです。亀ケ谷さんの自宅からは1時間台で行ける距離。峠道を通って湖畔へと向かうルートは、ドライブコースとしては最適です。外出先でも声をかけられ、会話も弾むそうです。

「特に誰かと会うということではなく、宮ケ瀬のパーキングになんとなく集まるクルマ好きの方たちと愛車談義を交わすのが気軽で楽しいんです。意外なクルマに出会えることもあって、楽しいですよ」

亀ケ谷さんの休日の過ごし方は必ずしもクルマ最優先ではないそう。自宅からは海も山も適度に近い距離にあるので、テニスや釣り、ゴルフ、登山など、さまざまなスポーツやレジャーを楽しめるそう。ガレージにもテニスラケットやゴルフクラブといった遊びの道具が並んでいます。

クルマだけにのめり込まず、家族と一緒に楽しめる趣味もバランスよく楽しむ。そんな亀ケ谷さんのスタイルだからこそ周囲からも理解され、古いクルマとの暮らしが円満に成り立っているのかもしれません。

(文:本橋康治/写真:湯村和哉)

[ガズー編集部]

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