「なんとなく」手に入れた2代目ブルーバードワゴンと30年!

  • 横浜ヒストリックカーデイで取材させていただいたダットサンブルーバード エステートワゴン

    ダットサンブルーバード エステートワゴン

ブルーバードは、国産自家用車の黎明期と言える1959年に誕生した日産のミドルセダン。現在では残念ながらブルーバードという車名を冠するモデルは絶版となってしまったが、1959年から2001年まで42年もの長期間に渡り、日産車の代表的な車種としてラインアップされていたモデルとなる。そんな歴史あるブルーバードの2代目、エステートワゴンをなんと30年も乗り続けているというのが長谷川さんだ。

「高校性の頃、クルマ雑誌のムーンアイズの広告で、黄色い3代目クラウンのカスタムを見て、『カッコいい!』って衝撃を受けたんです」
ちなみに“クラウンのカスタム”とは、カスタマイズされたクラウンのことではなく、クラウンのセダンをベースにしたワゴンのグレード名となる。長谷川さんはそれ以後、クラウンカスタムへの憧れを強めていったそうだ。

とは言え、当時の若かりし頃の長谷川さんは、旧車に乗るためのノウハウをまだほとんどお持ちでは無かったはず。旧車に乗ることに不安が無かったのか伺ってみた。
「当時、軽井沢のクリーニング屋さんで旧い国産車をカスタムして乗ってらっしゃる方がいらっしゃって、軽井沢まで実車を見学させてもらいに行ったんです。その旧車というのが、ムーンアイズのショーでアワードを取ったダットサン320のカスタムカーで、メチャクチャカッコよかったです。その時に、いろいろなお話を伺えたんですが、その話を聞くうちに、自分でも旧車を維持できるって思えたんですよ。今思えば、錯覚みたいなもんですけどね(笑)」

免許を取得し、憧れのクラウンカスタムに乗ろうと、クルマ探しを始めたものの、なかなか見つけることができない。そんな時期に、ご実家近くの旧車専門店で乗用車ベースのワゴンが販売されていたのを見つけた。そのクルマこそが、ブルーバードエステートワゴンであったのだ。
「クラウンカスタムと同じ、セダンベースのワゴンの旧車だということと、近所ということもあって、販売していた旧車専門店に見に行ったんです」

長谷川さんは、旧車専門店でそのブルーバードエステートワゴンを見ると『購入する!』と、その場で即決してしまうのであった。購入を決断した理由を伺うと「うーむ、何ですかね? 強いて言えば、2000ccのクラウンより税金が安かったから?(笑)」
こだわり抜いて1台を選ぶ旧車好きらしからぬ、現行の格安中古車を買う時のようなポップな返答が返ってきた。実際にご自身でも「当時はブルーバードエステートワゴンが欲しいという思い入れはまったく無かったです」と仰っている。このエピソードだけを切り取ったら、とてもその後、30年も乗り続けるようなオーナーだとは誰も思わないであろう。

そんなこんなで、1966年式のWP411型ブルーバードエステートワゴンを手に入れた長谷川さん。「外装は前のオーナーの手で、オリーブグリーンメタリックに全塗装がなされていて、それなりに仕上がった状態でした」とのことだが、数年後にボディの錆びが気になりだし、錆びた部分を試しにドライバーで突いて見たところ、なんと腐っていて穴が開いてしまった。
「このまま放って置くわけにはいかないので、錆びている部分を鈑金してもらい、全塗装してもらったんです」。この時に現在のボディ色にしたのかと伺うと「その時は、元々塗ってあったオリーブグリーンで再度塗ってもらいました」とのこと。現在の色に至ったのは、ある大惨事を経てからとなる。

「鈑金と全塗装のローンがちょうど終わった頃、駐車中にイタズラをされたんです」
そのイタズラが前述の大惨事で、駐車中に何と剥離剤(塗装を剥がす時に使われる溶剤)を掛けられてしまったというのだ。
「はじめはゴミでも付いているのかと思ったんですが、ゴミに見えたのは剥離剤で浮き上がった元々の塗膜だったんです。それを認識した時には、大袈裟じゃなく、本当に腰が抜けましたね」
今だからこそ笑い話として、面白おかしく当時の惨劇を振り返ってくれたが、そのショックの大きさは計り知れるものではない。

そして、そのイタズラにより、現在のボディカラーに再塗装することとなった。
「イベントで知り合った方の後輩さんが、ちょうどボディショップを始めたと聞いていて、そちらに作業をお願いしました。元色のオリーブグリーンは、今回の惨事を思い出させるので、気分を一新して別色に塗ってもらうことにしたんです」
作業を依頼した時は、何色にするのかまったくノープランだったそうだが「お願いしたボディショップは、イエロー系、特に淡い黄色をとても美しく塗るのが上手かったので、イエロー系で塗って欲しいと伝えたんです。そうしたら何色か候補の色を作って、テストピースに吹いてくれたんですよ。その中から選んだのが、現在のボディカラーです」

「一般の修理の合間でやってもらうので、1〜2年は掛かると覚悟していたんです。今回は完全に色を変えるオールペンなので、エンジンルームやドア開口部なども塗ってもらうから、当然、時間が掛かってしまいますからね。でも何と半年で仕上げてくれました。しかも、その仕上がりがとても美しい。エンジンルームは、費用が嵩むからと、エンジンを降ろさず塗ってくださったんですが、とてもそうは見えない仕上がりでした。カスタムカーのペイントでご高名なペインターさんに、エンジンルームを見て頂いたことがあるんですが、エンジンを降ろさず塗ってもらったと言うと『信じられない! どうやって塗ったの?』と驚かれていました(笑)。それぐらい綺麗に塗って下さったんです」

現在のボディカラーとなってから10年以上の歳月を経ているが、今も非常に美しい状態を保っているだけに、完全なる趣味グルマであろうと思ったら「いやいや、我が家にはコレ1台しかないので、今回のようなイベント参加以外では、日常の足として使ってます」という驚きの答えが帰ってきた。
多くの旧車オーナーは、ご家族からの反対で旧車に乗ることを諦めたり、日常用として別のクルマを用意するなどのパターンが多いと思うが、今回のイベントに同行されていた奥様は、このブルーバードを購入する時から一切反対することはなかったそうだ。

「今、付けているシートカバーは当時モノのデッドストック品で、ブルーバード用の専用品ですけど、乗り始めた頃は嫁さんが手作りしてくれたシートカバーを付けていました」。というエピソードからもわかるように、奥様は長谷川さんが旧車に乗ることに対してとても協力的だったようだ。
そんな話を聞くと、奥様も旧車がお好きなのかと思うが、そうでもないようで「旧車にはまったく興味はないようです。でも自分でも、今どき風に言うところの『推し活』の趣味があるからなのか、私の趣味でもあるブルーバードには、干渉してくれないでいます」

とは言え、今回のように長谷川さんの趣味である旧車のイベントにもよく同行されるという奥様。
「一緒に参加することもありますが、会場次第ですかね。会場の近くに私が楽しめたり、時間を潰せる場所があるなら、今日みたいに一緒に出かけるんですよ」とは奥様。この日も、長谷川さんは会場内で旧車仲間との話を楽しみ、奥様は赤レンガ倉庫でグルメやショッピングを楽しむつもりだということだった。
取材班のリクエストに応えて、ベンチシートに仲良く座ってニッコリ〜の写真は、こちらまでつい笑顔になってしまうほどHappyな雰囲気。ぜひこれからもずっと乗り続けてください!

取材協力:横浜ヒストリックカーデイ
(⽂:坪内英樹 / 撮影:土屋勇人)
[GAZOO編集部]

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