29年間現役・親子2代で乗るトヨタ エスティマ。時間を超えてつながる想い
今回の主人公「ひろき四代目(仮)」さん(39歳)の愛車は、トヨタ エスティマ 2.4ツインムーンルーフ4WD。
1990年に未来的なフォルムと設計により「天才タマゴ」のキャッチコピーで登場したエスティマ。エンジンを床下に配置するミドシップレイアウトにより、広々とした室内空間と安定した走行性能を両立し、注目を浴びました。
今回は、お父様の愛車だった初代エスティマを受け継いだ「ひろき四代目(仮)」さんの物語を紹介します。
――新車から29年間現役のエスティマ…すごいです!
このエスティマは、1992年式です。私が子どもの頃に父が新車で購入しました。今は私が乗っています。実は一度手放したことがあり、別の方が乗っていた時期もあったので、4年間ほどブランクはあるんですけど。
――ひろき四代目(仮)さんのクルマ好きの原点を教えてください
興味を持ったのは、幼稚園の頃ですね。父の知人がマスタングコンバーチブルに乗っていて、乗せてもらったことがあるんです。そのとき「車が移動手段だけの存在ではない」と感じたのがきっかけです。
特撮ヒーローの劇用車も好きでしたね。「特救指令ソルブレイン」や「特警ウインスペクター」には、3代目カマロやセラ、エスティマも出てました。でも当時の私は、劇用車のエスティマを家にあるクルマと一緒とは思っていなかったです(笑)。
――未来的なデザインに惹かれてきたんですね
そうなんです! 実は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」が大好きで、デロリアンに憧れていました。
エスティマが新車でやってきたときも「宇宙船みたいだ」と、子ども心にワクワクしたのを覚えています。未来的なフォルムに広い車内。家族みんなで出かけるのが楽しみでしたね。
――なぜ途中で手放すことになったのですか?
父が手放すことを決めた理由は、営んでいる工務店の仕事がコロナ禍の影響で減ってしまったからでした。
自営業ということもあって所有台数を見直す必要があり、稼働率の低かったエスティマを手放すことになりました。私は幼い頃から「このクルマが世の中で最後の1台になるまで乗りたい」と聞かされていましたし、辛かったと思います。
新しいオーナーは、私がSNSで探しました。譲った時点で二度と帰ってこないと思っていましたが、父は「降りるときは声をかけてね」と次のオーナーさんにお願いしていました。
――エスティマとの別れの日はどんな様子でしたか?
エスティマが過ごす新しい街を見ておきたかったので、直接届けに行きました。その街を知らないとエスティマがどうしてるか想像できなかったので。
帰り道は寂しかったですが「誰かのもとで走れるなら」と、前向きな気持ちもありました。まさか数年後に迎えに行くことになるなんて、当時は思いもしませんでしたが。
――4年の年月を経てエスティマが戻ってきたんですよね?
はい。手放してから4年経ったとき、オーナーさんから「環境が変わるので手放す」という連絡をもらいました。うれしさと同時に劣化具合の不安もありました。父としては嫁に出した感覚だったようなので、うれしい反面「もう帰ってきたの?」的な、複雑な気持ちもあったと思います(笑)。
当時と同じ道を通って迎えに行ったんです。これが最後のドライブになるかもと思っていたときと違って、景色が明るく新鮮に感じました。
――再会の瞬間、どんな気持ちでしたか?
懐かしさと安心感が入り混じったような感じです。顔を見たとき、相変わらず優しい顔をしているなと思いました。心の中で「よく頑張ったね」と「ごめんね」を繰り返しました。
自分の仕事のほとんどは、お客様とのご縁で成り立ってるんです。エスティマもそうなんですよね。帰ってきたとき「また縁がつながった」とうれしくなりました。
――過ごしてきた年月の分だけ、再会の想いも深いですね。再会後の初ドライブはどこへ?
下田の入田浜に行きました。遠浅の海がきれいなんですよ。家からの距離もちょうど良くて、峠の“天城越え”も、エスティマの素直なハンドリングのおかげで楽しめました。
帰ってきたばかりだったので、異音や走りに違和感がないかの確認も兼ねていたんです。ハンドル越しに伝わる振動や違和感を察知できるように集中し、腰から伝わってくる感覚も意識して。シートが分厚いからわかりづらいところもあるんですけど、ステアリングと音の変化に気を配りながら走りました。
――まさに愛車と「対話」されているようです
血が通っているような感覚で見てしまいますね。坂道では「がんばって!」と声をかけちゃいますし、無理をさせてしまったときには「ごめんね」と話しかけてます。初期型のNAエンジンはパワー不足を感じることもありますが、それも含めて“この子らしさ”として受け止めています。
4年間離れていたから、その分うれしかったんです。エスティマがいなくなってから、開発史や関連動画をよく観るようになりました。子どもの頃は「宇宙船や未来感」を漠然と感じていただけでしたが、あらためてすごいクルマだと思います。
――エスティマで奥様やお子さんたちとはドライブされますか?
子どもたちもそれぞれ部活や予定があって、家族全員で出かけることは少なくなりました。それでも部活の送迎はエスティマが多く、乗るたびに「やっぱりこのクルマいいな」と言ってくれます。
助手席は、誰が座るかでちょっとした争奪戦になることもあるんです(笑)。視界が広くて快適なんですよね。気がつくとカラオケ大会が始まっていたりして、にぎやかになることもあります。子どもが免許を取って「エスティマに乗りたい」と言ってくれたらすごくうれしいですね。
――これからも長く乗るために、メンテナンスや部品の確保についてはいかがですか?
お世話になっているメカニックの方からは「まだまだいけるよ」と言ってもらっています。でも正直、部品の入手状況に不安もあります。今気になっているのは、コラムシフトのショックがちょっと大きくなってきたことです。
オークションもまめにチェックしてはいるんですが、何をストックしておけば安心なのかは正直わからなくて(笑)。でも、なんでもかんでも買い集めるっていうのも違うなと。自分さえ良ければじゃなく、必要なときに必要な人が部品を使えるようになればいいなと思っています。
――これから先、愛車とどんなふうに付き合っていきたいですか?
できることなら、ずっと一緒にいたいですね。だから「なるべく壊れないでね!」って気持ちです。本当に“尊敬すべき相棒”です。
実はコンバージョンEVにも興味があって、もしエスティマが動かなくなったときは、そうしても良いと考えているんです。「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」に、古いクルマが未来の世界で空を飛んでるシーンがあるんですよ。そのとき「古い車を飛行車に大変身」といったセリフがあって、希望をもらいました。そんな未来も素敵だなと思います。
お話を伺いながら、エスティマとの場面が映画のワンシーンのように浮かび上がってきました。
再び動き出した、ひろき四代目(仮)さんとエスティマの物語。時代は変わっても、変わらぬ想いとともにこれからも走り続けていくのだと思います。
【X】
ひろき四代目(仮)さん
(文:野鶴美和 写真:ひろき四代目(仮)さん提供)
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