「憧れだったソレタコデュアル」北米転勤を機に手に入れたZ
1969年のデビュー以来、現在まで半世紀以上に渡って販売されてきた日産・フェアレディZ。
特に北米での爆発的ヒットを機に『Zcar』の名を世に知らしめた初代モデルは、現在でも国内外を問わず多くのファンに愛され続けており、横浜の赤レンガ倉庫前広場で開催された『横浜ヒストリックカーデイ』にも初代Zがズラリと並んでいた。どれも非常にコンディションのいい車両ばかりだったが、その中でも一際目を引いたのがDATSUN・240Z(HLS30)であった。
「子供のころ近所のお兄さんたちがフェアレディZに乗っているのを見て、そのカッコよさに憧れましたね。Zに乗りたいという気持ちはずっと持ち続けていたんですが、趣味に費やす時間が取れなかったり、状態のいい車体を見つけられなかったり、いろんな理由から日本国内ではそれを叶えられないままだったんです」と振り返るオーナーの井田さん。
そんな子供の頃に憧れたフェアレディを愛車にするチャンスが巡ってきたのは2017年、アメリカのオハイオに単身赴任中のことだったという。
「ちょうど時間にも余裕ができてきたころだったし、しかも単身赴任なので休日は自分の時間として使えるようになったんです」
そんなタイミングで、日本よりも湿度が低く当時の販売台数(≒現存台数)が圧倒的に多くて状態のいいZを見つけやすい環境となれば、子供の頃からの憧れを叶える絶好のチャンス。この機を逃す手はないと同僚のアメリカ人に協力してもらいながら、クルマを探し始めたそうだ。
「気になる240Zをネットで見つけたのでアメリカ人の同僚と一緒に見に行ったんです。残念ながらそのZは状態が良くなかったんですが、そのショップの奥に、隠されるようにもう1台のZがあったんですよ」
そのもう1台のZは販売車両ではなかったが「ぜひ譲って欲しい」と交渉し、譲ってもらえることになったという。
こうして「決して安い値段ではなかったんですが、それに見合うだけのコンディションだった」という1971年式ダットサン240Zと、井田さんとのカーライフが始まった。
240Zを手に入れてから、井田さんの週末はこれまで以上に充実した日々となったようだ。
「週末はガレージでZを磨き、オハイオの大自然の中を存分にドライブしていましたね」
さらには、現地のZやロードスター(日本でいうところのフェアレディSP&SR)のクラブであるZROCに加入し、オハイオでのミーティングなどにも参加。単独で走り回るだけではなく、クラブの仲間とツーリングしたり、語り合ったりしたそうだ。
子供の頃からの憧れのクルマを運転した印象を伺うと「シフトレバーを操作してギアチェンジしたり、水温計などメーターをチェックしたり、自分で操っていると実感できるところが、運転していて楽しいですね」とのこと。
とはいえ1971年式という旧車だけに、トラブルに遭遇するなど楽しいばかりではないご苦労もあったのではなかろうか?
「暑い時期はオーバーヒートするんですよ。だからインターネットの通信販売でラジエターを手に入れて自分で交換したんです。交換作業なんて自分でできるのかな?と不安でしたが、無事に交換できて、オーバーヒート症状もおさまりました」
オリジナル度の高そうな井田さんの240Zだが、長いボンネットを開くと、本来のSUツインキャブレターから、Zで言えばスカイラインGT-Rに搭載されたS20型エンジンを搭載した『432』などに採用されたソレックス製(PHH40)に変更するカスタマイズもおこなわれている。
「オリジナルを保ったまま乗るか迷ったんですけど、Zに憧れるキッカケとなった子供の頃に見た近所のお兄さんたちが乗っていたZは、当時のカスタマイズの定番『ソレタコデュアル』仕様だったんですよ。『ソレタコデュアル』の音が、僕にとってはZに無くてはならないモノだったので、その部分だけはカスタマイズしています」
ちなみに『ソレタコデュアル』とは、ソレックスキャブレター、タコ足、デュアルマフラーを装着した状態を示す。
そして井田さんがいう音というのは、いわゆるマフラーから発せられる排気音はもちろん、純正SUキャブとは異なるソレックスキャブの吸気音に魅力を感じるクルマ好きは当時も、そして現在も少なくない。
しかし、ソレックスキャブは元々レース用エンジン向けに開発されたキャブレターであり、調整できる範囲が広く、元のSUキャブと比べると「気難しい」傾向を持つと言われている。
そのためソレックスキャブの調整は精通したプロのメカニックが行うことが多いが、井田さんはその作業も自分でおこなったそうだ。
「近くにソレックスキャブを調整できるショップもなかったので、インターネットでやり方を検索して、シンクロメーターや空燃比計、それからジェットなどの部品を買い揃えてガレージで調整したんです。はじめはボコボコいってましたが、ジェットの交換と試走を繰り返すうちに、いい感じに走ってくれるように調整できました。ジェットの番手(サイズ)を1段階変えるだけでも変化してくれるので、楽しい作業でしたね!」
一昨年、そんなオハイオでの生活に終了が訪れたものの、手に入れて5年が経過し愛車と呼ぶに相応しい存在となった240Zを手放すはずもなく、井出さんが日本に持ち帰ることにしたのは当然だろう。
「日本に戻ってからは、登録するのに必要な右側ミラーの装着やkm表示のメーターへの変更などを自分でおこないました。ミラーは右ハンドルの豪州仕様の純正ミラーを取り寄せて付けたんですが、右ハンドル用なのでミラーの角度が合わず、いろいろ加工してみた結果、凸面鏡を追加して後方視界を確保しています」
実際の登録はプロショップに依頼したそうで、キャブレターやマフラーは『ソレタコデュアル』のまま登録してもらったそう。
「登録と共にキャブの調整もしてもらったんですが、プロはさすがですね! 自分の調整でもかなりいい状態だと思ってましたが、さらにいい状態に調整してくれて、ますますZがいい音を奏でてくれるようになりました」
日本で乗り始めてほぼ1年が経過。井田さんのご実家にはガレージスペースがあり、週末になるとご実家に足を運んでZをいじったりドライブに出かけたりしているという。
「オハイオではZROCに属したことで楽しいZカーライフを送れたので、日本でもCLUB S30のメンバーになりました。今回のイベントもCLUB S30の仲間と共に参加しているんですよ」
井田さんと1971年式ダットサン240Zの日本での生活は始まったばかりだ。
取材協力:横浜ヒストリックカーデイ
(⽂:坪内英樹 / 撮影:土屋勇人)
[GAZOO編集部]
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