苦しんだ時期を経て気が付いた、プリメーラとスカイラインとイラストがつなぐクルマ好きの縁

  • 日産・プリメーラとトヨタ・ランティス


愛車スカイラインとプリメーラの画像や、コミカルに描かれたクルマのイラストをSNSに投稿している「づきたろーさん」。スカイラインを購入する少し前にうつ病を患い、クルマを所有することに罪悪感を抱き、長く苦しんだそう。そんなづきたろーさんとスカイライン、プリメーラのお話です。

――づきたろーさんがクルマに興味を持ったのは、いつのころからか教えて下さい

物心がつくころには、既にクルマが好きでした。父の話では2歳のころ、たまたま父が視聴していたアニメ映画『ルパン三世カリオストロの城』のカーチェイスシーンに反応し、釘付けになっていたそうです。それからは自分でビデオを再生し、繰り返しカーチェイスシーンを見ていたと聞いています。

5歳で『頭文字D』に夢中に。小学校に通うころには母に旧車雑誌を買ってもらって愛読し、休み時間はクルマの絵を描く日々を送っていました。

――小学生で旧車雑誌は、ずいぶんと筋金入りですね……

父はクルマホビーを趣味にしていて、私も年に1度、恵比寿にあった老舗玩具店『ミスタークラフト』へ連れて行ってもらえました。そのたびにミニカーを1台、買ってもらえたのですが、手に取るミニカーも旧車ばかりでしたね。ちなみにそこからミニカーを集め始め、今は1000台ほど所有しています。

  • づきたろーさんのミニーカーコレクション

――数もそうですが、その物持ちはたいしたものです。やっぱりミニカーの次はプラモデルですか?

それが有機溶剤の臭いや危険性から、母に止められて。というか父ですら、プラモデルは禁じられていたんです。それで父は自作のペーパークラフトを始め、多くの車種の(ペーパークラフト用)展開図をホームページで公開していました。その影響で、私もペーパークラフトを作り始めます。

小学校3年生の時、初めてトヨタ(4代目)スプリンタートレノのペーパークラフトを展開図から自作し、冬休みの自由課題で提出しました。

  • づキタローさんが作ったペーパークラフト

――小学校3年生でこの完成度はすごい! 今も自作ペーパークラフトを作られているんですか?

はい。最新作はルパン三世に出てきたクルマたちです。

――それでは次に、実車についておうかがいします。まず、づきたろーさんの、愛車歴を教えて下さい

8年前、大学生の時に日産(8代目)スカイラインクーペGTS-tタイプMを購入。一昨年に日産の(初代)プリメーラを買いました。

――スカイラインからプリメーラへの買い替えですか?

いえ、増車です。今も両方を所有しています。

――それでは最初にスカイラインについてうかがいます。購入に至った経緯を教えて下さい

最初にスカイラインを意識したのは、テレビ番組『プロジェクトX』でプリンスR380の開発話を扱った回です。この時、登場したスカイライン2000GTに強く惹かれました。

(8代目)スカイラインに興味を持ったのは、高校生の時ですね。仲の良い先生の乗っていた(8代目)スカイラインセダンGTS-tタイプMが格好良く、つい「俺もいつかスカイラインを買う!」って宣言しちゃいました。その時、先生は苦笑いを浮かべて「古いし、やめとけ」って答えてくれたのを、よく覚えています。

大学では自動車部に入部。入部当初、欲しいクルマを聞かれて「(8代目)スカイラインGTS-t」と答えたんです。他の新入生がタイプRとかスポーツカーを挙げる中、GT-Rでもないスカイラインを挙げたことで、先輩たちの印象に残ったそうです。おかげで自動車部に「(8代目)スカイラインGTS-tの譲り先を探している人がいる」という話が持ち込まれた際、すぐに私に持ちかけてくれました。

――そのスカイラインが、現在、所有されるスカイラインなんですね

  • 日産・スカイラインGTS-t R32型

はい。走行距離こそ17万キロ近くありましたが、ボディも内装も綺麗で、大切に乗られていたことがうかがえるスカイラインでした。ただ、すんなりと購入することはできなくて……。

――何か問題が?

「学生の本分は勉強。クルマなんて不要」と、父親に反対されたんです。実際のところ自動車部への入部も、いい顔はされていませんでした。当時の私は未成年で、自動車の購入には保護者の同意書がどうしても必要だったんです。そこでオーナーさんには少し時間をもらい、両親を相手にプレゼンを行うことにしました。

自分がクルマを購入するために、どれだけ努力をしているか、学業をおろそかにしてないかを納得してもらうべく資料を作成。このために取ったわけではないのですが、“学業成績優秀賞”受賞の実績が説得力を増してくれました。結果として「そこまでしているのなら……」と、渋々な感はありましたが、購入を認めてもらえました!

  • 日産・スカイラインGTS-t R32型のリア

――やりましたね! では、いよいよスカイラインの購入ですね。納車日はワクワクしたんじゃないですか?

それが納車の少し前に、うつ病を患ってしまって……。

――ええっ!?

そこまで色々と頑張りすぎたことと、大学や自動車部での人間関係が原因だったのでしょう。ただ、納車の時点では、まだ病院にかかっていなかったので、気力を振り絞って受け取りや手続きを行いました。

そんな状態ですから、やっと購入できたスカイラインに乗っても「自分なんかが、クルマに乗っていいのだろうか?」って、ネガティブな気持ちで一杯。自動車部の練習会は、先の人間関係と私の運転技術が未熟だったことが重なり、ひたすら苦痛でした。

納車から4ヶ月ほど経った頃には、布団から出ることすら困難な有様に。そこでやっと病院にかかり、自身がうつ病であると知れました。大学の講義に出ることができず、単位がわずかに足りなくて留年。とてもスカイラインを維持できる状況ではなかったのですが、両親の温情で実家に置いてもらえることになりました。

1年の留年で卒業はできたのですが、まだ就職できるほど症状は安定しておらず、1年半ほど職に就けない時期を過ごします。症状が安定するまで5年以上、ネガティブな気持ちに苦しみました。けれど今にして思えば「悪いことばかりではなかった」と感じています。

運転も整備も得意とはいえず、クルマを持つことに罪悪感を抱いているのに、依然としてクルマを好きでありつづけている。「なんで、クルマなんてこりごりだと思わないんだろう? 自分はクルマの何が好きだったんだろう?」と振り返り、幼くしてルパン三世のカーチェイスシーンに夢中になったことや、小学校の休み時間中、ひたすらクルマの絵を描いていたことが思い返され、あらためて“クルマをとりまく物語が好きだったんだ!”って気付けました。

――辛かったでしょうけど、無駄な時間ではなかったんですね

はい。就職先が見つかり、経済的に自立できたことでプレッシャーが減ったんでしょうね。次第にクルマやSNSでの交流が“楽しい”って感じられるようになりました。そこでクルマ趣味をやり直したく、スカイラインより実用性の高いクルマの購入を検討。ネットオークションを眺めていたら、程度の良いプリメーラが目にとまりました。

  • 日産・プリメーラ

――それが現在、所有されるプリメーラですか?

そうです。元々、プリメーラは欲しかったクルマです。思いの外、早くスカイラインと出会い、運良く購入することができましたが、そうでなければプリメーラを購入しようと考えていました。

トランスミッションはAT。グレードは初期型の2.0Te。欧州に向けた固い足回りを持つ、まさに欲しかった仕様です。SNSの仲間たちが背中を押してくれたこともあり、ドキドキしながら入札し、無事に落札。知人の経営する自動車整備工場に持ち込んで初期整備をお願いし、購入から半年経った昨年(2023年)6月に納車されました。

――あらためてのクルマの納車、お気持ちはいかがでした?

納車を心待ちにするワクワク。そして、スカイラインを買ったときに感じられなかった「自分のクルマを買った!」という高揚感でドキドキしっぱなしでした。納車日はプリメーラから離れがたく、つい車中泊しちゃいました(笑)

  • 日産・プリメーラと桜

――いきなりの車中泊、づきたろーさんの喜びが伝わります。スカイラインやプリメーラでの、思い出深い旅行やドライブはありますか?

スカイラインは満足に乗ってあげられなかったこともあって、色々とメンテナンスが必要な箇所が出てしまい、今は半不動状態です。なので旅行やドライブはプリメーラで出かけています。思い出深いのは、主に広島市で開催しているミーティング『AUTODIA』に参加したことですね。

SNSでミーティングの告知を見て、参加したくはあったのですが、埼玉県から広島県はあまりにも遠い。どうしようか悩んでいたところ、主催の方から「マツダのランティスを所有するオーナーと、互いにクルマを乗り合いながら来てはどうか」と話を持ちかけられました。

ランティスのオーナーは私ともSNS仲間で、関東に在中。「それは面白そう」と連絡を取り合い、互いのクルマをインプレッションしながら広島市までドライブしようと話がまとまりました。

  • 日産・プリメーラの走行シーン

――いかがでした、広島までの道中は?

ロングドライブの疲れを感じないくらい、楽しかったですね。プリメーラは足回りが固く、少ないサスペンションのストロークで走らせる。ランティスはしなやかに動くサスペンションで走らせる。とても好対照な2台でした。

――やっとクルマ趣味を満喫できるようになれたんですね

はい!遅れてきた青春、ってやつですね(笑)

――それでは次に、創作活動とSNS活動についてうかがいます。づきたろーさんはSNSにクルマのイラストを投稿し、また同人活動もされています。イラストを描き始め、またSNSへの投稿を始めたのは、いつからでしょう?

先ほども触れましたが、クルマの絵は小学生のころには描いていました。高校生になってSNSにイラストを投稿し始め、イイネ!やコメントをもらえるのが嬉しく、それがモチベーションになって現在まで続いています。初めてイイネ!を100もらえた日も、しっかりと覚えています(笑)

  • 日産・スカイラインGTS-t R32型のイラスト
  • 日産・プリメーラのイラスト

――投稿されるイラストは、やっぱりクルマですか?

高校生の頃から今も変わらず、クルマとルパン三世です。“ルパン三世に登場したクルマを掘り下げる”といったテーマで同人誌も出しており、これまでに3作ほど制作しました。

同人誌はクルマを中心とした同人誌即売会やフリーマーケットイベント、あとはルパン三世のオンリーイベントで頒布しています。今後はオリジナルのクルマ同人誌も制作する予定です。

――完成したら是非、拝見させて下さい。づきたろーさんは、愛車のイラストを描いてくれるサービスも行っています。こちらはどういった経緯で始められたんですか?

クルマのフリーマーケットイベントで、とある入場者さんに「愛車のイラストを描いてくれ」って頼まれたのが切っ掛けです。その後、どれほど需要があるのかと思い、SNSで「愛車のイラストを描きます」って告知したら、あっという間にキャパシティを超える依頼をいただけました。今はSNSでの募集を停止し、友人やSNSの相互フォロワーからのみ受け付けています。

  • マツダ・コスモのイラスト
  • フィアット500のイラスト

――投稿したイラストには様々な反響があると思います。特に思い出深かった反響を教えて下さい

それなら、歴代マツダカペラ集合イラストの反響ですね。MAZDA6(アテンザ)の生産終了により、カペラの系譜も終了。感謝の気持ちを込めて初代カペラから最後のアテンザまでを描き、ポスターのように配置して一枚に収めました。

SNSに投稿するや、たくさんのイイネ!やコメントをいただきました。かつてカペラに乗っていた人、父親が所有しその助手席や後部席に座っていた人などが、当時を振り返るコメントを残してくれるんです。様々な人生、そして人とクルマの結びつきを小出しに見せてもらった気がして、思わずジーンとしてしまいました。

これにちょっと味を占め、別の車種で歴代モデルをまとめたイラストをシリーズ化しようと考えています。もっと多くの人の声や思い出話を聞けたらいいですね。

  • フィアット500とカペラ、アテンザ、マツダ6のイラスト
  • レオーネとレガシィのイラスト

――かつて自分の家族が乗っていたクルマが描かれていたら、つい見てしまいますね。それでは最後になりますが、づきたろーさんとスカイライン、プリメーラとの関係を一言であらわしていただけますか?

私という人間を紹介してくれる名刺みたいな存在です。スカイラインとプリメーラに乗っていれば、最初に「そういう人なんだ」って分かってくれますし、そこから「なんで旧車なんですか?」って話に繋がる。次からはクルマを見かければ、私を思い出してくれるかもしれない。

とはいえ私の存在感はスカイラインに負けています。名刺でいえば、肩書きに相応しくないといったところでしょうか。もっと自分をしっかりと持ち、スカイラインに相応しいオーナーになりたいですね。

苦しみを乗り越え、遅れてきたクルマとの蜜月を謳歌するづきたろーさん。これからも愛と思い入れの詰まったイラストを投稿し、多くの人の“懐かしむ気持ち”と思い出話を引き出すのでしょう。

【X(Twitter)】
づきたろーさん

(文・糸井賢一)